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96. 侯爵家のお披露目会



 リアナは馬車に揺れながら、窓から見える外の景色を眺める。

 少しだけ楽しみにしていたお披露目会が、今はとても憂鬱だ。


 その原因を考え、本日何度目かわからないため息をついた。



「リアナ、大丈夫だ。俺がそばにいる」

「……それでも限界があるでしょう。ダンスを踊ることは、避けられないわ」

「それは…頑張ってくれとしか…」



 夜会は避けられたのだが、なぜか、ギルバートはダンスを踊ることにしたらしい。

 ガラスを見て、楽しむだけでは駄目なのか。

 父にそう言ったのだが、そういうやつだと言われ、少し父の気持ちがわかった気がした。



「…高位貴族ばかりなのに…。救いなのは、知り合いがいることね」

「そうだな。私も久しぶりに会えるので、少し楽しみだ」



 今回のお披露目会は見知った人が多く、それが救いだ。

 他の貴族は、父の知り合いらしく、会えるのを楽しみにしていた。

 父の知り合いならば、まだ気持ち的に楽だ。



「レオン様とクレアがいてくれるだけで、心強いわ」

「仲がいい友がいるといないでは、精神的にも違うからな」

「でも、アイリス様には緊張してしまうわ」

「…それも、頑張ってくれ」



 レオンとクレアも来てくれるそうだが、アイリスが来ることは、少し心配だ。

 特に、苦手なダンスを見られることが。

 きっと二人も自分と同じように、会場でアイリスに会うのを緊張しているはずだ。

 共に、乗り越えようと思う。


 馬車から降りると、リアナとダリアスは屋敷へ通される。

 案内された部屋へ入ると、ギルバートとカロリーヌが自分達の到着を待っていた。



「リアナ。すまないね、無理を言って。ドレスは妻が楽しく選んでいたよ」

「私達には娘がいないので、とても楽しかったわ」



 今回、ドレスを用意してくれたのはカロリーヌである。

 クレアではないため、一体どんなドレスが用意されるか、気になって仕方がない。

 選んでくれたのは嬉しいが、どうか、目立たないドレスであって欲しい。



「では、行きましょう、リアナさん。今日は私の娘よ」

「よろしくお願いいたします」

「カロリーヌ。程々にしておくのだぞ」

「……気をつけるわ」



 美しい笑みを浮かべたまま、カロリーヌは少し目を泳がす。

 今の間は一体、なんなのだ。

 もしかして、貴族女性は、着せ替え人形が共通の趣味なのだろうか。


 リアナは少し慄きながら、カロリーヌに連れられ、部屋を移動する。

 歩いていた足を止め、メイドが部屋のドアを開けると、中央にドレスが一着、用意してあった。

 


