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49. 魔力の測定



「では、リアナ。先に降りるので、私がエスコートしよう」

「よろしくお願いします、ギルバート様」



 馬車の扉が開き、ギルバートが降りる。

 その後ろ、リアナもエスコートされて降りたが、馬車の扉から一歩踏み出し、目の前に広がる光景に顔の表情が引き攣りそうになる。



「お帰りなさいませ、ギルバート様」



 大きく豪華な屋敷と広い敷地。


 馬車の前、左右にわかれて一列に並び、この屋敷の主人であるギルバートを出迎えるべく、執事やメイドが頭を下げている。

 ここまでの規模は、自分の生きてきた中でも見たことがない。


 もしかして、ギルバート様は高位貴族なのでは…?


 リアナは緊張で体が固まっていくのを感じながら、なんとか馬車から降りた。

 ダリアスも続いて馬車から降りると、屋敷の玄関近くに立つ女性の前に立ち、頭を下げる。



「よく来てくれましたね、ダリアス」

「お久しぶりです、シュレーゲル夫人」



 柔らかい柳色の長い髪はまとめられており、父を見る碧眼の瞳は優しげに微笑んでいる。


 どうやらこの方は、ギルバートの妻のようだ。

 そのことに気付き、リアナは急いでカーテシーを行う。



「ギルバート様には、よくしてもらっておりますので。ここ最近は遠のいておりましたが、本日お会いできたことは、本当に嬉しい限りです」



 父の変わりように驚きながら、リアナはなんとか笑みを作る。


 夫人はダリアスの言葉に嬉しそうにうなずくと、視線をリアナの方へ向ける。

 こちらを向いた途端、夫人は少し目を丸くした。


 もしかして、なにかまずいことをしてしまったのか。

 夫人の予想外の反応に、リアナは内心焦る。



「まぁ、貴女がダリアスの娘ね。美しい御令嬢だこと。私はカロリーヌ。ギルバートの妻よ」

「お初にお目にかかります、シュレーゲル夫人。私、リアナ・フォルスターと申します」

「カロリーヌで構わないわ。その代わり、私もリアナと呼んでいいかしら」

「お言葉ありがとうございます。リアナとお呼びください」



 どうやら何も問題がなかったらしく、リアナは気付かれぬように息を吐く。

 嬉しそうに自分を見るカロリーヌに少し疑問を持ちつつ、リアナは笑みを浮かべた。


 カロリーヌとその場で別れると、ギルバートの後ろを付いて歩き、屋敷の中を移動する。

 広いこの屋敷は、気を抜くと迷子になりそうだ。


 迷いなく進んでいたギルバートは、部屋の前に立ち止まる。

 その扉を開け、ソファーへ腰掛けると、ダリアスとリアナも座るように促す。



「久しぶりに来てくれたかわいい後輩とその娘、二人とゆっくり過ごす。お茶の用意ができたら、そこからは人はつけなくていい」

「わかりました」



 ギルバートの言葉に、お茶の準備が整えると、控えていた執事とメイドは部屋から出ていく。

 部屋の扉が閉まると同時に、ギルバートは盗聴防止器を机に置き、魔力を流して作動させた。



「では、楽にしてくれたまえ」

「…お心遣い、ありがとうございます」



 盗聴防止器を使うということは、きっとこれから話す内容は、内密にする必要があるということである。

 なんの内容かわからないが、自分も聞いてもいいのだろうか。


 少し身構えているリアナに気付き、ギルバートは困ったように少し眉を寄せている。



「私のことを説明していないということは、今日のことも説明していないと思うのだが」

「ここに来て説明すれば、早いだろう」



 ギルバートは、少し困った表情(かお)から、至極楽しそうに喉を鳴らして笑う。

 その表情(かお)は、どこか少年のように感じる。



「全く。なぜ、そこまで嫌われているのかわからないな」

「そういうところだ、ギル」



 そのまま少し笑っていたギルバートは、笑いがおさまると、リアナに優しい眼差しを向ける。



「では、僭越(せんえつ)ながら、私から説明をしよう。今日、リアナに来てもらったのは、魔力の測定をするからだ。ここ最近、新しい属性が増えたのだろう」



 ギルバートの言葉で、リアナは理解する。


 きっと父が手紙を出し、ギルバートに話を通してくれたのだろう。

 どういった経緯かはわからないが、差し伸べてくれた手に感謝しなければ。



「ギルバート様のおっしゃる通りです。父と同じ火属性が発現しました。それもここ最近、急に使えるようになりました」

「それに加えて、リアナは水属性と召喚獣により少しだけ風属性も使えると」



 そこまで伝えていたとは思わなかったため、少し言葉に詰まって父を見るが、目が合わない。

