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61. 侯爵家の息子



 シュレーゲル侯爵家を初めて訪れてから少し時が経ち、ギルバートの手紙を持った付き人が商会まで来た。

 ダリアスはその場で次の日程を決めると、付き人にその旨を伝え、ギルバートに一筆書いた。


 付き人が商会を出て行ったのも束の間、次に商会に届けられたのは、リアナ宛ての花束とお菓子。

 花束にはメッセージカードが挟まっており、それを読んで、リアナは笑みを浮かべた。



『リアナと会える日を楽しみにしているよ ギルバート』



 行動の早さに驚きながら、ギルバートの気遣いに嬉しく思い、そのカードを、大切に取っておこうと両手で優しく包む。

 しかし、その様子を見ていたダリアスに手に持つカードを一度没収された。



「あいつ…」



 その内容を確認したダリアスは、自身の火魔法で手に持つギルバートからのカードを燃やそうとした。

 それを、リアナは焦って取り返した。



「ちょっと!だめよ。それはとっておくの」

「いや、いらない。必要ない!」



 ギルバートからの折角の手紙を燃やすことにリアナは反発し、それに対してギルバートからの贈り物を阻止したいダリアスは珍しく粘る。



「お父さんなんて、知らない!」

「あぁ、そうか。それで結構!」



 リアナは仕事以外の会話をすることはなくなり、ダリアスも同様の対応をとった。

 しかし、商会の仕事が終わる時刻が近づくにつれ、ダリアスはリアナの様子が気になって仕方がない。

 このままの状態で家に帰るのは避けたい気持ちと、ギルバートからの贈り物を全て排除したい気持ちに苛まれる。


 ダリアスが仕事中に何度もため息をついているのに対して、リアナは余裕の笑みを浮かべて、順調に仕事をこなしている。

 リアナが仕事をしているその姿を見ながら、昔、妻と喧嘩をしてしまった時のことを思い出す。



「リリーが怒っていた時によく似ている…。だが、こんなところは似てほしくはなかった…」



 きっと、あの頃の妻とよく似た怒り方をしているリアナは、その姿勢を変えることはない。

 それがわかり、ダリアスは折れることにした。



「…すまなかった…」

「わかってくれたなら、いいわ」



 ダリアスが謝罪したことで、無事に和解したのだった。



 そして今、商会の玄関で迎えを待っている。

 少し頭の中で思い出していたリアナの耳に、父の声が聞こえた。



「来たようだな」

「そうみたいね」



 商会の前に侯爵家の馬車が迎えに来ると、リアナはダリアスと共にその馬車に乗り込む。



「今日はいないな。よかった」

「そうね。少しの間だけど、緊張せずに済むもの」



 馬車が屋敷の前に止まると、ダリアスが先に降りてリアナのことをエスコートする。

 馬車から降り、リアナは前を向くと入口でわざわざ待ってくれていたのだろう夫婦の姿が確認できた。

 その夫婦の前に立つと、ダリアスの隣でリアナは優雅な笑みを浮かべると、カーテシーを行う。



「よく来てくれたね、ダリアス」

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。またお会いできて嬉しい限りです」

「まぁ、ダリアス。私も来てくれて嬉しいわ。ギルバートが喜ぶもの」



 まずは父がギルバートとカロリーヌと話し、会話が終わるのをリアナは笑顔で待つ。


 カロリーヌがいる時の父の変わりようにはいつも驚くが、貴族相手ではこれが普通の対応なのだろう。

 ギルバートとのやり取り自体、本来はおかしいのだが、リアナはその二人の姿を見るのが好きである。


 会話は終わったのかギルバートとカロリーヌは、リアナの方へ向き、嬉しそうに頬を緩める。



「リアナ。元気だったかい」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「本日も実に美しいよ」

「嬉しい限りです、ギルバート様」



 ギルバートの声にリアナは姿勢を正すと、嬉しそうに笑みを浮かべて言葉を返す。


 たとえお世辞であっても、褒め言葉をもらえることは嬉しい。


 ギルバートが嬉しそうにうなずく横で、カロリーヌは手のひらを合わせてどこか嬉しそうにリアナを見る。



