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通信機の電子音が小屋に響き、レオンはエリスの手を握ったまま、鋭い視線をそちらに向けた。エリスの浅い呼吸と暖炉の微かな音しかない静寂の中、世界政府からの連絡が鳴り響く。こんなタイミングで、何を告げるのか。彼は一瞬、彼女の手を離し、通信機に手を伸ばした。
「こちらレオン。状況を報告しろ。」
彼の声は無感情だったが、胸の奥には期待と不安が混じる。
通信の向こうから、落ち着いた男の声が返ってきた。
「護衛対象エリスの寿命に関する解決策が完成した。特効薬を至急送る。」
レオンは一瞬、言葉を失った。
「特効薬……?」
男は淡々と続けた。
「人智を超えた人類を作る計画は、エリスで凍結されたと思われていたが、極秘裏に継続されていた。彼女と同じ新人類が、他に3人誕生していた。その3人の協力により、寿命の問題を解決する特効薬の開発に成功した。薬は既に輸送中だ。到着まで待機しろ。」
通信はそこで途切れた。レオンは通信機を握りしめ、呆然と立ち尽くした。エリスの「寿命」が解決できる。彼女が生きられる。そんな希望が、戦場では決して感じなかった熱となって胸に広がった。
彼はエリスのベッドに戻り、彼女の手を再び握った。エリスは弱々しく目を開け、不思議そうにレオンを見つめた。彼女の青白い顔には、かすかな疑問が浮かんでいる。レオンはふと思い出したように、口を開いた。
「元気になったら、湖に泳ぎに行こう。近くに綺麗な湖があるんだ。」
エリスは一瞬、目を丸くし、穏やかに微笑んだ。
「元気になったらね。」
彼女の声はかすれていたが、どこか温かかった。
そして、エリスはゆっくりと瞼を閉じた。彼女の呼吸は浅く、静かだった。レオンは彼女の手を握り続け、特効薬の到着を待った。彼女の「寿命」が尽きる前に、希望が間に合うことを信じて。
翌朝、レオンは遠くから響く車のエンジン音で飛び起きた。窓の外を見ると、埃を巻き上げながら黒い車が小屋に近づいてくる。とうとう来たのだ——特効薬が。彼はベッドのエリスを一瞥し、急いで外に出た。
車から降りてきたのは、黒服の男。以前、エリスを連れてきたリーダーだった。男はアタッシュケースを手にレオンに近づき、無言でそれを渡した。レオンはケースを受け取り、すぐに中を確認する。銀色の注射器と、薬液の入った小さな容器が収められている。
黒服の男はレオンを見やり、ふと口を開いた。
「ずいぶん雰囲気が変わったな、前会った時と。」
彼の声には、わずかな興味が混じっていた。
レオンは一瞬、照れ臭そうに視線をそらし、ぶっきらぼうに答えた。
「別に……変わってねえよ。」
だが、彼自身、戦場で凍りついていた心が、エリスとの時間でわずかに解けていることに気づいていた。
黒服はそれ以上何も言わず、車に戻った。レオンはアタッシュケースを握りしめ、小屋に急いで戻った。エリスの眠るベッドのそばに膝をつき、彼女をそっと見つめた。
エリスは弱々しく目を開け、かすれた声で朝の挨拶を告げた。
「おはよう……レオン。」
レオンはケースを開き、注射器を取り出した。彼女の視線がそれに注がれる。彼は静かに、だがはっきりと説明した。
「これ、特効薬だ。お前の寿命を解決できる。お前と同じ新人類が他に3人いて、そいつらが作った。もう大丈夫だ。」
エリスの瞳が揺れた。彼女は一瞬、信じられないという表情を浮かべ、すぐに小さく笑った。
「レオンの……優しい嘘、だよね……。」
彼女の声は弱く、まるで夢を見ているようだった。彼女にとって、500年の「寿命」の終わりは避けられない事実だった。
レオンは首を振った。
「嘘じゃねえ。本当だ。」
彼は注射器に薬液を充填し、彼女の腕にそっと針を刺した。エリスは小さく息を飲み、すぐに静かに目を閉じた。薬が体内に流れ込み、彼女の呼吸がさらに穏やかになった。彼女は眠りに落ちた。
レオンは注射器を置き、彼女の手を握った。彼女の小さな手はまだ冷たかったが、彼は信じた。この薬が、彼女の命を繋ぐことを。




