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98. 最後のダンスの相手



 足を気にせずとも、遠慮なく踊れる。

 その父に感謝しつつ、リアナは少し緊張を解く。



「リアナ、大丈夫か」

「えぇ。でも、あと何人踊れば、解放されるのかしら…」



 ギルバートと踊った後は、エドワードと。

 侯爵家の足は踏まずに済んだことに、とても安心した。


 父なら多少は踏んでも許してもらえるので、少し楽にさせてもらう。

 早くダンスを終え、視界の端に見えたスイーツを堪能したいのだが、まだ父で三人目。



「この後、二人控えている。その二人以外とは踊らなくともいい。ギルはそう言っていたぞ」

「なら、まだ頑張れそうだわ」



 残りの人数がわかり、リアナは少し肩の荷が降りる。

 自分が緊張しないように、ギルバートは見知った人物のみとしかダンスをしなくていいように気を遣ってくれた。


 次に自分と踊るとすれば、レオンだろうか。

 授業でも何度か踊っていたので、踏むことはなさそうだ。


 最後の一人は、マルクスだろうか。

 だが、爵位を考えれば、最初の方に踊る気がする。


 誰なのかわからないが、足を踏まないように気をつけよう。

 


「そのドレス、美しいな。リリーが傍にいてくれるようだな」

「そうね。家族三人で踊っているみたい」

「それは、幸せなことだな」



 ダリアスは、リアナのドレスの刺繍に気付いたようだ。

 嬉しそうに頬を緩めている。


 ダリアスもリアナも、藤の花といえば、母のことを思い出す。

 それをわざわざ用意してくれたカロリーヌには、とても感謝している。


 母も生きていれば、きっと一緒に喜んでくれただろう。

 少し寂しいが、このドレスのおかげで、これからも頑張れそうだ。



「リアナ、あと少しだ。頑張れ」

「頑張るわ」



 父と踊り終え、リアナの元へレオンが現れる。

 レオンが優しく微笑むのを確認すると、リアナは手を差し出す。



「リアナ、今日も一段と美しい。この私に、美しい一輪の花に触れる許可を」

「はい、レオン様」



 いつもと少し違う挨拶の言葉に、少し驚きながら、挨拶を受ける。

 ホールへ戻ると、曲が流れ出し、レオンとゆっくりと踊り始めた。


 授業を重ねたことで、すっかり慣れたレオンとのダンスに安堵していると、レオンはガラスを横目に見ながら、話し始める。



「今回のガラスは、かなり大きな作品だね。このお披露目会が原因で、このガラスが屋敷にあるのが貴族のステータスになりそうだよ」

「それは…どうでしょうか?確かに、美しいですが」

「ギルバート様がお披露目したからね。皆、欲しくなるだろう」

「商会にとって、良いことです」



 貴族のステータスになるかはわからないが、商会が賑わうのはいいことである。

 今回、お披露目会に招待したのは、どちらかと言えば、身内寄りの貴族であると聞いている。

 そこから、どう他の貴族に広がるのかは、少し想像つかないが、商会にとってはいい影響を与えそうで嬉しい。


 リアナが密かに喜んでいると、レオンは優しく笑いかける。



伯爵家(うち)の本邸にも、作ってもらおうかな。クレアが喜びそうだ」

「喜んでいただけるのなら、頑張らせていただきます」

「あぁ、楽しみにしているよ」



 クレアの別荘宅で作らせてもらったが、今度は本邸にガラスを取り付けるそうだ。

 できれば、レオンとクレアに作るガラスは、自分が作りたい。

 今までのお礼になるかはわからないが、自分に任せてもらえるのなら、全力で取り組もうと思う。



「そろそろ終わりだね。次は、誰と踊るのか知っているのかい?」

「いえ。ギルバート様が決めておりますので、存じ上げないです」

「あぁ、そうか。楽しみだね」



 ダンスを終えると、レオンはクレアの元へ向かった。


 楽しそうな目をしていたレオンが気になるが、離れていくのを止めるわけにいかない。


 リアナは一度、ギルバートの元へ戻る。



「リアナ。少し、目を瞑りなさい。リアナのために、素敵な相手を用意したのでな」

「わかりました、ギルバート様」



 楽しそうな目で笑うギルバートに、リアナは少し苦笑しそうになる。

 いつも父をからかう時にしていた目に似ており、今は、自分が対象らしい。

 リアナはその場で、一度、目を瞑る。

 周囲の歓談の声と笑い声が聞こえ、各々楽しんでいるようだ。


 その中で、靴音がこちらにまっすぐと歩いてくる。

 その靴音はリアナの前に止まり、目の前から、服の擦れる音がした。



「もう開けても良いぞ」



 ギルバートの声に、リアナはゆっくりと目を開ける。

 想像すらしていなかった、目の前にいる人物に、リアナは瞠目する。



「美しい御令嬢。私に貴女と踊る権利をいただけないでしょうか」



 赤髪の優しい笑顔に、少し緊張が和らいだ。

 ここ最近、互いに忙しく、前回のガラス製作以降、会ってはいなかったのだが元気そうだ。

 リアナは目の前の人物に会えたことで、自然と笑みが溢れた。



「リアナ、返事をしてあげなさい」



 ギルバートは楽しそうな目を、自分に向けている。

 どうやら知らなかったのは、自分だけらしい。

 周りの知り合いを見る限り、最後のダンスの相手を知っていたようだ。


 少し恥ずかしく思いながら、差し出された手に自分の手を重ね、返事をする。

 


