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62. 補助装置の製作



 部屋の扉が閉まると同時に盗聴防止器を作動させたギルバートに、ダリアスは大きなため息をつき、ソファーの背もたれに寄りかかった。

 そして、ギルバートを睨みつけると、ダリアスは無愛想に言い捨てる。



「ギル、お前わざとだな」

「なんのことかな」

「エドワードを呼んだのは、リアナと会わすためだろう。だから、お前には頼みたくなかったのだ」



 父の言葉に、リアナは内心焦る。


 どうやら自分と会わせるために、わざわざ呼んでいたようだ。

 きっと仕事もあるだろうに、そのことに少し申し訳のない気持ちになる。


 それが表情(かお)にも表れてしまっているリアナを一目見ると、ギルバートは少し苦笑いする。

 しかし、すぐにどこか嬉しそうな表情(かお)をして、扉の方向へ目を向けた。



「私のことですか。ダリアス様」

「エドワード、なぜここに…」



 扉を叩くことなく静かに、エドワードは部屋に入ってきた。

 その手には、木製の美しい彫刻が施された箱を持っている。



「父に部屋に来るように言われましたので。あと、こちら出来上がった品です」



 ダリアスは再び睨んだのだが、ギルバートは何も気にする様子もなく、笑顔のままだ。


 エドワードはソファーまでくると、ギルバートの隣に座り、間に置かれている机の上に持っていた箱を置く。

 そして、リアナ達に中身が確認しやすいように箱を開けてくれた。



「腕輪…」



 箱の中に入っていたのは、ひとつの腕輪である。

 しかし、金色のその腕輪には宝石がいくつも入っており、美しい彫刻も入っている大変豪華な品である。


 まさか、これを自分につけろというのか。


 リアナは自身がこれをつけた姿を想像できない。

 ただ、一切似合わないことは、一目瞭然である。


 もし補助装置として腕輪を着けるのならば、今の身の丈に合ったシンプルなデザインがいい。

 でも、願わくは、そこにフーベルトの考えた彫刻のデザインと彫刻をしてくれると、嬉しいかもしれない。

 そういえば、木には彫刻を施しているが、鉄や白金といったものにも彫刻することができるのだろうか。


 リアナはひとしきり考え込んだ後、目の前の装飾品に現実を逃避することしかできない品物であると断定した。

 そして、声を潜めて、隣に座る父に相談する。



「お父さん…。私、こんなに豪華なもの、着けられないわ」

「断じて受け取るな。ギル、これは返却する」



 ダリアスはリアナと同じく驚いた表情(かお)をして固まっていたが、リアナの言葉に正気を取り戻し、声を大にして箱をギルバートの方へ寄せて返却する。

 ギルバートはダリアスの言葉に驚くこともなく、少し楽しそうに笑っている。



「おや、何か気に入らなかったかい」

「腕輪は一番駄目だといったはずだ。しかも、なんだこれは」



 ダリアスが、木箱に入っている腕輪の宝石を指さす。


 中央に位置する一番大きな宝石に、薄ら浮き上がっているなにかを、リアナは確認する。

 先程は特に気にしていなかったが、リアナはしっかり確認すると、浮き上がっている紋章に見覚えがある。


 二人の反応に対して楽しそうに笑うと、ギルバートは事も無げに言った。



「我が家の紋章だよ」

「リアナは養子に出さないと言っただろ!」

「それはわかっているよ。しかし、もしかすると息子のエドワードとリアナが恋に落ちるかもしれないだろう」

「お前、そういうところだぞ!」



 ギルバートの言葉に、父が怒り始める。

 でも、リアナは少し困った笑みを浮かべたまま動けない。


 こういった場合、どのようにすべきなのかクレアに聞くべきだった。

 いや、でもこの先、怒りを露わにした男性を落ち着かせるという状況に、出くわすことがあるのだろうか。

 しかも、それが自分の父である場合はどうすれば。


 頭の中で悩んでいるリアナは、とりあえず落ち着くことにする。



「別にいいではないか。恋愛に身分は関係ないだろう?」

「それはそうだが、話が別だ!俺はリアナを嫁になど、出すつもりは毛頭ない!」

「だが、エドワードはいい男だぞ。自慢の息子だ」

「それはわかるが、それでもだ!」



 父に対してギルバートが言っていることは、きっと冗談である。

 それを間に受けているのか、父の怒りの声はどんどん大きくなり、息が上がっている。



「エドワード。リアナはどうかね?」

「父上。褒めてくださるのはいいのですが、あまりダリアス様をからかうのはやめてください」

「おや、てっきりお前も気にいると思ったのだが」

「出会ったばかりで、そういう話にはならないでしょう」



 エドワードは困ったように笑い、席を立つと気持ちを落ち着かせるようにダリアスの背中をさする。



