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26. ガラスの完成と新しい魔法



 大事をとって、いつもより少し遅く仕事に参加させられたリアナは、昨日に引き続き、ガラスの製作に取り掛かる。

 作業の用意をしていると、父とリックの姿が目に入り、一度手を止めた。



「リアナちゃん、昨日倒れたって聞いたけど、大丈夫?」

「大丈夫です、リックさん。すみません、ご心配おかけして」

「心配するよ。だって、リアナちゃんは大切な家族だからね」

「ありがとうございます」



 心配をかけて申し訳ないという気持ちが湧いたが、大切な家族と言われ、なんだか心が温かくなる。

 自分もそう思っているーーーそう返そうとした時、間に父が割り込み、リックを少し不機嫌そうに睨む。



「待て、お前とは家族になった覚えはないぞ」

「いいじゃないか、ダリアス。家族みたいなものだろ」

「いや、私は嬉しくない」

「そんなこというなよ」



 父とリックが仲良く話しているのを見ながら、リアナは準備を再開させた。

 二人の会話にため息をつきながら、ルイゼは心配そうな表情(かお)をこちらに向ける。



「リアナ。本当に、もう大丈夫かい?」

「大丈夫です。なので、この子を止めてください、ルイゼさん」

「あ、こら。なにしているの、ラファル」

「ピュー……」



 ルイゼの召喚獣が自分を優しく翼で包んで、作業をさせまいと離そうとしない。

 そうしてくれるのは嬉しいのだが、今ではない。

 説得はできたらしく、今は渋々といった様子で、ルイゼの後ろに待機している。



「では、昨日の成果を聞こうか」



 話は終わったのか、リアナが準備していた机の前に、ダリアスとリックが並んで立っている。

 少し緊張するが、やってみせた方が早いだろう。



「言葉よりも、実践する方が早いかもしれません。ハル」



 ガラスの傷を消すための液体と小さめの透明ガラスを作業机の上に置き、作業をするためにハルを呼ぶ。



「カットはしてあるよ」

「リアナ、僕が描いたハルだよ!あと、藤の花は師匠が!」



 フーベルトとルカが一緒に考えたデザインを元に、ハルには色ガラスを切ってもらっていた。

 それを透明ガラスの上に並べ、周りを木枠で抑える。



「では、始めます」



 昨日、ガラスを仕上げた通り、リアナは液体を水魔法で持ち上げて均一になるように流し込む。

 ハルに目で合図し、風魔法をしてもらうとガラスは一度眩しく光り、完成する。



「…出来ました」



 リアナは完成を伝えたが、気が気でない。


 やはり、おかしい。

 昨日と同じ感覚でやったので、間違いはない。

 だが、全く同じに出来ていることが問題なのだ。



「リアナ、その、聞いていいか…?」

「はい」

「…いつの間に、火属性の魔法が使えるようになった?」



 父の言葉に、リアナは苦笑いをする。

 完成前に見えたあの炎は幻覚ではなく、他の人にも認識できるものらしい。



「あれは、やっぱり火魔法ですか」

「そうですね。私が使うのとよく似ています」



 フーベルトも火属性を持つので、見覚えがある魔法に疑問を浮かべている。



「でも、リアナは水魔法を使うじゃないか。子供の頃から私が教えてきたよ」

「私にも、なにがなんだか…」




 ルイゼの言う通り、リアナの属性は水属性で、神殿の鑑定もきちんと子供の頃に受けている。

 どうしてこうなってしまっているのかが、全くわからない。



「……あぁ、そういえば。リリーは二属性持っていたね」



 ルイゼが呟いた言葉を聞き取り、リアナは目を見開く



「お母さんが?」

「リリーは二属性を持っていたが、さほど魔力は高くなかった。そのため使うとしても、片方しか使っていなかったからな」



 ルイゼに尋ねた内容に対して、父が代わりに答えた。

 しかし、手を額に当てており、表情(かお)がよく見えない。


 母が二属性あったことなんて、初めて聞いた。

 そして、新たな疑問が浮かぶ。



「隣国では、二属性は普通のことなのですか?」

「いや、珍しい。そのため、リリーやその家族はそれを隠して暮らしていた」

「そりゃあ、苦労したね」



 気になっていたことをフーベルトが尋ねてくれたが、やはり珍しいことらしい。

 しかし、母は水魔法を使っている姿しか見たことがない。



「お母さんの属性は?」

「水と風だ。ガラス職人は、水と風が多いからな」

「では、リアナちゃんは、水と火。それに加えて、ハルの風魔法が使えるということですね」

「なかなか、危うい存在だね」



 自分の場合は、母の水と父の火の二属性となる。

 そして、ハルの風も少し使える。


 もしかして、母よりも希少な存在になってしまったのではないだろうか。

 その事実に気付き、リアナは頬が引き攣った。



「ここは、内緒にすることをお勧めしますわ。そのために協力しますわ」

「そうだね、クレア。私も協力しよう」



 クレアとレオンの声が聞こえ、リアナは振り返った。



「複数の属性を持っている場合、他に知られるのは問題がある。知られた場合は、貴族への養子や嫁入りも考えられるね」

「リアナは貴族になりたい?」

「いえ、全く…」



 二人の言葉を否定し、リアナは目を伏せた。

 貴族になど、頼まれてもなりたくはない。



「そうか。なら、ここでのことは内緒にしよう。屋敷に働く者全てに、神殿契約を施しておく」

「有難い申し出ではあります。しかし、お手数ではないでしょうか」

「いや、かわいいクレアの頼みなら、なんでもないさ」

「さすが、レオン様ですわ」



 自分は、優しい友に恵まれているようだ。

