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月の鬼退治  作者: ペンシル カミラ
最終章 世界と螺旋
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止水、影葦を裏で手引きをする形で操っていた存在は敗北が濃厚になり激しく憤った。彼は積み重ねたものが無に帰していくのを見て、深い喪失感に苛まれた。





遥か昔、彼は宇宙と命の理の一部と呼べる存在だった。ある時、彼は一つの惑星を見つけた。それは紅く、鮮やかに煮え立つ惑星が、冷えて固まり、やがて水に囲まれていく星だった。その後も彼は。地球の奇跡の連続を目撃、僅かに快、驚きの感情を持つに至る。そして、彼の感情は地上に生命が誕生したことを機に大きく成長することとなった。



「人とはなんと面白い生き物であるだろうか。世界の理を知らず愚かであるが、幾多の可能性を持っている。わずかな縁で輝きだす者、挫折する者。滅びと再生を繰り返す社会と国」


彼は可能性が無作為に作り出す物の尊さを愛した。そして外部が人間を支配して、型にはめようとしているのが憎かった。現在、天界と地獄が手を組んで地上に干渉を始めて、大切に育てた止水と影葦の可能性が閉ざされた。彼らならば、既存の規定を壊し、可能性に満ちた世を作ると確信が音を立てて崩れていくかのように思えた。



彼は、自分の力を自分の為に使う決心をするに至る。

あからさまな介入は望むところではなかったが、彼の自我は強くなり、不合理な感情と信念に感情に支配されていた。


「ふふ、これが心か。面白い…ここまでくれば、自身に名前くらいあってもよいだろうな」






「大王よ、影葦を捉えた後、如何に致せばよろしいか?」

朝山は天に向かって問いかけた。その声は屋敷の天井に吸い込まれていったが、きっと届くに違いないと彼は思った。しかし、大王からの返答はない。




「我が名は 無量 これから私に従えてもらう」

朝山に無量の声が聴えてきた。



「断る。六郎を唆そうとしていたのはお主か?」



「いかにも。従わなければ命をもらう。どうだ?死ぬのは恐ろしいだろう」




「ああ、恐ろしいよ」




「ふふ、そうだろう、ならば我の言う通りにするがよい。大王や死から解き放ってやる」



「そうか、それはすごいな」



「そうだろう、ならば、影葦を除く全てを斬れ」



朝山の前に、何か細長いものが降ってきた。

それは音もなく畳に突き刺さり、黒い煙が立ち上っていた。

朝山はその何かに目を向けると、地に伏した影葦がにたりと笑った。



そして、朝山は持っていた木刀で畳に刺さった刀を撥ね飛ばした。

黒い刀は座敷の柱に深々と突き刺さる。




「楽しくないんだよ…仲間を斬るのは」

朝山はため息をついて呟いた。






「…痴れ者め」


朝山はその言葉を聴いた途端、呼吸が苦しくなり、息を吸うことも吐くこともできなくなった。

朝山はここが自身の最期だと悟った。




(地獄の大王よ、六郎ならび、俺の部下たちのことをお頼み申す)

朝山は大王に後事を頼むと、六郎に向けて歩みだす。

六郎は朝山の異変を感じ取り、彼に駆け寄ると朝山はわずかに笑みを浮かべ、六郎の胸に右手の拳を当てて崩れ落ちる。六郎は朝山の身体を抱き支えた瞬間、足元にぽっかり空いた大穴に飲み込まれた。

座敷には縛り上げられた影葦と呆然とする孤児たちが残った。無量は黒い空間で、己の望む未来のために、可能性を操作したことに対する後悔と達成感を噛みしめていた。そして、笑いが込み上げ、気が済むまで笑い転げた。光さえも捉える闇の空間に彼の笑い声は圧縮され、誰にも届くことはなかった。

 

朝山の部下は駿河の国と周辺に散らばり、影葦の部下と戦っていたが、一斉に地面に空いた穴に飲み込まれていった。閻魔大王は朝山の願いを聞き届け、彼の部下を地獄に避難させたのであった。残された影葦の部下は野山に逃れる者、村人に見つかり豆を撒かれ追出される者など様々な顛末を辿ることとなる。







錦と白檀は雷雲に乗り、来栖村に向かって移動していた。

真夜中の潮風は冷たく吹き荒れ、夜空は澄み渡る蒼黒に金色の月が浮かんでいる。

雷雲はパチパチとかすかな音を立てながら、二人を乗せて闇を割いて飛んだ。


白檀は来栖村の桃市が心配でならなかった。

錦は自身の背中に掴まる彼女の手から、その感情が痛いほど伝わってきたので、雲の速度を可能な限り早く飛ばした。


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