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27. 完成日と身支度



 完成予定日の朝を迎え、リアナは慌ただしく用意している。


 通常の完成日の仕事の内容は、商会長とそこの責任者の二人が引き渡しの挨拶をし、家主と共に全て見て回り、最終確認をして終了するのだが、本日はそうではない。


 クレアの別荘宅の仕事が始まるより前、最後の打ち合わせを終えて、部屋を退室しようとするダリアスとリアナは引き留められ、レオンとクレアと少し雑談をした。

 その時に完成を祝うパーティーを提案され、貴族独特の冗談かと思い、ダリアスもリアナも、そうなったら楽しそうだと答えた。

 しかし、二人は冗談にするつもりは無かったようで。


 王都のベーレンス伯爵家本邸を後にし、商会として使っている建物に着いたリアナ達に、『完成を祝い、お茶会をする』と書かれた短い手紙と贈り物が届いた。

 そして、詳細は追って連絡すると言うレオン付きの従者を、呆然としながら見送った。


 その詳細も後からすぐに来たが、手紙には『商会員の方も是非』と書いてあり、急いで仕事の予定を確認し変更してもらい、今日を迎えた。



「ねぇ、リアナ。僕、これ着けたいんだけど」

「よく似合うと思う。でも、今日はルカに着けてもらって」

「は〜い」



 リアナも久しぶりにお茶会に参加するので、余裕はない。

 しかもリアナに至っては、クレアから準正装のドレスと装飾品も贈られた。

 そのため、着け忘れていないかを確認しながら、準備をしている。



「ほら、ルカ。この蝶ネクタイもいいんじゃないか?」

「僕もそれ似合うと思うよ〜」

「じゃあ、そうする!」



 父は貴族に呼ばれるのに慣れているのか、もう用意は完了しており、ルカとハルの準備を手伝っている。



「時間になったら、また教えて」

「あぁ、わかった」



 リアナは全て確認を終えると、自室へ向かい、化粧台の前に座る。

 今回はどうしても着飾りたかったのか、クレア付きのメイドが家まで来ている。

 そのおかげで、自分で化粧をしなくてよかったが、着替えを手伝われそうになった時は焦った。



「リアナ様、本日はどういたしますか?何か、希望があればおっしゃってください」

「私ではなにが良いかわかりませんので、全てお任せします」

「全てお任せ…。まぁ…まぁまぁ!」



 メイドに全て任せると伝えると、思っていた反応と違ったものが返ってきて少し驚いた。

 けれど、リアナにはわかる。

 この反応をするクレアの姿を、自分はよく見てきた。



「全て、私にお任せください」

「…ほどほどでお願いします……」



 大変良い笑顔でメイドに言われ、リアナは完全に確信する。

 クレアの周りには、似た人しかいないのかもしれない。

 大量の化粧品をウキウキした様子で広げ出したメイドに全てを任せ、もうなにも考えないことにした。



「大変、お似合いでございます」



 どうやら化粧は終わったらしい。

 リアナは、閉じていた目をゆっくりと開く。

 結局、化粧から始まり、髪もアレンジされた。

 そのおかげなのか、別人のようになった自分に驚いて、鏡の向こうに映る自分を見つめる。



「これが、私?」

「はい。お美しいです」

「ありがとうございます…」



 もしかして、このメイドの人は、別人に変える魔法でもあるのだろうか?