 しかし、神殿契約をするのも、神殿へ行き、情報を魔法で話せないようにするため、大金がかかる。


 いくらかはこちらも払わせてもらい、それとは別に、なにかお返しができたらいいのだが。


……そうだ。

 今度の着せ替え人形では、ハルとルカにも頑張ってもらおう。

 リアナはそう決めると、ふたりの頭を撫でる。



「では、作業に戻ってくれて構わないよ。なにかあれば、屋敷の者に伝えてくれ」

「ごきげんよう」



 二人が屋敷に戻るのを見届けて、リアナは父を見た。



「では、リアナが仕上げてくれ。まだ、他にできるのがいないのでな。また、やり方を共有しよう」

「じゃあ、リアナちゃん。私とダリアスで管理しておくよ」

「お願いします」



 今日も二人に他の職人の管理を頼み、リアナは特注品のガラスを仕上げるために、少し休憩をする。



「フーベルトさん、デザインは出来ましたか?」

「複数あるのですが、どちらがいいですか?」



 フーベルトが描き上げたデザインの紙を受け取り、じっくりと眺める。

 一つ一つのデザインが、本当に美しい。

 全てのデザインを見るよりも前に、見惚れてにやけてしまいそうになり、気を確かに持つ。



「これ…」



 その中から一枚、リアナは手を止めて、デザインを見つめる。



「これ、綺麗でしょ!僕のおすすめ!」

「ふふ、私もいいと思ったの。これにします」

「わかりました、そうしましょう」

「ルイゼさん、こちら図案です」



 選んだ図案を手に持ち、ルイゼに渡して確認してもらう。

 ガラスのカットをしてもらうため、ラファルとハルにもデザインの図案を見せる。



「では、私達の出番だね。ラファル、これに合わせて切っておくれ」

「ピューイッ」

「ハル、お願いしていい?」

「任せてよ」



 ラファルとハルの綺麗で正確な魔法を見ていたルカは、どこか羨ましそうに見つめている。

 リアナも風魔法は使えるが、自分の速度を上げるときにしか使ったことがない。



「ハルもラファルもすごい!僕もいつかできるかな?」

「そうね、きっとできると思うわ」



 ルカはまだ初等学院に行く年齢ではないため、補助装置も適性もわからない。

 ルカがどんな魔法が使えるか、とても楽しみである。



「透明ガラスは窓枠に入れてある。その中に色ガラスを並べ終えたら、言っておくれ。液体を作っておくよ」

「お願いします」



 ルイゼは液体を作ってくれるらしく、お言葉に甘えて、リアナとルカは手袋を着けて、図案通りに色ガラスを並べていく。

 その横、一歩ずつ距離を詰めてきているラファルに気付いたリアナは、作業を止めて手袋を外す。



「ラファルもありがとう。助かったわ」

「ピュー」



 リアナの頬に頭をくっつけてきたラファルのことを、優しく撫でる。



「ピュー。ピューイッ」

「ふふ。ありがとう」



 自分には、ラファルの言葉はわからないが、子供の頃から可愛がってくれていたので、伝えたいことがなんとなく想像ができる。

 今のは、褒めてくれているのだろう。



「リアナ、これで最後の一枚?」

「そうね。じゃあ、ルカ。お願いしてもいい?」

「任せて!」



 最後の一枚を並べ終え、ガラスの準備ができた。

 リアナは袖をまくると、ルイゼに声をかける。



「ルイゼさん、並べ終えました」

「ありがとうね。フーベルト、一緒に見て学ぶよ」

「はい。お願いします、リアナさん」



 ルイゼから作ってもらった液体を受け取ると、魔法でいつもより大きな球体を作り、ガラスの中央あたりの空中で漂わせる。

 ルイゼとフーベルトに真剣に見られながら、リアナはハルと作業を開始する。



「では、始めます」

「リアナ、頑張って!」



 ルカの応援に笑顔で応え、リアナは液体を中央から端へ向かって、均一に且つ丁寧に伸ばしていく。



「ハル」

「は〜い」



 ハルに声をかけ、リアナは風魔法をお願いする。

 最後に、炎でガラスは眩しく光り輝いた。



「綺麗…」

「たしかに。これはいいね」

「さすが、私の息子。これまた美しいデザインだね」

「そうですね。さすが、フーベルトさんです」

「いえ。リアナさんの魔法のおかげですよ」



 机の上に出来上がったガラスに、みんなで見惚れる。


 桔梗の花畑に立つ、クレアとレオンの立ち姿。

 その美しい姿の上に飛ぶ鳥は、クレアの召喚獣。


 フーベルトが考えた美しいデザインは、きっと気に入ってもらえるだろう。



「フーベルト、出来そうかい?」

「出来るまで頑張ります」

「そうかい。ラファルもやる気いっぱいだね」

「ピューイッ」



 横でじっくりと観察されたので少し緊張したが、成功させられてよかった。

 ルイゼとフーベルト、そしてラファルがやるのだ。

 きっと、すぐに完成させられるだろう。


 知っていたステンドガラスとはまた違う、新しい種類のガラスを、設置予定の場所に慎重に運ぶ。



「無事、完成しましたね」

「本当によかったです」



 もう無理かと思ったが、どうにかなった。

 リアナとハルが作ったガラスは、フーベルトと他の職人達が取り付けられている。


 本日中にガラスの作業と建具の作業は全て終了し、明日からは主にワックスがけや清掃を丁寧に行うことになっている。

 そして、リアナとルイゼ以外は他の現場で仕事を行う予定だ。


 最終日、清掃もワックスがけも終わり、最後の確認も終わり、屋敷での仕事を全て完了した。

 

 リアナは、無事、初めて自分で担当した仕事を終え、完成日を迎えたのだった。



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