 そのリアナを気にすることなく、ギルバートは心配するような目つきで見つめてくる。



「身体の調子はどうかね。複数持ちや魔力が多いと、身体に影響が出やすいのだが」



 真剣に心配してくれている様子のギルバートに、リアナは警戒を緩める。

 そして、ここからは正直に話すことにした。



「少し前に熱が出ました。しかし、少し寝て休めば、熱は引きました。それからは、火属性は使っていません」

「そうか。それがいいだろう」



 リアナの言葉を聞いたギルバートは目を細めて、ほっと息をつく。



「ダリアス、少し手伝ってくれ」

「はい」



 ギルバートはダリアスに頼み、部屋の端に布で隠して置いてあった装置を運んでもらう。

 それを机の上に置き、ギルバートは用意ができたことを確認すると、リアナにして欲しいことを伝える。



「では、この装置に手をかざしてくれ」

「わかりました」



 前に置かれた装置に、あまり見覚えがない。

 どこに手をかざすというのだろう?

 しかし、手をかざすとすれば、中央にある水晶の上であろうか。


 リアナが恐る恐る手をかざすと、水晶が輝き出す。

 そして、何やら装置の上に、色のついた数値が浮かび上がる。



「これは…素晴らしい!」

「…あぁ。だが、ここまでとは考えていなかった」



 その数値の意味がわかるのか、二人は表情に差が生じる。

 ギルバートは先程とは打って変わり、二段階上がったような声を出し、ダリアスはかすれた声を絞り出す。



「あの、結果はどうだったのでしょうか?」



 二人の反応の差も気になるが、この装置の使い方がわからないリアナは困惑する。


 一体、どんな結果が出ているというのだろうか。 


 そのリアナに気付き、ギルバートは嬉しそうにリアナの手を取る。



「リアナ。私は貴女をぜひ、養子に迎え入れたい」



 リアナは突然の話に頭がついていかず、なにも言葉が出ない。

 急に、養子になるように願われる理由がわからない。

 どういうことなのかわからず、父に視線を向け、助けを求める。



「何を言っているんだ、ギル!」



 ダリアスは、リアナの手を握るギルバートの手を払いのけると、持ってきていたハンカチで、触れた部分を入念に拭いている。



「水属性と火属性、召喚獣のおかげでちょっとだが風属性も適合しているな。水属性の魔力量は上の中、火属性の魔力量は上の下、風属性の魔力量は下の中。生まれが魔導士の家系と言われても、なんの疑いのない結果だな」



 ギルバートは、結果がわからなかったリアナに、詳しく説明してくれた。


 どうやら、今回のことで魔力量が増えたらしい。

 そのおかげなのか、魔導士を名乗れるぐらいの魔力量になっているようだ。



「…新しい魔力が発現した時に、魔力量も増えたというのか」



 ダリアスは眉をしかめて、ひどく憂鬱そうな表情(かお)をする。



「前は、水属性の魔力量はいくらだったのかな」

「高等学院の入学時は、中の上でした」

「ほう、二段階上がったか」



 高等学院の入学時に、測った結果を伝える。

 そう考えれば、確かに上がったが、特にこれといって体に変化はないので、あまり実感はない。


 リアナの魔力量の変化を楽しそうな声で話しているギルバートに、ダリアスは再度、釘を刺す。



「ギル。リアナは私の娘だ。誰にも渡す予定はないし、生涯、私だけの娘だ」

「ダリアス、わかっているよ。しかし、魔導士の家系である侯爵家(うち)にとっては、喉から手が出るほど、魅力的な結果なのだ」



 今、聞き間違いではなければ、侯爵家という単語が聞こえたような…。

 そして、魔導士という言葉も聞き取れた気がする。


 侯爵家、魔導士ーーーーリアナはその二つの言葉で、ある家名を思い出す。


 過去、何度も他国から、魔物から国を守り、第三騎士団、魔導部隊の隊長として戦地に立ち続けた。

 その功績から、次期公爵家と名高いシュレーゲル侯爵家。

 この国で一番の魔力と魔法を持ち、国の要として重宝されている。


 その当主が今、目の前にいるギルバートだとするならば、自分はここにいてもいいのか。


 そのことに不安になり、緊張が漏れ出ないように、ぎゅっと手のひらを握る。



「それはわかっているが…」

「かわいい後輩に、無理をさせるつもりはないよ。ただ、他家にバレても問題がないように、手を打たせてもらう」



 ギルバートは恐ろしく厳粛(げんしゅく)した表情(かお)で、ダリアスを見た。



「…ありがとうございます、ギルバート様」



 その言葉を聞き、ダリアスは少し笑みを溢すと、真剣な目つきで感謝を伝える。



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