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大きな屋敷の大広間。昼間であるが、部屋の戸を閉め切り、真っ暗な部屋の中で、初老の男が目を閉じて座っていた。
その男は大きな体格で、手の節々はゴツゴツしており、腰には立派な二本差しの刀を携えている。そして、時々独り言を呟いていたが、誰かと会話をしているように聴こえる。
「浅山からの連絡は途絶えたままだ…鬼を討ち損ねたのだな?」
「浅山を持ってしても敵わぬか」
「あぁ、使えそうな山賊に金を掴ませて、言われた通りに動かしている」
「鬼の仕業として、あと幾つの村を襲わせるつもりだ?」
「鬼が襲ってきたらどうする?」
「…そんな物があるから、何故今教える? 浅山を失うまでもなかったぞ?どう落とし前をつけてくれる…?」
「フフ…そうこなくてはな」
暗がりの中で、男は不敵な笑みを浮かべた。
鬼ケ島では錦と彼岸、白檀が協力して作った島をぐるりと囲んでいる。その様は尖ったウニの棘のようにように突き出していた。
錦の提案で島のある一角だけ、遭難者が上陸できる海岸を設けてある。そして丁寧に島から出られるように大きな船まで用意してあった。彼岸と白檀は彼の提案を聞き入れるべきか頭を抱えたが、渋々提案を飲むことにした。
その代わり、錦の雷雲に乗せてもらい、時々桃市達の様子を隠れて見に行っていた。その時に、自分たちがかつて暮らしていた洞窟に立ち寄ったり、そこに供えてある米を貰い、代わりに白檀が生み出した香木をそっと置いてきていた。彼らは決してて人と会おうとはしなかった。
自分たちが人間と関わると、人間達にとって碌な事にはならないというのが、彼らの教訓であったから。
鬼ケ島の天気は良かったが、いつものように強い潮風と大きな波しぶき、そして濁った海の深い色に白い泡が混ざり合っている。代わり映えしない景色だ。
彼らは島の眺めの良い場所に木材で作った
大きな小屋に集まっていた。中には椅子や食台、竈門等、生活に困らない程に充実していた。ただ、3人は身体が人の倍は大きいので、3人入るとだいぶ窮屈になっていた。外から見れば二階建ての平屋だが、吹き抜けの1階建ての小屋だ。
島の柵を作り終えたので、彼らは今度は島に各々の家と倉庫、洞窟に氷室を作る計画を立てていた。
彼岸は「うーん…家か…」と呟いて赤い眉毛をひそめ、燃え盛るような赤い髪を掻いた。
白檀が「私はもっと静かで、住心地の良い家にしたい、風呂め各家に一つ」と長い灰色の髪を指に巻きながら呟いた。錦は白檀の意見に「風呂、良いね」と言って賛同した。彼岸は「何から作って、同役割分担しようかな…」と思案していた。
そこに、ゴンゴン…と誰かが小屋の戸を叩いた。