2話 少女の勇気
静まり返った店の中を我が物顔で闊歩する二人の男。
片方は小さい背丈ながらも豊満な体系の男。
そしてもう片方は2メートル以上もある巨体を持った筋骨隆々の男。
巨体の男は肥満の男の後ろをついてくるような歩き方をしているため、二人の上下関係もなんとなく分かる気がする。
「おやおや、こんな小さな店もうとっくに潰れてると思っていたが……。まだしぶとく営業していたのか」
肥満の男が嫌味で憎ったらしい笑みを浮かべながらそんな事を言う。
店側と客側という立場が無ければ、口を開く前に殴りたくなるような、それほどまで憎ったらしい笑みだった。
「こんなボロくて薄汚い店、さっさと私にでも売って金にしてしまえばいいのに」
「何度来ようが、お前なんぞにこの店はやらん」
それまでずっと黙っていた店主が沈黙を破った。
店主の顔にはさっきまでの優しさは無く、男に対する怒りや憎悪のみが感じられる。
「この店は俺達家族の宝だ! その価値も分からんお前に、この店を譲る気は毛頭ない!!」
おそらく二人組の男は地上げ屋かなにかで、この店もしくはこの土地を手に入れるためわざわざ嫌がらせをしに来たのだろう。
さっきまで食事をしていたナイトは、この重苦しい空気感と言い争いに挟まれた気まずさ故に、フォークを咥えた姿勢のまま固まってしまった。
「譲る気はないか……。そうは言っても君たち最近稼ぎが悪いって聞いてるよ。店を譲ってくれさえすれば、それなりの金と新しい働き口くらいは用意してやろう。どうだ? 悪い話じゃ無いと思うんだが」
「そういう問題ではないと、何度言ったら分かるんだ!!」
お互い一歩も引く気配が無いまま口論は続く。
しかし、店主の主張を聞くのに飽きたのか、肥満の男がしびれを切らした。
「ええぃ! そこまで言うなら力ずくにでも立ち退かせてやる!!」
肥満の男がそう言うと、ずっと後ろで静かに待っていた巨体の男が動き出した。
「こいつらが二度と生意気な口を聞けないように、この店を荒らしてしまえ!!」
そう命令を受けた巨体の男は、ドスン……ドスンと大きな足音を立てながら店主の方へ近づき、店に設置してあるカウンターへ手を伸ばす。
「お前何をするつもりだ。やめろ! 俺がいきている限り、この店には指一本触れさせんぞ!!」
店主は恐怖で顔を引きつらせながらも、巨体の男の前に立ちはだかる。
「この店は俺達家族の宝なんだ……。何が何でも守るんだ……!」
目に涙を浮かべながら、必死に抵抗を続ける。
しかし肥満の男は、涙なんてもので心が動く人間ではなかった。
男は、まるで虫けらも見るような目で店主を見下しながら、巨体の男へ次の命令を下した。
「そんなに店が大事か。なら、代わりにお前から先に壊してやるよ」
その言葉と共に、巨体の男は腕を上げる。
丸太の様に太く硬い腕、こんなもので殴られでもすれば軽い怪我では済まないだろう。
しかし男は、一切の躊躇も無く腕に力を込めており、血管がはち切れそうな程腕が膨れ上がっている。
自分がこの巨漢に殴られる痛みを想像しながら、歯を食いしばる店主。
その時。
「もうやめてください!!!」
小さな女の子が二人の間に入り込んだ。
巨体の男も、突然飛び出してきた少女を殴るのは胸が痛いのか、振り下ろした腕を止めた。
「もう、これ以上お父さんをいじめないでください……!」
そう言いながら、少女は手に持っていた小さな袋を巨体の男へ差し出す。
「これ、あたしが貯めたお小遣いです。これあげるから、もう暴れないでください」
そん少女の行動を気に入ったのか、肥満の男は巨体の男を下がらせ、少女の方へと近づく。
「はっは! この私を金で納得させようっていうのかい? なかなかいいセンスしてるじゃないか」
ニヤけたブサイクな顔を晒しながら、男は腰を下ろし少女の目線に合わせる。
「ちなみにお嬢ちゃん、この袋には一体金貨がいくらはいっているのかな?」
「えぇと、銅貨20枚です……」
少女のその言葉を聞いた瞬間、男の表情が一変した。
さっきまでのニヤついた笑顔が嘘かのように、男は怒り狂っている。
「銅貨20枚だと!? そんな小金でこの私を買収できると思われていたとは! 実に舐められたものだ!!」
肥満の男はそう声を荒げながら、少女の持っていた袋をはたき落とす。
落ちた袋からはジャラジャラと硬貨が漏れ出し、地面へ撒き散らされる。
少女は怯えながらも落ちた硬貨を拾おうとする。
だかそんな少女を前に、まるで見せつけるかの様に硬貨を踏みつける男。
それでもまだ気がすまないのか、男は少女を怒鳴り散らし続け、ついには暴力を振るおうとする。
「いいか! この世界は所詮金が全てなんだ! 大した金も稼げていないお前らが、この私に歯向かってくるんじゃない!!」
男が少女に平手打ちを食そうとしたその瞬間。
『ガシッ』
一人の少年が男の腕を掴んだ。
ここまで気分のいい話がないですが、次のお話で一段落つくので、そこまで付き合っていただけるとありがたいです。