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月の鬼退治  作者: ペンシル カミラ
最終章 世界と螺旋
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来栖村の襲撃から半日前。

かぐや姫達は月の団子を食べていた。

月の団子はかぐや姫を成人の姿に変え、お爺さんとお婆さんは若夫婦と言えるほどに若返っていた。黒は地上に瞬間移動に使う神通力を得るために月の団子を食べてから半日、本日二個目である。


「黒ちゃん、その団子はお腹すかなければ無理に食べなくても良いよ」


「え?食べられますよ、折角なので頂きます」


「おぉ、なら良いんだけど」


(この団子、一個食べれば一ヶ月、飲まず食わずでも問題ないんだけどな…)


「いや〜本当に美味しい団子です。こんなのを食べられる王族は羨ましい…」黒は月の団子を大切に味わっている黒からは後光が差していた。



「それがね、今の王はその団子に飽き飽きしてるんだ…」 



「え?こんなに美味しいのに?」




「うん、王は責任を持って団子を食べきらないといけないからね…」



「なるほど、それで沢山貰えたわけですね、フフ…」黒は艶っぽく微笑む。



(こっそり持ってきたんだけどね、それにしても黒ちゃん、燃費悪くない…?)




「あなた…私達若返って驚いたけど、月の天女さん達、まぁ綺麗だこと…全部がどうでも良くなるほどに」


「ば…お蝶、今度の世に行かなくても、天女さまに会えるなんてな、ははは…」弥助は婆さんと言いかけた時、お蝶の顔が険しくなったので言い直した。



「皆さんに手伝って貰いたいことがございます」とかぐや姫は告げる。



「…何なりと申し付けください」と弥助とお蝶は頭を下げた。



「姫、団子分の働きはしますよ?」

 



「ふふ、皆いい感じだね」




「皆さん今夜、全てに‘けり’を付けます。してもらいたい事は二つ」そう言ってかぐや姫はにやり、と笑った。





「まず、一つ目、今夜月が一番よく見える場所に連れて行ってください。そこで私は月を介して悪者の動きと、本来目的の鬼たちを探します」


「それなら、この山の山頂が良いね」とお蝶が提案すると、全員が頷く。



「二つ目、私達で悪者の炙り出しの儀式を行い、敵の大元をおびき寄せます。黒には風と大地の唄を、お蝶さんは私と一緒に居てもらい、弥助さんは本丸が現れたら、後から取り押さえて貰います」



「儂にできますかな?」


「安心してください、現場で詳細を伝えます」


「風の唄とは何ですか?」とお蝶。


「一言で言えば、私の心の奥底に響く音や息吹を声にしたものです。いつでも目を閉じれば暖かい日差しと冷たい川、風に揺れる背の高い草木の光景が浮かぶのです。それを唄にするのです」


「きっと素敵な景色なのでしょうね…」とお蝶は目を閉じてつぶやいた。



「私達の儀式は人々の夢の中に現し、寝ている人を叩き起こします。そして、皆にお蝶さんの動きを真似てもらい、儀式が完了します。その要はお蝶さんに託します」



「へ?私?」突然の言葉に、お蝶は気の抜けた返事をした



来栖村に賊の頭が訪れた頃。

かぐや姫達は山の頂上、ちょうど黒と大桃が降り立った場所に到着した。


かぐや姫は茂みから鬼清水おにしみずが入っている大きな瓢箪を取り出し、弥助に託した。かぐや姫は全ての準備を終えた。



「じゃあ、各員よろしく」


「黒と若夫婦は緊張した面持ちで頷く」




夜風が吹く山頂、蒼黒の夜空に月が浮かんでいる。肌寒さも忘れるほどに美しい景色であった。月にかかっていた雲が流れ、満ちた月があらわになる。かぐや姫の左右に黒とお蝶が控え、弥助は少し離れた岩陰に身を潜めた。そして、かぐや姫は月に向けて右手を伸ばすと、月から眩い光が降る。



それと同時に日の本各地で黒装束を来た人間が、寝ている者の身体に刃物を突き立てる光景と本来探していた大鬼達と人間の間で起こった事が、走馬灯のようにかぐや姫の脳裏に浮かぶ。




(やはり、村人を殺しているのは鬼ではなく人間だ)




「黒ちゃん、いくよ」


黒は静かに頷く。

そして、かぐや姫はお蝶から借りた着物の帯を外し、着物をはだけさせ、着物と袴を脱ぐ。



さむ…」



黒はかぐや姫の身体に、思わず息を呑んだ。

(…この身体つき、反則でしょ)

かぐや姫は月に手を伸ばすと、白金色の透き通った衣が現れた。かぐや姫はその衣を身に纏い、両手をしなやかなに広げてゆっくりと歩み始めた。彼女の力で人間達の夢と私達の儀式が繋がったのが黒にもそれが分かった。



黒は大きく息を吸い込む。

そして、美しい音色の声を響かせた。

歌詞は無い、それは黒の中にある自然そのもの声である。


黒は月の団子の神通力でその声を彼方まで優しく響かせた。

眠っている草木、人々の無意識の澱に語りかけるようだった。そして、かぐや姫は身体全体を使って舞踏を始める。



眠っている人々は夢の中で黒の歌声を聞き、かぐや姫の舞に心を躍らせた。かぐや姫の美しさは非現実的なものであった。故に人々は欲情の念を抱けなかった。ただ、彼女たちの歌声と舞を楽しんだ。



そして、かぐや姫はお蝶の元に駆け寄る。



(お蝶さん、今!)

お蝶は持っていたますから一握りの豆を月に向かって投げつける。


「鬼は〜そと〜、福は〜うち〜!」と力いっぱいに叫んだ。お蝶の投げた豆は光の粒となって遥か遠くの月に吸い込まれるように消えていく。


「あらま…あんなとこまで飛ぶなんて、たまげたわ…」と目を丸くしていたが、はっと我に返えった。‘これで良かったのか?’と心配になる。


かぐや姫も枡を手に取ると、踊りながら豆を撒いて、黒が「皆で厄除けの豆撒きを!」と言って風の唄を止めた。これで儀式は終わったらしい。




「上出来ですよ」とかぐや姫はお蝶の肩に手を置いて微笑んだ。かぐや姫の衣の造形は体を隠しながら、露にしていた。相反という言葉がこれ程相応しい物はないだろう。そして、その衣は糸の一本一本が光で紡がれたようにキラキラと輝いていた。


(こんなに美しい人が夢に現れたら、縁起を担いで皆で豆を撒くだろうね…)



一瞬、月が輝いたと思うと、光の粒が雨のように地上に降りそそぐ。そして、その雨は日の本各地で暗躍している黒装束の者たちに降り注いだ。





来栖村近辺。

黒装束の侍たちが、捨て駒にした部下の死体を隠す者と、来栖村の人々全員を手に掛ける者に別れて行動していた。



突然光の粒が自身にぶつかり、身体に激痛が走った。



黒装束の一人が負傷がないか確認する為、月明かりの下に行くと、周囲にいた者達がざわつきはじめた。


月明かりに、毛むくじゃらで大きな2本の角が生えた恐ろしい形相の化け物が立っているではないか。



「な、なんだお前…化け物がいるっ!」



「い、いや、お前もよく見ると何か変だぞ!」


「は!?何でだよ」


死体を片付けていた黒装束の侍達は、我先にと月明かりのもとに出て自身の手足を確認して、泣き喚いた。

彼らは人間とは別の何かになっていた。








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