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月にはとても大きく豪奢な宮殿があり、その周りには街が広がっている。今日は地獄の閻魔大王が月の王との会談があり、宮殿では着々と準備が進められていた。
宮殿は大理石が霞んで見えるほど美しい石材で作られていて、長い廊下には火鼠の毛を編んで作られた絨毯が敷かれ、宮殿の中にはこの世のものとは思えないほど、煌びやかな工芸品が並んでいる。宮殿の天井には星々が天の川のように連なり、優しく室内を照らしている。宮仕えの男女が会談の間に畳を敷き、豪奢な工芸品を質素な焼き物の壺に取り替え、花瓶にはわざわざ地上から取り寄せたススキを生けていた。
官女の1人が謁見の間を開けて「大王のお通りである」と告げると作業をしていた宮仕えの男女は道を開けて跪いた。ただ一人は大王の通り道に立ち、大王が近くに来るのを待っていた。大王は仕立ての良い紺色の和服を身に纏っている。あまりにも質素な出で立ちと、大王に対等に接する者がいる事に、官女達の表情は様々であった。大体は何かを察して眉間に皺がよる者、目を硬く閉じて怯える者に分かれているようだ。
謁見の間にぴん、とした緊張が走った。