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47. お詫びのお菓子作り



 リアナが魔力の影響で倒れた次の日。


 父に大事をとって休みを出され、ベッドに座るリアナは、手の持つ本を閉じる。

 レオンから渡された本も無事に読み終え、少し体を伸ばした。



「んー」



 今まで忙しくしていた反動なのか、何もしないという今の状況に、少し落ち着かない。

 ベッドから出ようとするだけで、ハルが小言を言うので大人しくしていたのだが、もう限界である。



「ハル、ベッドから出ていい?」

「だめだよ、寝てて」

「そこをなんとか」

「だめったらだめ」



 自分のことを監視しているハルに、許可を得ようとするが断られる。

 リアナは、おとなしくベッドの上に座り直す。



「リアナ、退屈なの?」

「そうね。本も読み終えたし、退屈だわ」

「いいものあるよ!」



 そう言うと、ルカはリアナが腰掛けるベッドに一緒に座る。

 手には何枚か紙を持っており、それをリアナに渡す。



「これは?」

「ハルが屋台で食べたお菓子!」

「よく描けているわ」

「でしょ!」



 渡された紙には、ハルが屋台で食べたと言うお菓子が色々描かれている。

 とても忠実に描かれているため、少し美味しそうだ。



「ルカはどのお菓子が美味しかった?」

「猫の形してたクッキー!」



 たくさん並ぶ絵の中から、ルカが指を指したのは、クッキーである。

 それを見て、リアナは閃き、ルカに小声で話す。



「それなら、私でも似たのを作れるわ」

「リアナ、作れるの?」

「ハルを説得したら、焼きたてが食べられるわ」

「焼きたて!」



 お菓子作りであれば、きっとハルも許可してくれるに違いない。

 そう考え、まずはルカを味方につける。

 リアナはハルの方に向くと、再度お願いをする。



「みんなに心配させたから、お詫びにお菓子を作ろうと思うのだけど」

「お菓子………」



 案の定、お菓子という単語に食いついたハルに微笑みながら、ルカの方を見る。



「ハル、僕も手伝うから!」

「え〜。どうしようかな〜」



 ルカのお願いに、ハルは少し悩み始める。

 きっと、心配する気持ちとお菓子を食べたい気持ちに、苛まれているのだろう。

 この調子だと、あと一歩といったところだ。



「ハル!焼きたてクッキー、食べたくないの?僕は食べたい!」

「う〜」



 焼きたてクッキーと聞き、完全に気持ちが揺れているようだ。

 そのハルにリアナは笑い、最後の一押しをする。



「無理はしないわ。それに、ルカと私だけでするよりも、ハルが一緒にいてくれたら、大丈夫じゃない?」

「そうだよ。ハルがいれば、大丈夫!」

「ま、まぁ。それならいいんじゃないかな〜」



 リアナの作戦は成功し、ハルに許可をもらえた。


 ベッドから立ち上がると、ルカと一緒にお菓子を作ることにする。

 それに、困ったらハルがすぐ教えてくれるので、いてくれた方が助かる。


 冷蔵庫からバターと卵を、食糧庫の棚から小麦粉、塩、砂糖を取り出し、机の上に置く。


 クッキーはハルと一緒によく作っていたので、レシピはなんとなく覚えている。


 まず、リアナは容器にバターを入れ、別の小さな容器を用意する。



「じゃあ、バターを練るから、砂糖を用意してくれる?」

「わかった!」



 ルカに砂糖を用意してもらい、リアナはバターをクリーム状になるまで、よく練る。



「リアナ、他は!」

「じゃあ、これに砂糖を入れてもらいたいわ、でも、全部ではないの。少しずつね」

「どうして?」

「たくさん砂糖を入れたら、バターと混ざりにくくなるからよ」

「そうなんだ〜」



 ルカに砂糖を少しずつ入れてもらいながら、しっかり混ぜて塩を加える。


