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月の鬼退治  作者: ペンシル カミラ
最終章 世界と螺旋
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55

 朝山が倒れる前の来栖村。そこに朝山の部下たちが送り込まれていた。

彼らは、朝山によって無力化された化け物たちを縄で縛り上げた。そして、地獄の大王が作り出した大穴に投げれば、また別の場所に飛ばされる予定であった。


「お主ら、朝山の部下だな?すると先の男は朝山か?」地に伏し後ろ手で縄を厳重に縛られている化け物が問うた。


「……その声、良綱か?」



「ああ、そうだ」



「そうか…」


良綱を縛る男は、複雑な心境で作業をこなしていった。

自身もこうなっていたかもしれないと思うと、恐ろしかった。




「朝山とその部下たちは鬼に敗れて全滅したと聞いていたがな…それが健在で主君を裏切りるとは…武士の誇りはどうした?」



「…我らは使える主君を間違えた。お前のその姿がその証拠であろう」



「我は忠誠、誇りを捨てるくらいであれば、死を厭わず。お主たちはもはや武士にあらず」




「そうかもな」




そう言って男は良綱の縄の結び目が解けないようにぎゅっと結んだ。

来栖村には土の匂いと虫の声が風に乗って漂っている。



次の瞬間、朝山の部下たちが一斉にどこかに消えた。

来栖村には静寂と縛り上げられた良綱たちだけが取り残されていた。



「くくく、一体なにがどうなっているのやら…」綱吉はごろんと仰向けに転がり月を見上げた。








 影葦は無量の命を受け、部下に野党を雇わせて村を襲わせて世の中に鬼の噂を流させていた。その理由は、無間地獄に落ちる罪人を増やし、止水に罪人の魂を食らわせ続けるためであった。鬼の噂を流させた理由は、無量が地上に生まれた鬼が憎かったからであった。なぜ無量がここまで鬼を恨んだのかは、無量自身にも判らなかったが、影葦から鬼の話を聞いたときに感情が揺さぶられた。無量は鬼たちを眺めてみたが、明らかに彼らが特別な存在であり、地球が意図的に生み出した存在であると直感した。



一体なぜ?

なぜこんな神に等しい生き物を地球は生み出す必要があったのだろうか?

今までの地球はそのような、神々しくも不自然な存在を生み出すことはあっただろうか?

いや、ない。そのような存在が、人間たちを感化して世の中を意のままに動かしていくのではないかと思うと、無量に強い嫉妬のような感情を抱かざるを得なかった。


故に無量は鬼の悪評を流させ、影葦と止水、人間たちを使って鬼を排除しようとしていた。時が来れば、止水を嗾けて、無量が望む法を天に敷かせるつもりでもあった。その法とは、善悪の基準のない世界。

自然の生き物があるがまま、自由に。それが許される世界であった。












月明かりに照らされた夜空を雷雲はうなり声をあげて進んだ。錦と白檀は美しい景色には目もくれずに先を急いだ。白檀は背中に弓と矢筒、腰には彼女が作っていた木刀が携えられていた。



そして来栖村の上空に着くと、地面に転がる何かが見えた。黒装束を着た人とも獣とも異なる何かが縛り上げられていた。そして、村人の姿は見えなかった。「みんなどこに行った…?」と白檀が問う。「…わからねぇが、探してみようぜ」錦は力強く彼女の肩に手を乗せると、少し間を開けて彼女は錦の手を払ったが、錦は口の端を上げて微笑んだ。


錦と白檀が勢いよく村に飛び降りると、鈍い衝撃と振動が響き渡る。地に伏していた化け物たちは、慌てふためき、自らを見下ろす白檀の冷たいまなざしに怯えた。


「鬼だ…殺さないでくれ」



「お前らは何なんだ?人には見えねえが」錦が化け物一体をの襟首を抓みあげ、自身の顔に近づけて問うた。すると、化け物は震えあがり、言葉にならない声を上げるだけだった。錦はため息をついて辺りを見渡すと、他よりも厳重に縛り上げられている者がいた。錦はその者を、上から見下ろしながら問いかけた。



「おい、お前らは一体なんだ?、ここの村人はどうした?」



「さぁな、教えてやってもいいが、俺を解き放て。そして俺に勝てたら教えてやろう」

良綱は乾いた笑みを浮かべた。



白檀がは身の鋭い爪でそのものの縄をぶつっ、と切り裂き雑に宙に放り投げた。すると良綱は器用に受け身を取り、近くに刺さっていた刀を逆手に抜き取った。その勇敢な様にほかの化け物は、熱い視線を向けた。


「錦、手出し無用」そう言って彼女は腰帯から、純白の木刀を取ると無造作に敵に向けて、切っ先を向けた。


「お…おう」




彼女の拙い構えを見た良綱は、呆れたような表情を見せた後間合いを詰めて歩き出す。

彼は白檀の間合いの外から一気に、彼女の胴体に素早い突きを繰り出そうとした瞬間、彼女は木刀を突き出して、相対する者の刀と腕を捉えていた。


刀は宙を舞った。

そして良綱は自身の両手がわなわなと震えていた。そして、両手が手首についていることに驚いた。周りにいたものは何が起こったのかさえ分からなかった。



「私の勝ちだ。約束を守りな」


「は、はは…村人は皆俺たちが手中にある。無事を保証してもらいたくば、我らに従え」



「村人たちは無事なのか?」


「我らが根城に戻らねば、数刻ごとに俺の部下が二人ずつ殺していく」



白檀はほっそりとした眉を顰めて木刀を腰帯に刺した。そしてうん、うんと頷くと

「なるほどね、わかったよ」と答えた。


「それならしかたねぇな、白檀よぉ」と錦は白々しく嘆いた。

二人は彼の嘘を瞬時に見抜いた。彼女らは生まれつき他者の心を読むことができたし、捕虜となっていた者が苦し紛れについた嘘は、拙いものであった。



「錦、あれをくれてやれ」白檀が顎で天を示す。その言葉を言い終わる前に、錦は雷雲から一筋の雷を地面に叩き下ろした。雷は誰もいない地面を抉った後、閃光と衝撃を轟かせた。そして続けざまに六度、雷を落とした。雷を間近に落とされ、白檀と相対していた良綱は戦意を失い、愉快そうに腹を抱えて笑った。



「はっ、ははっ、化け物どもめ…手に負えぬわ」

そして、刀を放り投げて力なく大の字になって後ろに倒れた。




「錦、そいつを縛り上げたら皆を探しに行く」



「やれやれ、縛りなおすのめんどくせぇ」

錦はそう言って解かれた縄を拾いに行った。







「やった…錦と白檀の姉ちゃんが来てくれたっ」


「それにしても、さっきの奴ら勝手に争ってどっか行っちゃったな、訳が分からない」



桃市は村を見下ろせる高い木の上で村を見張っていた。

桃市が見張り役に出ようとしたとき、祖父や村人から反対されたが、彼は退かなかった。

「木に登るなら、身軽な方がいいだろ?それに村長の孫だ、みんなの為に仕事をさせてもらいたいんだ」

そう言って啖呵をきって避難先の洞窟を飛び出した。彼の祖父病体に鞭打って避難したあと、ばったりと倒れて泥のように眠っていた。村長が目を覚ましたら、他の村人はきっと大目玉だから、追いかけようとしたが、桃市が韋駄天のような速さに誰も追いつけなかった。







桃市は村に駆け寄り、彼らに駆け寄りたかったが、ぐっと堪えて木の上で村を見守った。

安全であれば、村人のところに戻って知らせなくてはならない。





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