番外編 お蝶と弥助 1
とある村に、弥助という少年が住んでおった。弥助は酒を飲み、ろくに働かなない父親に代わり、村のあちこちで軽業を見せて日銭を稼ぐ毎日だった。
弥助は物心ついた頃から器用で身体が柔らかかった。ある日村を訪れた旅の軽業師達の動きを見たのをきっかけに、弥助は軽業を披露するようになったそうな。
弥助は稼いだ金を野菜や米に変えて誇らしげに父が住むあばら家に帰っていくのだった。
しかし、彼の父は亡くなった妻の着物や櫛、白粉等を質屋に入れては酒を買っては飲んだくれていた。
弥助には欲というものがなかった。
只、明日が来るから金を稼ぎ、父親が死なないように金を稼いだ。親しい友も居らず、父親だけが、唯一彼の生きる目的だった。
そんな父親は弥助が12歳のときに病で死んだ。そして、父が死ぬと弥助の家に金貸しの男がおとずれた。そして「俺はここの親父に金を貸していたものだ」とドスの効いた声で告げた。弥助は一礼した後、その男を家に上げると、湯飲みに入った酒を出した。弥助はお茶を出そうとしたが、台所には酒瓶しかなかったのである。
「どうぞ」と弥助は告げたあと、顔布が掛けられた父の遺骸の横にちょこんと座った。金貸しの男は、その光景を見て呆れたような顔をしてため息をついた。
「坊や、この家は親父の借金の形としてもらい受ける。それで親父の遺したツケはチャラだ」禿げ上がった力士のような金貸しは、山のがけ崩れのような、響くこえで告げた後、湯飲みの酒をぐいっと飲み干した。
金貸しが思った以上に旨い酒であったのか、再び呆れ顔をした。「親父の葬式も俺たちがやってやるから、坊やはどっかの屋敷に使ってもらいな」そう言って金貸しは弥助を家から静かに追い出した。そうして弥助は生きる目的を失った。
弥助は行く当てもなく、通りを歩いていると、いつの間にか誰も居ない林道に迷い込んでいた。しかし、弥助にとってはそんな事はどうでも良かった。彼は日が落ち、腹が減ったので大きな木に腰掛けてこのまま、死ぬまでこうしていようと思った。