「ダリアス様。父上が、いつもすみません」

「…いや。エドワードがいい男であることは、わかっているからな」

「その言葉で十分です。ありがとうございます」



 ギルバートは少し残念そうな表情(かお)をしていたが、今はダリアスを見て楽しそうに笑っている。



「すみません、リアナ嬢。父上は、ダリアス様をからかうのが好きでして…」



 エドワードは父の怒りを落ち着かせてくれ、申し訳ない表情(かお)をしている。


 エドワードのおかげで状況が改善したことがわかり、リアナは安堵から笑みを浮かべる。



「いえ、仲が良いことはいいことだと思います。しかし、わざわざ作っていただいたのに、すみません」

「いえ、あれは気にしないでください。…父上の私物です」



 リアナは腕輪について謝罪したのだが、それに対してエドワードは声を潜めて、ギルバートとよく似た目をして笑った。


 親子でもここまで性格が違うのかと思っていたが、その認識を改める。

 ギルバートもエドワードも、似た者同士らしい。


 ギルバートはひとしきり笑い終えると、喉を潤そうと一度紅茶を飲んだ。



「あぁ、笑った。ダリアス、冗談だ。リアナ、ピアスを渡してくれるかい」

「わかりました」



 リアナは箱に入れて持ってきていたピアスを机に置くと、見やすいようにギルバートの方へ向けた。

 ギルバートはそれを目視すると、隣に座るエドワードに声をかける。



「では、エドワード。よろしく頼むよ」

「承知しました」



 エドワードはピアスを箱から取り出すと、裏面に向け、机に置く。

 そして、上着のポケットから取り出した小さなケースから薄い赤色の石を取り出して裏面に当てると、魔力を流し込む。

 しばらくすると完成したのか、一度ギルバートに渡し、確認してもらっていた。


 ギルバートは一度うなずくと、リアナの方へ向き、ピアスを持つ手を差し出してくれる。



「ピアスの裏面、目立たないようにしている。試しに、魔法を使ってみてくれるかい」

「ここで、ですか?」



 ギルバートの手から、リアナはピアスを受け取った。


 魔法を使うように頼まれたのはいいが、ここは室内である。

 今回使うのは火属性の魔法で、カーテンや敷物に燃え移る危険性もある。


 リアナの質問に、代わりにエドワードが答えてくれた。



「大丈夫、この部屋はそういう部屋なので。お気になさらず」



 そういう部屋とは、どういう部屋なのですか?


 そう聞き返したい気持ちを抑え、リアナは受け取ったピアスを耳につける。


 ソファーから立ち上がると、ギルバート達に見やすい位置で、少し距離を空けたところに立つ。

 そのまま魔法を使おうとするのだが、リアナは肝心なことを思い出した。



「待ってください。私、火魔法の使い方がわからないのですが」

「水魔法の時と同じだ。イメージしてみろ」



 いつもはガラスを作る過程で、水魔法から火魔法へ自然と移行していたが、火魔法単体を使ったことはない。


 あの時は感覚でやっていたため、どうすればいいのかわからないリアナの困った声に、ダリアスは的確な指示を出す。



「水と同じ…」



 水と同じでいいのなら、まだできるかもしれない。

 要は、使いたい魔法をイメージすればいい話である。


 リアナは目を瞑ると、手のひらの上に小さな火球をイメージして、魔力を流す。

 なんだか一気に疲労感がきた気がするが、イメージ通りにできた感覚がした。

 ゆっくりと目を開けると、思っていたより大きな火球が自分の手のひらにある。



「リアナ、大丈夫かね。なんでもいい、教えてくれ」



 ギルバートはリアナの魔法を確認すると、少し心配そうな灰色の目を向ける。



「少し疲労感が。あと、想像したものより火球が大きくなりました」

「そうか。エドワード、調整を」



 リアナの返答に少し安堵の表情を浮かべ、エドワードに指示を出す。


 だが、手に持つ火球をどうすればいいのだろうか。

 作り出したのはいいが、消し方がわからない。



「失礼」



 困惑していると、エドワードは火球の上に手をかざすとそのまま消してくれた。


 エドワードはリアナの背後にまわり、耳元につくピアスを外すことなく魔力を流して、調整してくれる。



「では、もう一度作ってください」

「はい」


 

 次に作れた火球は想像した通りの大きさで、リアナは安心した笑みを浮かべ、ギルバートとダリアスの方へ向く。



「想像通りの大きさです。疲労感もありません」

「それはよかった。これぐらいはどうかね、ダリアス」

「お心遣いありがとうございます」



 ギルバートの言葉に、父は一度頭を下げる。

 それにつられてリアナも一度頭を下げると、ギルバートは嬉しそうにうなずいた。



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