 卵を割って容器に入れ、ルカにほぐしてもらい、それも分離しないように少しずつ加えて混ぜる。



「その白いのは?」

「小麦粉よ。お菓子やパンも作れるわ」



 次に小麦粉を加えて、リアナは切るように混ぜる。

 そぼろ状になってきたので、ボウルに押し付けるように混ぜて、生地をまとめはじめる。



「僕もやりたい!」

「じゃあ、任せていいかしら」



 ルカにまとめてもらいながら、リアナは容器と濡らした布巾を用意する。



「できた!」

「上手よ、ルカ。それをこの容器に平たく伸ばして入れておいてね」

「は〜い!」



 ルカは生地を丁寧に持ち上げると、リアナが用意した容器に手で平たく整える。それに濡らした布巾をかぶせ、冷蔵庫で休ませる。



「どうして、すぐに焼かないの?」

「それは…どうしてだったかしら」



 初めてクッキーを作った時に、自分もそれを尋ねたことがある。

 だが、ハルから説明を受けたはずなのに、思い出せない。

 考え込んでいるリアナにハルはため息をつきながら、説明を始める。



「生地をしっかり休ませないと、焼いたときに生地が縮んだり、固くなるの。教えたでしょ?」

「ありがとう、ハル」



 やれやれといった様子で説明してくれたハルに感謝し、ルカに説明する。

 ルカが初めて作るクッキーは、美味しくあってほしい。


 ハルとルカに飲み物を用意し、リアナも紅茶を飲む。

 その間に、お菓子用の棚からクッキーの型を取り出して、どれにするか選ぶ。



「やっぱり、猫の形がいい!」

「一つじゃなくて、他にも、使ってもいいのよ」

「え!じゃあ、どうしようかな〜」



 クッキーを作るたびに少しずつ増えてきたクッキーの型は、今では結構な種類になっている。

 花だけでも五種類はあり、他には動物もたくさんあって、なかなか選ぶだけでも楽しい。



「おさかなも捨てがたい…」

「じゃあ、それも使おう」



 ルカが一生懸命選んでいるのを微笑ましく見ていると、ハルも一緒になって選び出す。



「僕のおすすめは、これ」

「桃の形?」

「違う、逆だよ。ハートなの!」

「へ〜」



 ハートの形を差し出すハルから受け取り、それも使うことにする。

 リアナはお気に入りの花の型を選ぶと、そこに一緒に並べる。



 猫、魚、ハート、花。

 一貫性はないが、ひとつひとつに選んだ過程があり、いい思い出になりそうだ。


 楽しく型を選んでいると、生地を休ませてかなり時間が経っていた。

 そのことに気付き、生地を冷蔵庫から出す。


 容器を覆っていた布巾を取り、リアナはまな板に小麦粉をふるい、生地を乗せる。



「何してるの?」

「これで生地を伸ばすの。やってみる?」

「やる!」



 ルカにめん棒を渡して、生地を伸ばしてもらう。

 しかし、均一の厚さにするのが難しいらしく、どんどん平らになっていく。



「ペラペラになっちゃった…」

「そうね。じゃあ、一度やり方をみせるわね」



 リアナは平らになった生地をもう一度丸くまとめると、半分の大きさに分け、めん棒で均一に平らにしていく。


 昔は難しかったこの作業も、慣れればこんなに上手くできるのだから、ルカも練習すれば同じぐらいできるようになるだろう。



「このぐらいの厚さがいいと思うわ。ね、ハル」

「そうだね、それぐらいだといいぐらいだよ」



 ハルに合格点をもらい、嬉しくて微笑む。

 昔もよく、ハル監修の元、お菓子を作っては不合格になっていた。

 自分のお菓子作りの腕も、かなり成長したようだ。



「僕もやる!」



 ルカのために残していた生地を渡して、再び挑戦するのを見守る。

 ルカはリアナがしていたように、色々な方向から力を加えて伸ばしていく。


 ルカはこういった観察力に長けているので、飲み込みが早い。

