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月の鬼退治  作者: ペンシル カミラ
最終章 世界と螺旋
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番外編 お蝶と弥助 7

凛輪は目を見開いた後、小さくため息をついた。


「お主、わしの姿が視えるかね?」


「わ!背中に羽、もしかして天狗様?!」お蝶は驚き、口と目を大きく開いた。凛輪は続けざまに姿を見破られれて、自身の衰えを感じた。しかし、凛輪はこの場を何とか抑えなければならないと感じ、流れに身を任せることにした。弥助は目に涙を浮かべて、呆然としている。


「わしはこの山に住む者だよ、ところで貴方は何故この山に入ってきたのかな?」


「え…と、天狗様?」


「凛輪じゃ」そう言うと、彼は羽をゆったりと広げて、誇らしげな表情を浮かべた。お蝶は狐にでも化かされているのかと思ったが、自身が胸に抱く少年の鼓動や体温、頬を伝う涙がそれを否定した。少年の悲しみや安堵に似た嬉しさの感情が痛いほど伝わってくるからだ。



「お恥ずかしい話ですが…私は家の借金の支払いのために、私は金貸しに売られそうになって、家から逃げ出したのです。この山に来たのは、売られるくらいなら一人どこかでひっそり生きたかったからです」お蝶は言葉をゆっくり紡ぎだすようにして、所々声を裏返らせながら答えた。


「お主、死ぬ覚悟であったじゃろう?」


「わかりませんが、そうなのかも知れません」



「お主名前は?そしてなぜ弥助を知っとったんじゃ?」


「お蝶です。弥助君は私がいた町では有名な軽業師でした。何か月か前に弥助君が山に向かって一人歩いているのを見てから、ぱったりと姿を見なくなったので…」



「そうか…儂は滅多なことでは人を助けない。お蝶よ、弥助に感謝することじゃ。しばらく我らの小屋で暮らしなさい」凛輪はそう言って弥助の頭をわしわしと撫でた。弥助は少しずつ落ち着いてきたようだ。



「お蝶よ、お主は料理は得意か?」


「実はほとんどしたことがありません。でもこれから必死に覚えて、必ずや得意にして見せます」



「そ、そうか。弥助に今度習うがよい」



「はいっ」



お蝶は明るい返事をして、にっこりと笑顔を見せた。

凛輪は目を細めて赤い夕陽を眺めた。そして彼はなぜか先ほど見たお蝶の太ももと、着物の奥から見え隠れする湯巻が脳裏に浮かんだ。


「うむ…いや、良い返事じゃ。弥助とお蝶、儂につ…着いてきなさい」


そう言って凛輪はくるりと背なかを向けて歩き出した。




「待て…凛輪」


静かに響く、若い男の声が落ち葉を揺らした。落ち葉はつむじ風のように巻き上がったかと思うと、そこには牛のような角を持つ端正な顔立ちの男が立っていた。



つるぎか…何用か?」



「冷たいではないか。最近弟子を取ってすっかり顔を見せなくなったんでな。俺の方から会いに来たんだ」剣はお蝶と弥助を珍しそうに見ている。弥助はお蝶の前に立ち、剣の顔をじっと見つめ返している。


「二人とも良いねぇ…」剣は口を開き、妖しい笑顔を見せた。



「剣よ、お前は自分の山に戻られよ、今は立て込んで居る」


「つれないね…」



そう言って剣は再びつむじ風を起こして、姿を消した。

その後大きな風が吹き荒れたかと思うと、弥助たちは凛輪の山小屋の前に立っていた。お蝶はすっかり驚いて、自身の頬をつねって夢か否か確かめていた。


「今日は皆疲れたじゃろ、ゆっくりと寛ぎなさい」凛輪は羽を畳んで、がらり、と小屋の戸を開いた。





その頃、お蝶の住む町の検非違使けびいしの門の前に、大きな荷馬車が停まった。

門番は怪しんで、荷馬車の中を調べると、手足を縛られた権兵衛が脂汗を書いて横たわっていた。

荷馬車を運転していた男は顔が青あざだらけで、目や頬はぱんぱんに大きく腫れている。



「頼もう」与一は門番に告げた。


門番は状況が飲み込めなかったが、荷馬車の大男の様子から、無為に明日まで拘留しておくべきではないと判断した。









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