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馬車の中は、椅子やテーブル、壁は何から何まで白一色で統一され、窓枠のみ縁に鋭い銀色の装飾が施されていた。閻魔大王は白づくしの月の世の美意識はどうなのだろう、と思いつつ、向かい合わせの席にいる月の王と雑談をしていた。
そんな時、2人のいる客室に向け、「失礼致します、お飲み物をお待ちしてもよろしいでしょうか?」と声が聞こえてきた。月の王は閻魔大王の方をちら、と見てきたので、大王は「構わないよ」と言った。「入りなさい」と月の王が言うと客室に質素な小袖姿のかぐや姫がお盆に2つの升と徳利を乗せて優雅に歩いてきたので、月の王は額から冷や汗をにじませて、どう対応すれば良いか必死に考えているようだった。閻魔大王は2人の様子を見て、「フ…」と笑いを鼻から抜くと、「王、構わないよ」と助け舟を出す。かぐや姫は悪戯っぽく月の王に視線を送って来たので、やれやれ…と肩をすぼめて「大王、申し訳ないが無礼講といきませぬか…?」と打ち出すと閻魔大王は喜んで承諾した。
「お言葉に甘えさせて頂きます」とかぐや姫はにっこりと笑って2つの升にひんやりとした清酒をとくとく…と注いで王たちの机に置く。
升からは柑橘の爽やかな香りと塩の芳ばしい香りが立ち込めた。
「月の雫…」と閻魔大王が呟くとかぐや姫は「いかにも」と得意げな顔で鼻を鳴らした。
「酒を選ぶのは本当に上手いな」と月の王も諦めて酒を楽しむことにしたようである。
閻魔大王は「酒と升が足りぬな」と言って葛籠から酒坏をと灰色の瓢箪を取り出し、豪快にとぷとぷ、と酒坏に蒼い炎のように透き通る酒を酒坏のちょうど限界ギリギリまで注いだ。豪快ながら、精巧な動きを月の一同は感心したように眺めていた。