 そのため、フーベルトも教えるのが楽しいらしく、よく楽しそうに一緒に作業しているのを見る。



「できた!」

「さすが、ルカね」

「なかなか、いい出来だと思うよ」



 今度は綺麗にできた生地に、ルカは誇らしげにしている。

 リアナも褒め、ハルも合格点を出す。


 伸ばして平らにした生地をもう一度冷蔵庫に入れて、冷やして固める。



「じゃあ、型を抜いていきましょうか」

「頑張る!」



 クッキーの型に少し小麦粉をつけ、押し込んでいく。

 押し込んだ型でできた猫に嬉しそうにしているルカを見て、リアナも嬉しくなる。


 型抜きした生地を天板に並べて、オーブンに入れて焼く。



「ねぇ、袋に絵を描いてあげたら。誰にあげるか、一目でわかるよ」

「じゃあ、ルカにお願いしようかな」

「任せて!」



 ルカにクッキーを入れる紙袋を渡して、絵を描いてもらうことにする。

 その様子を見守っていると、ハルが話かけてくる。



「リアナ、フーベルトにお礼の手紙を書いてあげたら」

「お礼?」



 お礼とは、なんのことだろうか?


 リアナは身に覚えのないことをハルに言われて、疑問が浮かぶ。

 思い返してみるが、熱が出ていた時の記憶は曖昧で、色々抜けて覚えていない。

 


「熱で倒れた時に、抱き止めてくれたのは、フーベルトでしょ?」

「待って、それ知らないのだけど」



 フーベルトに抱き止められたとは、知らなかった。

 もし、それが本当なら、お礼を伝えた方が良い。

 しかし、それを口に出すには恥ずかしい。

 


「ダリアスがそう言っていたよ。お礼として手紙を書いたら、いいんじゃない」

「…そうするわ」



 ハルの言う通り、手紙を書く方が良いかもしれない。

 そう考えると、リアナは自分の部屋から便箋を取ってくる。

 リアナは便箋を書き終えると、ルカが袋を書くのを、再び見守る。



「リアナは描かないの?」

「私?絵はちょっと苦手なのよね」

「リアナの絵は独特だからね。図面だと、あんなに綺麗に描けるのに」



 独特とは、どういうことなのか詳しく聞きたい。

 確かに得意ではないが、その生物だとわかる…はずだ。


 仕事に関連することは綺麗に描けるのだが、絵は難しい。



「リアナ、なら名前書いて!」

「それぐらいなら、任せて」



 ルカに描いた袋を渡され、リアナは名前を書いていく。



「焼けたみたいだよ、リアナ!」

「じゃあ、取り出そうかしら」

「え、ほんと!」



 ハルの声でクッキーが出来上がったことに気付き、リアナは分厚い布巾を持ち、オーブンからクッキーが乗る天板を取り出す。


 クッキーを網の上に移し、熱を逃す。


 その中から、数枚お皿に乗せると、ハルとルカが待つ机に置く。



「では、どうぞ」

「やった!」

「熱いから、気をつけてね」



 ルカとハルはまだ熱いクッキーを食べ、焼きたてのホクホク感を楽しんでいる。

 リアナも一枚食べて、美味しさで顔が緩む。


 冷やしてサクサク感を楽しむのもいいが、焼きたてのホクホク感も結構好きである。


 クッキーの熱が冷めたのを確認し、各自、袋に入れていく。

 クッキーの入れた袋を入れる大きな袋に、フーベルトに渡す袋に便箋を忘れないように入れておく。



「ただいま」



 帰ってきた父に、リアナはルカと共にクッキーが入る袋を渡す。



「おとーさん、おかえり!これ、あげる!」

「お父さん、心配かけてごめんね。いつもありがとう」

「ありがとう。大切に食べるよ」



 喜んでくれたのに安心し、ダリアスに今回のことで心配かけたことと感謝を伝える。


 残ったクッキーを食後に食べて、リアナはのんびりとした一日を過ごせた。



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