「リアナさん、前より更に線練(せんれん)された所作になりましたね。素晴らしいです」

「お褒めいただきありがとうございます、カロリーヌ様。良き先生にご教授いただいたお陰です」



 カロリーヌの言葉に、リアナは少し心の中で安堵する。


 なんとか、自分の所作はカロリーヌのような上位貴族からみても、おかしくないぐらいにはなっているようだ。

 クレアの教えてくれたことが着実に身についているようで、密かに喜びを噛み締める。



「レオンだったかな。彼の妻は、若き貴族女性にとって、良い見本になっているからな」

「それは嬉しいことを聞けました。ありがとうございます」



 リアナの言った先生が誰かわかっていたようで、ギルバートはクレアのことを褒める言葉をリアナに伝えてくれる。


 貴族のクレアより、親友のクレアといることが多いため忘れがちだが、彼女もお茶会や夜会に参加している。

 そこで立派な淑女として、頑張っている友の話に嬉しく思う。


 ギルバートとカロリーヌと少し立ち話をしていると、そこに足音が近付いてくる。

 その足音が聞こえた方向に目線を向けると、上質な服を身につけている、レオンの年代に近そうな男性が現れた。



「父上。お呼びと聞いたのですが、何事ですか」



 ギルバート様に対して、父上と話しかけていると言うことは、きっとギルバート様とカロリーヌ様の息子なのだろう。


 風が吹いてなびく蜂蜜色の金髪は美しく光っており、暗い碧眼の瞳は少し細められる。


 状況が把握できていないのか、苦笑いをするその男性はどことなく、ギルバートに顔つきが似ている気がする。



「あぁ、エドワード。ちょうどいいところに。リアナ、紹介しよう。私の息子だ」



 突然の登場に驚いたが、ギルバートの紹介に従い、リアナは笑みを浮かべるとカーテシーを行う。

 その隣、ダリアスは嬉しそうにその男性に声をかけた。



「エドワード様。息災で何よりです」

「ダリアス様もお元気そうで」



 ダリアスは前にギルバートのことは苦手だと漏らしていたが、その息子との関係は良好らしい。

 ダリアスにとって、ギルバートよりもエドワードの方が接しやすいのだろう。

 エドワードはギルバートのような自信に満ちた快活な話し方ではなく、物腰も柔らかく、話し方も優しい。

 そういったところは、カロリーヌに似ている気がする。


 エドワードと呼ばれる男性はリアナへ顔を向けると、美しい笑みを浮かべる。

 そして、右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出して挨拶をした。



「お初にお目にかかります、美しい御令嬢。父上からは、少し話を伺っております」

「リアナ・フォルスターと申します。よろしくお願いいたします」



 エドワードの挨拶に、リアナは優雅な笑みを保ち、言葉を返す。


 レオンの挨拶も大変美しい所作だったが、さすが侯爵家の一員である。

 ここまで美しい所作をとるのかと思うと、自分の今の練習の成果が霞んで見えてしまう気がする。

 もっと、頑張らなければ。


 リアナが自己紹介をすると、エドワードは優しく笑いかけてくる。



「美しい令嬢、私にその名を呼ぶ許可を頂けますか?」

「どうぞ、お好きにお呼びください」

「では、リアナ嬢と呼んでも?」

「はい。お任せいたします」



 エドワードの続く褒め言葉にリアナは笑顔を保ちながら、なんとか返事を返す。


 リアナが誰からの褒め言葉に対して頬を染めないようにと、リックが発案した練習に、毎日耐え続けてきたその成果はでているようだ。

 そのことに安堵し、リアナはエドワードを見つめ返す。



「では、私のことはエドワードと」

「エドワード様。お心遣いありがとうございます」



 エドワードの好意に感謝して、一度名前を呼ぶ。


 それに対して、少し嬉しそうな笑みを浮かべるエドワードに、ギルバートは会話の終了と部屋への移動を伝える。



「さて、ダリアス。部屋に移動しようか」

「よろしくお願いします」



 ダリアスとリアナは、その場でカロリーヌとエドワードと別れる。

 そして、ギルバートと共に、前回とは違うシンプルな部屋に移動した。



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