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28. パーティーと楽しい会話



 フーベルトの言葉に対してなんとかお礼を伝えたが、もう正直言って、リアナの頭では処理することはできない。

 しかし、リックにされた褒められ方より、純粋に嬉しい気持ちでいっぱいである。


 なんだかフーベルトの顔を見るのが恥ずかしくて、リアナは視線を横にそらした。



「あら、リアナ。褒められて照れるだなんて。まるで、恋する乙女のようね」

「ちょっとクレア!」



 突然、耳元で聞こえたクレアの声に驚き、少し声が大きくなる。

 その内容のせいでリアナの顔はさらに真っ赤になったが、どこにも隠れるところがない。

 リアナは両手で顔を覆って、せめて顔だけでも隠す。



「クレア。リアナ嬢がかわいいからってあまり虐めないように。嫌われても知らないよ」

「レオン様。リアナが私を嫌うなど、ありえないですわ!」

「それはそうだね」



 リアナはレオンが来たことで、助かったと思ったのだが、少し期待したことを後悔する。

 確かに嫌うことはないが、少しは助けてほしい。


 少し頬の赤みが引いたリアナが手を外したことで、レオンは貴族男子としての通過儀礼を行う。



「リアナ嬢、今日は一段と美しい。まるで、ここに一輪の花が咲き誇ったようだ」

「ありがとうございます、レオン様」



 リアナは、レオンの褒め言葉に落ち着いて対処する。

 いつもと同じ挨拶をしてくれるため、それには動揺することはない。


 しかし、話し始める前に女性のことをなんとしてでも褒めなければならないなど、よくそんな大変な文化を貴族達は残したものである。



「お待たせいたしました」



 レオンが挨拶を終えると、ルイゼに連れられたダリアスとリックが帰ってきた。

 そして、お茶会の開始時刻になり、レオンとクレアが挨拶をする。



「本日、美しい屋敷の完成を無事に迎えることが出来ました。少しばかりのおもてなしですが、楽しんでいただけたらと思います」

「皆さんでお話ししましょう。私、リアナの子供の頃の話を詳しく聞きたいわ」



 クレア、それはどんな悪い冗談なの。

 なぜ、自分の子供の頃の話を聞こうとするのだ。


 挨拶が終わると、ハルとルカは待っていましたとばかりに、スイーツを口いっぱいに頬張って、幸せそうにしている。

 今日ばかりは好きに食べてもらうことにし、リアナはふたりの表情(かお)を幸せそうに眺める。



「リアナちゃん、さっきの言葉は本当だよ。美しすぎて、ついね」

「リックさん、あまりからかわないでください。そういうのには慣れてないので」

「できる限り、気をつけるよ」



 その返答は、約束ではないのでは?

