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43. 昨日の疲れ



 朝、リアナは自分のベッドで自然と目が覚めた。


 起床時間前に、こんなにすんなり起きられた朝は久しぶりで、リアナは少し嬉しくなる。

 しかし、前にも似たことがあった。

 そのため、リアナはサイドテーブルに置いてある時計を、急いで確認する。



「…よかったぁ」



 時計は、いつも起きる時間より、少し早い時間に針が向いている。

 前回とは違い、今日はいいことが起きそうだ。

 そのことに安堵し、体を伸ばしながら、ふと、違和感を覚える。


 今、起きたのはベッドだが、リアナの記憶にはベッドまで行った記憶もない。

 ソファーで記憶がなくなっていることで、昨夜はソファーで眠ってしまったのだろう。



「ハル、おはよ…」



 ハルの方へ向いたリアナは、不自然に言葉を止める。


 ベッドまで運んでくれたお礼を言うためルカのベッドを見ると、いつも自分を起こすはずのハルはまだ眠っている。


 ハルも、昨日のクレアの着せ替え人形で疲れてしまったのだろう。

 昨日の反動なのか、少し身体がだるい気がする。



「ハル、ルカ。おはよう」

「……ん〜」



 リアナはカーテンを開け、窓からの光を受ける。


 しかし、ふたりして太陽に光から逃げようと、布団を被り直している。

 その様子に少し笑みが溢れ、もう一度カーテンを閉める。


 ふたりは後で起こすことにし、自分の身支度をすることにする。


 リビングの方へ行くと、父がもうキッチンに立っており、朝ごはんの用意をしているようだ。

 物音で誰かがいると気付いたのか、振り向いたダリアスがリアナの姿を確認する。


 だが、リアナが一人で起きてきたことに、ダリアスは驚いている。



「おはよう、お父さん」

「…おはよう」



 挨拶を交わしたのだが、父は何か言いたげな表情(かお)をしている。



「リアナ、大丈夫か?」

「大丈夫よ。昨日はソファーで寝ていたみたい」

「あぁ、そうだったな」



 ソファーで寝ていたことで、心配させてしまっていたのだろう。

 そのため、リアナはダリアスに安心させるように微笑む。



「みんなで集まって寝ているから、相当疲れていたのだな」

「みんなで?」



 昨夜、ソファーに座っていた時は一人だった気がする。

 そのため、ハルとルカとも一緒にソファーで寝ていたのは予想しておらず、リアナは驚く。

 では、もしかして昨日運んでくれたのはーーー



「リアナも大きくなったな」

「…ありがとう、お父さん」



 しみじみ考え込んでいる父の姿に、リアナはお礼を言い、少し恥ずかしくなる。

 ソファーで寝て、ベッドまで運んでもらうなど、まるで子供ではないか。


 なんだか恥ずかしくなり、少し急いで脱衣所へ逃げ込み、顔を洗って、そのまま身支度を整える。


 あれ、そういえば、打ち上げの時も運んでもらった気がする。

 あの時は腰を痛めていたが、今回は大丈夫だっただろうか?


