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エリスの「寿命」を知ってから、彼女の発作は頻度を増していった。朝食の途中で倒れ、家庭菜園で水をやっている最中に膝をつき、時には夜中に熱にうなされる。レオンは毎回、迅速に彼女を抱き上げ、ベッドに運び、濡れたタオルで熱を冷ました。だが、彼女の身体は目に見えて弱っていった。そして、とうとうエリスはベッドから起き上がれなくなった。
小屋のベッドに横たわるエリスは、かつての好奇心に満ちた輝きを失い、静かに息をついていた。彼女の白い肌はさらに青白く、呼吸は浅く、時折小さく咳き込む。レオンは献身的に彼女の世話を続けた。スープを口に運び、額のタオルを交換し、彼女が寒がらないよう暖炉に薪をくべる。彼の無表情な顔は変わらないが、動作には任務を超えた切実さが滲んでいた。
エリスはかすれた声で、ベッドからレオンを見上げた。
「ごめんね……こんな風になっちゃって。」
レオンはタオルを水で濡らしながら、淡々と答えた。
「気にするな。」
彼の声は無感情だったが、胸の奥では、彼女の弱っていく姿に締め付けられるような感覚があった。
エリスは力なく微笑み、シーツを握る手にわずかに力を込めた。
「レオン……お願いがあるの。わたしが死んでも、君は世界と終わりを共にしないで。生き続けて欲しい。」
レオンは手を止め、彼女をじっと見た。
「お前が死ぬなんて、ありえない。」
彼の声には、珍しく強い否定が込められていた。戦場で無数の死を見てきた彼にとって、エリスの死を認めることは、なぜか耐え難かった。彼女の笑顔、チョコレートに目を輝かせた姿、バイクで風を感じた瞬間——それらが消えるなど、想像できなかった。
エリスは小さく首を振った。
「レオン、わたし、わかってるよ。もう時間がないの。だから、君には生きてて欲しい。新しい星に行っても、どこでもいい。君なら、きっと大丈夫。」
彼女の声は弱々しかったが、どこか優しく、確信に満ちていた。
彼女は目を閉じ、穏やかに微笑んだ。
「こんな気持ち……知れてよかった。君と過ごした時間、全部、宝物なの。山、夕暮れ、チョコレート……君が教えてくれた世界、ほんとに綺麗だった。」
レオンは無言で彼女の手を握った。彼女の小さな手は冷たく、震えていたが、彼はその手を強く、だが優しく握りしめた。
「お前には、まだ見せてないものがたくさんある。町の市場、もっと遠くの山、星が見える夜……全部、二人で見るんだ。」
彼の声は低く、どこか必死だった。戦場では未来を語ることはなかった。だが、今、彼はエリスに未来を約束したかった。
エリスは優しく微笑みながら、彼の話を聞いていた。彼女の瞳は、弱々しくても、どこか穏やかな光を宿していた。「うん、楽しそう」と、かすれた声で相槌を打つ。
レオンはさらに言葉を続けた。
「トマトだって、ちゃんと実るまで見なきゃダメだろ? お前が植えたんだから。ナスだって、でかいの収穫して食うぞ。まだやることたくさんあるんだ。」
彼の声は、まるで時間が止まることを拒むように、必死に響いた。
エリスは静かに聞き続け、時折小さく頷いた。彼女の穏やかな顔には、500年の孤独を癒すような安らぎがあった。彼女に残された時間は、もうわずかだと、レオンも彼女もわかっていた。
その時、小屋の静寂を破るように、通信機が鋭い電子音を響かせた。
レオンはエリスの手を握ったまま、通信機に目をやった。世界政府からの連絡——こんなタイミングで、何を告げるのか。




