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月の鬼退治  作者: ペンシル カミラ
最終章 世界と螺旋
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32

広場のおおとりは目を閉じて、ほとんど身動きをせずに佇んでいた。鳳の周りの空気は微かに熱く、鳳の後ろの景色は蜃気楼のように歪んで見える。閻魔大王が鳳に近づくと、目を開き、大きく羽を広げてから、身体を地に伏せた。


大王は鳳の羽を撫でながら「いとまがなくて悪いが、帰路につく」と労った後、何も無い宙に手をかざした。すると、何も無かった場所に巨大な扉が浮かび上がってきた。

大王は鳳に耳打ちをした。鳳の耳がどこにあるのか、月の住人たちには分からなかったが、大王が話し掛けた場所に耳があるに違いないと思った。


「俺が地獄までの道を作った、安心して飛ぶが良い」大王が鳳に語りかけると、鳳は僅かではあるが不服な表情を浮かべた気がする。

自身の力を身くびられたように思ったのかもしれない。



やがて、宙に浮いている黒鉄の扉が重みのある音をあげて開き始めた。鳳は両翼を広げ、甲高い声をあげて地面を蹴る。鳳は目にも留まらぬ速さで天を羽ばたいて、扉の向こうへと消えていった。扉が閉じると、次第に扉の輪郭がぼやけ、霧のように消えてしまった。


月の王は自身の周りにいる従者たちの顔を見渡す。皆、緊張の糸が切れたようで、顔には疲労の色が見えた。


月の王は隣にいた従者たちを労った後、会場の片付けの段取りについて尋ねてみた。従者の代表はかぐや姫が段取りを皆に周知していったと返答した。「やれやれ、抜かりがないな」と月の王は呟くと、馬車に向かって歩き始めた。





〜〜




……。


彼岸によって奈落の暗闇に落とされた侍達は落下して久しいが、地面にぶつからない。

お互いの声も聴こえず、辺りは真っ暗闇。



…。





侍達の頭領、浅山為一あさやまいいつはじっと自分が落ちる先を見つめていたが、落ちれども最期は訪れない。彼は欠伸あくびでもしてやろうかと思ったが、間抜け面で最期を迎えるのが嫌で、欠伸を噛み殺した。


他の侍達は今までの人生の走馬灯を何度も見終わった者、気を失った者、発狂した者と様々であった。やがて、急に真上に弾かれたような、衝撃という言葉が生易しい物と思えるような力に襲われた。








浅山が気が付くと、のっぺりとした岩肌にうつ伏せとなっていた。岩肌は血の匂いがする。身体を動かそうとすると、痛みもなく動いた。辺りは薄暗く、暗く赤く輝く地平線が見えるだけであった。そして、赤黒い太陽のような物が、地平線から徐々に昇る。浅山の周りには部下の侍達がふらふらと歩いたり、丸くうずくまっていたりしていたのがわかった。


浅山は自身の鎧と刀を確認すると、あちこち拉げた(ひしゃげた)鎧と腰には脇差が一振り。浅山はこの先、どうすべきか思案していると、後ろから「頭領…ご無事で?」と部下の一人が声をかけた。浅山は振り返えらずに「六郎か…この通り、何ともないよ」と答える。六郎と呼ばれた男は安堵したようにため息をつき「何より…」とだけ呟いた。部下の侍達が徐々に浅山の下に集まり始めた頃、何も無い場所から突如火柱が上がった。その火柱は山と見紛うほど大きく、辺りの暗闇を明るく照らすほどであった。不思議なことに、その火柱は虚空でそのまま留まって、辺りを照らし続けた。



人間ども…此処が何処か判るか…?




浅山達が火柱に驚いていると、真上から重く、大きな声が響いてくる。声の方を見上げると、そこには先ほどの火柱がかわいく見えるほど、大きな男が、恐ろしい形相で見下ろしていた。



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