 リアナはリビングに戻ると、父に尋ねる。



「お父さん、腰は大丈夫?」

「あぁ。前回は、お店からだったからな」

「それは…ありがとう」



 お店から家まで、しかもベッドまで運んでくれたのなら、腰を痛めても仕方がない。


 しっかりと感謝しつつ、父がご飯を作る横で、お昼ご飯の準備をする。

 少しすると、ハルとルカは眠そうにリビングに現れた。



「おはよう…」

「おはよう、おとーさん…」

「ハル、ルカ、おはよう」




 眠そうな表情(かお)もそっくりで、かわいらしくて微笑んでしまう。



「眠そうだな。まだ朝食ができるまで時間はある、もう少し、寝ていてもいいぞ」

「じゃあ、そうする…」

「僕も…」



 ダリアスの声でソファーへ行き、寝転がったハルとルカは早速、寝息をたてる。

 そのふたりが風邪をひかないようにと、リアナは部屋から毛布を持ってきて、優しく掛ける。



「リアナは、今日は一人で起きられたようだな」

「私だって、一人で起きられるわ」



 ダリアスが感心したように言う言葉に、少し口をとがらせる。


 自分だっていい大人だ。

 昔よりは起きられるようになってきた。

 ただ、布団から出るのは、いつまで経っても苦労するが。



「おはよう!」

「おはよう、ルカ、ハル」

「おはよ〜」



 元気な挨拶とともに、リアナに抱きつくルカを受け止める。


 その後、ソファーでの二度寝から起きてきたハルとルカの身だしなみを整えるのを手伝い、みんなで朝ご飯を食べる。

 そして、準備をしてから家を出た。


 乗合馬車へ乗り、揺れる馬車の中、リアナはなんだか眠くなる。


 もしかしたら、昨日の疲れがまだ残っているのかもしれない。

 まだ馬車を降りるには、時間もある。

 少し眠っても、問題ないだろう。



「ちょっと眠るわ。着いたら教えて」

「あぁ、起こす」



 リアナは心地よい馬車の揺れに合わせて、すぐに眠りにつく。



「リアナ、起きて」

「置いてくよ〜」



 ルカとハルが声をかけたことで、リアナの意識は浮上する。


 しかし、怠さは相変わらず残っており、少し動くのがしんどい気がする。

 今日は帰ったら早く寝ようと決め、リアナは本日の仕事を乗り切ることにする。


 商会に着くと、本日の自分の予定を確認する。

 まずは、父と仕事へ向かい、その後はリックさんとの勉強と打ち合わせ。それが終わってから、ガラスの製作の見本と手伝い、か。



「リアナ、行くぞ」

「はい、今行きます」



 ダリアスに声を掛けられ、ふたりに見守られながら建物から出たリアナは、商会の所有する馬車に乗りこむ。


 最初にダリアスと仕事に出た先は、商家の少し大きな家である。

 そこには、床の補修を行っているオリバーが作業しており、仕事の進み具合の確認と打ち合わせを行う。


 話を進める途中、オリバーに何度も自分の顔を見られている気がした。

 少し疑問に思いながら、そのまま話に耳を傾ける。


 ダリアスが指示した内容を紙にまとめながら、リアナは首を伝う汗をハンカチで拭う。


 季節柄、まだ比較的過ごしやすい日が多いが、外に立っていると少し暑くなってきたみたいだ。

 日数を追うごとに、このまま暖かくなっていくのかもしれない。明日からは服装を変える必要がありそうだ。


 そういえば、ルカも今日は上着を着ていたが、暑くないだろうか。

 そのことを思い出し、少し心配になる。



「リアナ嬢、大丈夫か?」

「大丈夫です。ご心配なく」



 少し考え込んだことで、オリバーの声に反応が遅れてしまったようだ。

 もう一度気を引き締めて、仕事の内容へ加わり、気になったことや疑問に思ったことなどを、紙にまとめる。


 オリバーとの打ち合わせを終えて商会に戻ると、リアナの仕事での相棒はダリアスからリックに代わり、事務室の作業机で話し方の勉強や仕事の話をする。



「では、少し時間をとりましょう」

「ありがとうございます」



 話がひと段落し、時間がもらえたので、リアナは話した内容を紙にまとめる。

 ある程度、話の要約を紙に書き終えると、少し考え込む。

 書く手を止め、静かに紙を見続けるリアナへ、リックは心配そうな声をかける。



「リアナちゃん、大丈夫かい?」

「大丈夫です、続けてください」



 やはり、昨日の疲れが顔に出てしまっているのか。

 リックにも、オリバーの時と同様に心配させてしまっているようだ。


 心配ないと笑顔で答えて、リックに話を再開してもらう。



「今日はここまで。よく頑張りました」

「ありがとうございました」



 リックは頭を下げたリアナの頭を優しく撫でると、自分の席へと戻っていく。


 リックとの話が終わった頃には、お昼の鐘がなっていた。

 そのため、ハルとルカが走ってやってくる。



「リアナ、ご飯!」

「早く〜」

「急がなくても、ご飯は無くならないわ。片付けてくるから、少し待ってて」



 ふたりとご飯を食べるため、リアナは先程まで使っていた、紙とペンを片付けると、家から持ってきていたバケットを用意する。

 それを開き、みんなでサンドウィッチを食べる。



「これ食べたら、師匠のところで絵を描くの!」

「そう。素敵な絵になりそうね」



 食べ終えると、ルカはハルと一緒に、フーベルトの机に向かった。

 その姿を見送り、リアナはレオンに借りた本を開き、残りのページを読みながら過ごす。


 わからないところや疑問に思ったことを紙に書き出しながら読むため、かなり時間がかかっている。

 しかし、読んだだけでは頭に残らないので、時間はかかるが、しょうがない。

 リアナは手を動かしながら、本を読み進める。


 気付くと、昼休憩が終わっていた。



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