「…はい、喜んで。フーベルト」



 フーベルトに導かれ、ホールへ移動すると曲が流れ始める。

 ゆっくりとしたテンポで、踊りやすい。

 ダンスが始まると、声を潜めて、会話をする。



「驚きました。まさか、フーベルトがいるなんて」

「そうか。驚かせることができて、よかったよ」



 フーベルトは、悪戯(いたずら)に成功したか子供のような目をこちらに向けた。

 なぜここにいるのかわからないが、誰よりも踊りやすい相手と、ダンスを終えることができるのはとても嬉しい。



「リアナ。今日は一際美しい」

「ありがとうございます。フーベルトも一段とかっこいいです」

「そうか」



 互いに褒め合い、顔を見合わせて笑い合う。




「元気だったか?」

「えぇ。フーベルトこそ、体調に変わりはないですか?ずっと商会にいなくて、心配していました」

「そうか。寂しかったか?」

「…ちょっと、寂しかったです」



 リアナは気持ちを伝えながら、目を伏せる。


 正直、商会にいないのが、ずっと気掛かりだった。

 フーベルトは担当している仕事が忙しいようで、朝から晩まで、どこかに仕事へ出ていた。

 ルカも寂しがっており、毎日のようにフーベルトの机に座って、絵を描いていた。

 自分もルカと同じように、とても寂しかった。


 リアナは顔を上げると、フーベルトに優しい目で見つめられているのに気付く。



「それは、すまない。また今度、一緒に出かけるか」

「えぇ。ルカも喜ぶと思います」



 あれほど寂しがっていたルカのことだ。

 出かけられると聞けば、とても喜ぶだろう。

 前回のように、工房に遊びに行くのもいいが、王都へ遊びに行くのもいいかもしれない。


 リアナがフーベルトの誘いに嬉しく笑っていると、ダンスのステップが早くなり、少し焦る。



「…今のは、デートに誘ったのだが」

「え!ごめんなさい」

「即答で断らなくても」

「違います。そう言った意味じゃなくて」



 突然の発言に焦ってしまい、リアナは足がもつれかける。

 それをしっかりとフーベルトは支え、リアナは何事もなかったかのようにダンスを続けられた。


 どう伝えればいいか、リアナが悩んでいると、上の方から、笑うのを我慢しているかのような、喉が鳴る音がする。



「冗談だ。この頃、教えることができていないからな。どこまで成長しているか、楽しみだ」



 どうやら先程のは、フーベルトの悪い冗談だったらしい。

 楽しそうに笑うフーベルトの足を踏んであげたいのだが、難しくて出来なさそうだ。



「…フーベルト。この頃、リックさんに言動が似ていますね。私、リックさんと同じように避けますよ」



 リックの悪影響を受けているのか、少し前から、フーベルトはこういった言動が目立つ。

 帰ったら、リックにしっかりと注意しなければ。

 このままでは、ルカに悪影響を与えかねない。

 リアナの言葉に、フーベルトは真顔になった。



「それは勘弁してほしい。今後、気をつけよう」

「えぇ、そうしてください」



 真面目な顔をして言うフーベルトに、リアナは笑みが溢れた。



「そろそろ終わるな。傍にはいれないが、同じ会場にいる。安心してくれ」

「フーベルトが同じ会場にいるだけで、心強いです」

「それは光栄だ」



 傍にいてくれるわけではないが、その言葉だけ心強い。

 フーベルトと別れ、一度、ギルバートの元へ戻る。



「どうだったね、リアナ。最後に、良い相手を用意しただろう」

「お気遣いありがとうございます。緊張がほぐれました」

「そうか。それは良いことをしたな」



 楽しそうに笑うギルバートに、リアナもつられて笑みが溢れる。

 父の娘である自分を、よく気遣っていただけているようで、嬉しいような申し訳ないような気持ちになる。



「もう踊らなくてもいい。だが、夫人達と話す必要はある」

「…頑張ります」

「カロリーヌとリーゼンフェルト公爵夫人、そしてレオンの妻が傍にいてくれる。困ることはないだろう」

「心強いです」



 この後は、夫人たちと歓談する必要がありそうだ。

 机に乗るスイーツを楽しめるのは嬉しいが、共通する話題が浮かばない。

 しかし、その自分に対して、頼もしい人達が助けてくれるようだ。



「リアナ、行きましょう。大丈夫、私がいるわ」

「ありがとう、クレア。とても頼もしいわ」



 クレアの言葉に、リアナは笑みを返す。

 迎えに来てくれた、楽しそうに笑うクレアと手を繋ぎ、リアナは、夫人達のいる机へと向かった。



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