19
洞窟の岩肌は冷たいが、大きな木を組みあわせた焚火は空気を暖め続け、燃え尽きる様子もない。寒い夜であったが、彼らは少しも寒そうにしていなかった。
太郎は彼らの着物がとても気になった。なぜなら黄色と黒の縞々柄の腰巻と羽織が特徴的であったからだ。
「君たちの着物は一体どうやって作ったんだい?」と尋ねると、「羽の生えた、鼻の長い奴から貰ったんだ、作り方は知らない」と赤い瞳の大男が答えた。
「ふむ、それは天狗かな…」
「そいつが、ついて来いって言ってたんだと思うけど、俺たちがでかくて、奴の入っていった不思議な穴に潜れなくてさ」と言って赤い瞳の大男は少し悲しそうに笑った。
「そいつは私たちの事、どうしたものかと途方に暮れてさ、仕方がないから着るものだけ持ってきたんだ」と大きな女が補足した。
「なあ、太郎、ここまで喋れるようになったんだ、俺たち名前が無いと不便だよな?」と黄金色の髪の大男が話を変えた。
「よし、そなたは彼岸、君は錦、そして白檀…如何かな?」と太郎はスラスラと名前を付けていった。
「太郎、白檀ってどんな意味があるの?」
「そうそう、あと錦って何だ?」
「彼岸も頼む」と彼らは興味深そうに尋ねた。彼らは大きな瞳を輝かせて、そわそわしながら太郎の言葉を待っていた。
……
……
そうそう、その時簡単そうに付けられた名前だったが、我らの名前には幾重もの意味と願いが込められているものだろうかと感心したものだ。翌朝になると、太郎は小さな子どもを背負って村に帰っていった。
帰り際に太郎は、俺たち小さい者には余り近寄らぬよう忠告していった。どうやら小さい者は臆病で、狡賢く、欲深いからだとの事だった。きっと俺たちが嫌な思いをするだろうと。
俺達は一応、それから人間たちに会わぬように山の頂で暮らしていたが、
ある日富士の山に修行に訪れた坊主とばったり出くわしてしまった。
その男は我らを見ると、血相を変えて山を駆け下りていったが、次の週には武士やら有名な坊主がぞろぞろと我らを探して回るようになっていった。
「なんだよ、あいつらさぁ」と富士の頂きから少し降りた場所にある洞穴で錦は頭を掻きながら言った。
「私たちを探し回ってるけど、どうしたものかね」と白檀は彼岸の方を見て尋ねると「追っ払うに一票」と錦が目を見開いて、口を大きく開けて言った。
「お前の意見は知ってる、彼岸に聞いたんだけど」と言って白檀は欠伸をしている。
「このままやり過ごそ…」と彼岸が話し始めたとき、「ガシャッ」っと何かが、落ちてくる音と悲痛な叫び声が聴こえてきた。
どうやら、足を滑らせた人間が我らの隠れ家の近くに滑り落ちて来たようだった。