 見慣れない自分の顔に違和感があるが、いつもより大人っぽい気がして、少し嬉しい。



「そろそろ時間だが、開けてもいいか?」



 ハルとルカの用意が終わったのか、父が扉の向こうから声をかけてきた。

 時計を確認すると、そろそろ出発する時間である。

 そのことに気付き、リアナは扉を開けた。



「お待たせ、お父さん。そろそろ出る時間ね」

「………」

「お父さん?」



 父が黙り込んだことに疑問を浮かべながら、もう一度話しかけるが、返事はない。

 父が動かなければ、自分も動けないのだが。その父からは、なにも反応がない。



「ハル!お父さんが動かなくて困っているのだけど!」

「今行く〜」



 ルカと一緒に走ってきたハルは、父がなぜ黙り込んだのかわかったらしい。

 立ち上がると、ダリアスの耳元で息を吸った。



「ダリアス!」



 ハルが大きな声を出すと、驚いて倒れかけた父をハルが支えた。

 もう一度こちらを向いた父は、照れたように笑っていた。



「すまない、綺麗すぎて心臓が止まったようだ」

「もう、お父さんったら。褒めすぎよ」



 父の褒め言葉に、リアナも少し照れながら頬をかく。

 その二人を見つめていたハルは、少しため息をついた。



「リアナはいつも素敵だけど、今日はとっても綺麗だね」

「ハル、ありがとう。メイドの方の技術よ」

「リアナ、綺麗…。お姫様なの…?」

「ルカもありがとう。もう!みんなしてそんな褒めても、なにも出ないわよ!」



 リアナはみんなに褒められて、恥ずかしくて堪らない。

 しかも先程から、メイドが満足そうにこちらを見ているのが、なにより恥ずかしい。



「ほら、行きましょう!」



 玄関から出ると、馬車が家の前に停まっているのを確認する。

 リアナは馬車に乗り込もうとすると、父が手をさし伸べてくれ、エスコートを受ける。

 続けてハルとルカも乗せてもらい、メイドが最後に乗り込むと出発する。


 馬車が屋敷に着くとダリアスが先に降り、リアナが降りるのを手伝った後、ハルとルカを降ろす。


 メイドは先に馬車から降り、到着を知らせてくると言われたのだが、屋敷の入口に空色の髪が風に揺れている。



「リアナ、ようこそ」

「お招き頂き嬉しく思います、クレア様」



 リアナがカーテシーを行うと、ルカも真似をしようとして父に止められている。

 こういったことに、縁がなかったのだろう。

 少しでも、教えておいてあげればよかった。



「いつものように話してほしいわ、お願い」

「ありがとう、クレア。今日のドレスとメイドの手配をありがとう」

「いえ、最高だわ」



 感謝を伝えると、嬉しそうにクレアが胸の前で手を組み、リアナを見つめて惚けている。


 クレアの贈ってくれたドレスは、フリルも少なく、スマートな印象を与えるシンプルなサファイアブルーのドレスだ。

 しかし、光の加減で浮かび上がる美しい刺繍にはリアナも思わず見惚れてしまった。


 クレアが満足げに自分の姿を堪能しているのを感じながら、リアナは少し恥ずかしくなる。



「そろそろ、移動を願いたいのですが」

「そうね。私は後でレオンと行くから。この執事について行ってね」

「わかりました。お願いします」



 言われた通り、執事の案内に従い、みんなで移動する。


 中庭には、テーブルや椅子がセットしてあり、軽食やスイーツの用意してあるワゴンがたくさん置いてある。


 隣を歩くハルは、嬉しそうに尻尾を振っている。

 きっと、目当てのスイーツでも見つけたのだろう。



「ルイゼとフーベルトは来れたが、他の代表者は残念だったな」

「しょうがないわ。仕事の予定は変えづらいもの」



 予定が空けられたのは、ルイゼとフーベルト、そしてリックである。

 他は、どうしても予定を空けることが出来ず、とても残念がっていた。


 中庭に進むと、リックの姿が見えた。



「リック、先に来ていたのだな」

「はい、大切な日ですからね」

「リックさん、今日は来れてよかったですね」



 リアナがリックに挨拶しようとすると、ダリアスに背中の後ろに隠された。

 そのため、父の横から顔を出す形で、リックに挨拶をした。


 だが、朝のダリアス同様、リックは笑顔のまま固まり、反応がない。

 しかし、すぐに再起動したのか、地面に片膝を着き、リアナは手を取られる。



「美しいリアナ嬢にお会いでき、私は幸運ですね。できれば、今この時を停めてしまいたいほどです」



 リックの変わりように驚いて、リアナは声が出ない。

 そのリアナの手の甲に、リックは一度顔を近付けると、ダリアスが頭を少し強く叩いた。



「やめろ!よくも俺の前でそのようなことをしたな!」

「ダリアス。これぐらい普通ですよ、落ち着いてください」

「リアナは私のかわいい娘だ!手を出すな!」



 リックは頭を守りながらダリアスと言い合っているが、リアナはそんな余裕はない。


 今のは、なんなのだ。

 もしかして、本当にするつもりだったのか。


 リアナは、顔を真っ赤にし、平常心を失ってしまう。



「リアナ。なんだい、この喧嘩は!」

「え…えっと…」



 言い合う声が聞こえたようで、ルイゼは少し走ってきてくれた。

 しかし、それを詳しく説明できるほど、リアナは落ち着いて話せない。


 リアナの支離滅裂の様子を見て、ルイゼは二人の頭を一度殴って黙らせる。



「なにがあったの」

「こいつがリアナにふしだらなことを!」

「ただの挨拶ですって」

「はー。いい大人が、娘の前で喧嘩しないの。一体、自分のことを何歳だと思っているんだい」

「え、あ。ルイゼさん、大丈夫ですから…」



 ルイゼが二人に説教を始めた姿を見て、リアナは少し正気に戻り、ルイゼを止める。

 少し遅れてきたフーベルトは、何があったかわからず、こちらの様子を見守っていた。



「大丈夫。両方ともしっかり話しておくから」

「いえ、お気持ちだけで…」

「ほら、行くよ」



 リアナの説得はうまくいかず、ダリアスとリックがルイゼに連れられて移動していくのを、見届ける。


 遠くに移動したのを確認し、フーベルトはリアナの前に立ち、姿勢を正す。

 少し緊張した面持ちのフーベルトの表情(かお)に、リアナも少し姿勢を正した。



「リアナさん、その…。とても綺麗だ」

「あ…ありがとうございます。フーベルトさん…」



 はにかんだような笑顔と仕事の時とは違った話し方。

 そのフーベルトに、リアナは何故か胸の鼓動が速くなり、頬が赤く染まった。



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