 少し、リックさんからは、距離を取ろう。


 クレアのように婚約者もいたこともないし、恋人も、人を好きになってことがない。

 学院の頃にも自分は恋愛事からは遠く離れていたので、そういったものにあまり免疫がない。

 そのため、からかうのは勘弁してほしいところである。


 しかし、話しかけてきたリックは一人でここに来ている。

 リックの隣に父の姿が無いことを不思議に思い、リアナは父の姿を探す。



「お父さんは?」

「レオン様が話したいことがあると言って、屋敷の中へ招かれていたよ。しかし、リアナちゃん、いいの?」

「なにがですか?」



 リアナはリックの言っていることが理解できず、首を傾げる。

 その様子に少し困ったように眉を下げ、教えてくれる。



「ルイゼさん、リアナちゃんの小さい頃の話、夫人に色々話しているようだけど」

「え!ルイゼさんが!」



 まさか、クレアが言っていたのは、冗談ではなく本気だったのか。



「リックさん。すみませんが、ふたりのこと、頼みます」

「任されました」



 リアナは急いで席を立つと、ルイゼとクレアが楽しく話している席に向かう。



「それでね、その時のリアナといったら」

「待ってください、なんの話をしているのですか!」

「あら、早かったわね。もう少し聞きたかったわ」



 完全に、油断していた。

 まさか、ルイゼが話すとは思っていなかった。


 母と仲が良く、産まれてから現在までの自分のことを知っている。

 そのルイゼは、一体どこまでクレアに伝えたのか。


 そのことが気になって、リアナの心中は穏やかではない。



「ルイゼととても楽しい話をしていたのよ。リアナも入る?」

「入らないし、話しません!」

「リアナの子供の頃の話だなんて、こういう時じゃなきゃ聞けないじゃない。せっかくのチャンスを無駄にしたくないわ」

「恥ずかしいじゃない!ルイゼさんも、無理に話さなくてもいいんですよ」



 クレアと楽しそうに話すルイゼを、どうにかここから一刻も早く引き剥がさなければ。

 しかし、現実はそこまで上手くはいかない。



「私も久しぶりに、リアナの子供の頃の話ができるのは楽しいよ。リアナ、フーベルトと話しておいで」

「どうして、そこで、フーベルトさんの名前が出るのですか!」

「それがいいわ、リアナ。迎えにきてもらう?」

「話をさせないために来たのに、二人して追い返さないでください!」



 二人は共謀して、自分をこの楽しい話の席から離したいらしい。

 フーベルトの名前で先程の褒め言葉を思い出したリアナは少し頬を染めながら反論するが、その姿を二人は楽しそうに微笑んでいる。


 子供の頃の話をやめさせるため奮闘していると、背後から名前を呼ばれた。



「リアナさん、お呼びでしょうか」

「あ、え?フーベルトさん?」

「リアナさんが自分を呼んでいると、聞いたのですが…」

「あ…その…」



 リアナは突然後ろから聞こえた、低音の声に振り返った。

 少し困ったような表情(かお)で立っているフーベルトを見て、なぜだか照れてしまい、リアナは少し静かになる。



「大丈夫、リアナが呼んでいたわ。ねぇ、ルイゼ」

「そうだね、呼んでいたわ。ほら、美しいお嬢様を、席まで案内してあげな」



 クレアの指示で呼び出されたであろうフーベルトを、このままにしておくわけにはいかない。

 それに、自分は二人に完全に遊ばれている。そのことがわかり、恥ずかしさが勝った。

 今すぐ、ここから一刻も離れたい。



「リアナさん、どうぞ」

「…お願いします」



 フーベルトが遠慮がちに手を差し出してくれたので、その手のひらにリアナは指先のみ触れるようにする。

 そのままフーベルトにエスコートされ、クレアとルイゼとは離れた席に座り、一度小さくため息をついた。



「ごめんなさい、フーベルトさん。きっと、クレアがルイゼさんから私の子供の頃の話を聞き出すために、私を遠ざけるために呼んだみたいです」

「そうなのですか?」

「クレアはそんなのを聞いて、どうするつもりなんだろう」



 二人の楽しそうな様子を思い出し、リアナは少しフーベルトに愚痴をこぼす。


 自分の子供の頃の話など、聞いても楽しいのだろうか?

 特に目立ったことはないと思うのだが、それを知られるのはなんだか恥ずかしい。



「仲が良くて、微笑ましいですね」

「そうですね。クレアとは高等学院の頃に出会ってからの仲です。そう考えれば、長い付き合いですね」

「そういった友達は、大切にしたいものですね」



 フーベルトのおかげで、先程までの恥ずかしさは消えて、リアナはクレアとの思い出話に花を咲かす。


 色々話しながら、その出来事への懐かしさやあの時の気持ちが蘇り、リアナはつい、普段あまり話さないようなこともフーベルトに話す。



「クレアはよくレオン様とのデートの話をしてくれて。それがとても幸せそうで、いつ聞いても楽しかったです」

「そうですか。お聞きしたいのですけど、貴族の方々の場合は、どちらに行くのですか?」

「クレアの場合は花畑を見に行ったり、歌劇にも行ったと聞いたことあります。でも、一番喜んでいたのは、王城内の図書館でしたね」



 クレアは歌劇や花畑も素敵だったと言っていたが、なによりも喜んで話してくれたのは、王城内にある図書館だった。


 クレアは子供の頃は体が弱く、家から出ることもなかったので、屋敷に置いていた本を読んで過ごしていたと聞いた。

 そのため本と読むことが好きで、いつか王城内にある図書館に行ってみたかったらしい。



「庶民には、その図書館は遠い存在ですね」

「そうなんです。でも、いつか行ってみたいです」



 図書館の広さや本の多さに、感激したように説明されて、リアナも行ってみたい気持ちが更に強くなった。

 それも、貴族籍のないリアナには難しい話だが。



「他には、お忍びで花祭りに行ったのが楽しかったと言っていました」

「花祭りですか。そういえば、もうすぐですね」



 国の季節の行事として、春と夏の間に花祭りが開催される。

 色鮮やかなの花々で街中を彩り、様々な国の屋台も出されて、恋人達にとって、一番人気のデート場所である。

 だが、自分にはその祭りの記憶がない。



「私、行ったことがないかもしれません」

「そうなのですか?」

「夏や冬のお祭りには、行ったことがあるんですけど、花祭りには行った記憶がないですね。どういったものなのでしょうか?」

「母や友人と行ったことがありますが、楽しいものですよ。私でよければ、一緒に行ってみますか?」



 フーベルトの流れるような誘いに、うなずきそうになったリアナの頭は止められ、誰かがリアナの視界を奪う。

 そして、リアナの背後から艶気(つやけ)を含んだ低い男性の声が聞こえた。



「フーベルト、駄目ですよ。リアナちゃんは将来、私と結婚するんですから」

「そうなのですか…?」



 自分には、結婚どころか相手すらいない。

 しかし、そんな話をしたことがあるのは事実だ。


 リアナは視界を隠したのが誰なのかわかり、その手を外すと、振り向いて反論する。



「違いますし、しません!子供の頃の話でしょ、リックさん!」

「私はリアナちゃんのためなら、叶えてあげますけどね。明日にでも、籍を入れますか?」

「もう!そうやってからかわないでください!」

「あら、振られてしまいましたか」



 リアナに叱られたリックは、いたずらっ子のような目つきで笑う。

 それにつられて、リアナもフーベルトもなんだか可笑しくなり、一緒に笑い出した。


 リックの後ろ、ハルとルカがたくさんのスイーツを持ってリアナ達の机に現れる。



「リアナ見て!これも、これも美味しかった!」

「ちょっと、ハル!どうみても食べ過ぎでしょう!」

「ルカも同じだけ食べてます〜」

「気を付けてあげてって言ったじゃない!」



 ハルは牙を出してニッと笑うと、ルカと一緒に追加のスイーツを食べ始める。

 最初に許そうと思ったが、さすがに食べ過ぎである。


 ハルとルカを止めながら、リアナは幸せなこの瞬間を噛み締めた。



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