「これ…」

「ふふ。気に入ってくれた?」

「とても素敵です。お気遣いいただき、ありがとうございます」

「気に入ってもらえてよかったわ。では、着替えましょう」



 目立たないように願ったのは自分だが、このドレスは着たい。

 クリーム色の淡いドレスには、藤の花が刺繍されている。

 使われている色は、ドレスに合わせたのか、淡い紫色で、とても可愛らしい。


 苦しいコルセットに耐えながら、そのドレスを着て、少し驚く。



「ぴったり…」

「ふふ、それはよかったわ」



 自分の体型に、とても合っている。

 まるで、自分のサイズを知っていたかのような。


 少し疑問に思いながら、メイドの手により、リアナは化粧を施される。

 リアナは少し長くなった髪を結われながら、カロリーヌの話を聞く。



「リアナさん。今日は貴女が主役になるの。だから、ギルバートと最初に踊ることになるわ。他に一組、踊ることになっているけど、リーゼンフェルト公爵家の予定よ」

「…頑張ります」



 お披露目をする本人と、招待された中で一番爵位の高い人が踊ることは、レオンの授業で学んだため知っている。

 しかし、それが公爵家、しかもアイリス達だとわかり、少し目が泳ぐ。

 生粋の貴族と庶民の自分。

 あまりの緊張に、自分の踊る足が動かなくならないか、とても心配だ。

 どうか、無事に踊りきれますように。

 そして、犠牲者は生み出されませんように…。


 そう願っているリアナの耳元に、揺れるものが見えた。



「それはプレゼントよ。よく似合っているわ」

「…カロリーヌ様、ありがとうございます」



 耳元の鎖の先、揺れる宝石の色は赤。

 その美しい赤色のガーネットに、リアナは自然と笑みが溢れた。


 近くにはいないが、どこかで頑張っている友の笑顔が浮かび、心強く感じる。



「とても素敵よ。では、入口で招待客を出迎えましょう」

「ありがとうございます。精一杯、頑張ります」



 最後につけたピアスで、支度が終わったようだ。

 本日のお披露目会の招待客を出迎えるべく、カロリーヌと共に、屋敷の入口へ向かう。



「リアナ、よく似合っているぞ。やはり、カロリーヌの見立ては正しかったな」

「ありがとうございます、ギルバート様」

「ダリアスは、先に広間で待機しておる。先程、古い友人が来たのでな」



 どうやら、もう父の知り合いが来たようだ。

 リアナはギルバートとカロリーヌと共に、並んで立つ。


 見知った人物には、緊張せず会話ができ、初対面の相手にも、丁寧に対応できたと思う。

 ただ気になるのは、挨拶した相手が必ず、最初にかなり驚いた反応を見せたことだ。

 自分に至らないところがあったのかと思ったが、特になにも言われるわけでもなく、挨拶を終えていった。



「皆さん驚いていましたけど、どうしてでしょうか?」

「リアナさんの所作が美しいからではないかしら。ねぇ、ギルバート」

「そうかもしれないな」



 優しく微笑んでくれる二人に、リアナは心から笑みを返す。


 その後も招待客に挨拶をし、予定していた時刻が近づいてきた。

 だが、名簿で覚えた人数と挨拶した招待客が一致しない。



「後、一人か」

「そうですね。できれば、そろそろ移動したいのだけど。遅れているのかしら」

 

 

 もしかして、本日はいらっしゃらないのだろうか。

 リアナがそう考えた時、勢いよく扉が開いた。



「エドモンド、来てくれたか。来るのが遅いから、もう参加しないのかと思ったぞ」

「すまない、少し忙しくてな。だが、来ることはわかっていたようだな」

「当たり前だろう」



 ギルバートより一回り歳上であろう赤髪の男性は、少年のような表情(かお)で笑っている。

 最後の一人が無事に来たことで、安心して、お披露目会を迎えることができそうだ。

 ギルバートと言葉を交わしたその男性は、リアナの方へ檸檬のような黄色の瞳を向けた。



「エドモンド、紹介しよう。こちらがリアナだ。ダリアスに似て、腕のいい建築士だぞ」

「ほう、この子があの。私は、エドモンド・ノイエンドルフ。今は隠居の身であるので、そこまで緊張しなくともいい」

「お初にお目にかかります。リアナ・フォルスターと申します。以後、お見知り置きを」



 隠居の身とはいえ、エドモンドは公爵家である。緊張しないわけがない。

 ノイエンドルフ公爵家。

 庶民の自分が知っているぐらいには、有名な騎士の家系である。

 王城に勤める騎士団には、第一から五部隊まである。

 ノイエンドルフ公爵家が勤めているのは、第一部隊の王族の警護。


 国外への移動や公務では、必ずその姿が見られるため、庶民の自分でもよく目にする。

 第一部隊は代々、ノイエンドルフ公爵家の当主が隊長を務めており、赤髪はその家系の特徴なのかもしれない。



「うちのが世話になっているね。いつもありがとう」

「…いえ…?」



 世話になっている?

 一体なにを言っているのだろうか?

 リアナの頭が疑問に埋め尽くされていく中、エドモンドはとても楽しそうに笑う。



「美しい令嬢とこのまま話していたいが、時間がなさそうだな。では、後で話そう」

「その機会がありましたら、嬉しく思います」



 なんのことか詳しく聞きたいが、聞いても不敬にならないだろうか。

 そんなことを考えながら、会場へ向かったエドモンドを見送り、リアナはギルバートの方へ向く。



「リアナ、招待客はこれで全てだ。今から広間に移動する。エスコートを任せていただきたい」

「よろしくお願いします、ギルバート様」



 ギルバートは手を差し出すと、リアナはその手に遠慮がちに自分の手を重ねる。

 侯爵夫婦に挟まれて立つ自分に、少し恥ずかしさと嬉しさを感じた。



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