19. 絵本と続きの話
「ただいま」
「お父さん、おかえりなさい」
「おかえり〜。お疲れ〜」
「おかえり、ダリアス!」
帰宅後、リアナはお風呂に入り、ルカとご飯の用意をしていると、父が仕事から帰宅した。
その姿を見て、ルカは紙袋を持って、抱きつきにいく。
「ダリアス!これ、おみやげ!」
「ありがとう。開けてもいいか?」
「うん!」
中身を取り出し、ダリアスは嬉しそうに微笑む。
そして、それをリビングの棚の上に置いておき、満足そうにしている。
「これは木彫りか。ハルによく似ていて、かわいいな。大切にするよ」
「よかった!」
「ありがとう、ルカ。では、お風呂に入るか」
「うん。いこ、ダリアス!」
父とルカがお風呂に向かうのを見届けながら、リアナは食事の用意をする。
ふたりがお風呂から上がると、みんなで食卓を囲んだ。
「きょうね、りんごあめ、たべた!おひるもおいしかった!」
「そうか。今日はしっかりと楽しめたか?」
「たのしかった!こんど、ダリアスともいきたい」
「じゃあ、次の休みに行くか」
「うん。たのしみ!」
食事中、ルカは今日あったことを楽しそうに伝えているのに、父も似たようは表情で相槌を打つ。
ルカは次の休みのお出かけの約束ができて、嬉しそうに笑っていた。
食事を終え、リアナが食後のお茶を用意していると、ルカの楽しそうな声が耳に入る。
「ハル!はやく!」
「わかったってば〜」
ルカはハルを急かし、ソファーにいる父の横に座る。
その手には、ブラシが握られており、ハルは体を小さくすると、ソファーに寝転がった。
「こうやって、毛並みにそって優しくな」
「うん、やさしく、やさしく…」
「ふふ。くすぐったいよ〜」
「ハル、うごかないで。いま、やってるんだから」
「だって〜」
父が見本を見せると、ルカも真似をしてやっている。
だが、どうやら、ルカが慎重にしていたブラッシングは、ハルにとってはくすぐったかったらしい。
しばらくすると、ハルの笑い声は止まった。
「そうそう。それぐらいが僕は好きかな」
「うまくできてる?」
「そうみたいだな」
最初は少し緊張しながらしていたが、ルカも慣れてきたようだ。
そのブラッシングにハルもご機嫌にしており、リラックスして過ごせている。
「気持ちよかった。ありがとう、ダリアス、ルカ」
「また明日もしよう」
「ぼくもしたい。ハル、いい?」
「もちろん」
ハルのブラッシングを終えたのを確認し、リアナは新しい飲み物を用意する。
本屋で買った絵本を手に持つと、ルカの隣に座る。
「それは?」
「ルカにプレゼント。絵本よ」
「なんだか、ぼくににてる!」
「そうね。白と金がお揃いね」
ルカは受け取った絵本を大事そうに抱きしめて、嬉しそうに笑っている。
「初めて見る絵本だな、リアナの子供の頃には無かった気がする」
「僕も初めて見る。内容が気になるかも」
「ねぇ、リアナ。よんで!」
子供の頃は、かなりの量の絵本を読んできたが、この絵本は初めて見た。
そのため、自分も少しだけ楽しみにしていた。
「わかったわ。じゃあ、読むわね」
リアナは絵本を受け取り、物語を朗読する。
・・・・・・・・・・・
昔、まだ人々が争っている時代。
そこに一匹の白き獣が現れた。
人々はその神々しさに、恐れ、惹かれ。
そして、誰もがその姿を欲した。
その獣が望むのは、ひとつ。
この無駄な争いを終わらせること。
だが、それを受け入れる程、世界は優しくなかった。
だから、白き獣も考えた。
争いをやめた国を豊かにしよう。
そして、その祝福が続くように、一人の使者と共に世界を巡らせよう、と。
・・・・・・・・・・・
「つづきは?」
「ここで終わりみたい」
「そうなんだ〜。ふしぎなおはなし」
不自然な終わり方だが、それはそれで想像力を掻き立てられる。
どこかの国のおとぎ話だろうか。
白き獣。もしかすると、聖獣のことだろうか?
聖獣が題材ということは、この国に関することかもしれない。
この国には召喚獣がいる人は多いが、他国では珍しいことだと聞いたことがある。
もしくは、聖獣の国をモデルとしているのかもしれない。
「しろきけものって、しろいろの聖獣ってこと?きょう、まちでみたよ!」
「うーん。でも、絵本には白い毛並みに金色の瞳の姿だから。それが揃うことが必要なのかもしれないわ」
白い毛並みに金色の瞳。
自分はどこかで、そのような姿を見たことがある気がする。
リアナが考え込んでいると、ルカは思い出したかのように話し始めた。
「そういえば、ママからむかし、いわれたことがあるよ。あなたは、しゅくふくされているのよって」
「祝福?」
「しゅくふくされているあなたは、せかいでいちばん、かわいい子だって!」
「そうね。ルカはかわいい子って呼ばれていたのよね」
かわいい子。
久しぶりに聞いたルカの呼び名に、笑みが溢れる。
それに対して、ルカは少し不思議そうにリアナを見た。
「聖獣はたくさんいるけど、リアナはみんなとはなさないの?」
「そうね。私はハル以外とは契約していないから、話せないの」
ハルとは契約をしているので会話ができるが、他の聖獣とは会話はできない。
だが、それも可能な存在もいる。
「でも、そうじゃなくても、はなせるひともいるって、ママがいってたよ」
「よく知っているわね。たしかにいるそうだけど、本当に珍しい存在よ」
特に決められた召喚獣もおらず、契約せずとも意思疎通ができ、聖獣に無条件に愛されている存在がこの世にはいる。
だが、クレアから昔聞いただけなので、事実かはわからない。
「リアナもはなせたら、はなしたい?」
「それは、もちろん!もしそうなったら、素敵なことだと思うわ」
現実的な話ではないが、出来ることなら、自分がそのような存在になってみたかった。
リアナの返答に、ルカは首を傾げる。
「そうなんだ。それは、どうして?」
「だって、聖獣はみんなかわいいじゃない!猫型や犬型、鳥型の他にも兎型いった見た目の子もいるし、他にも色々な種類が存在するって聞いたわ」
「そうなの?」
「えぇ。例えば、今の国王様は、黄金に輝く獅子型の召喚獣を従えているけど、もう一匹は鷹によく似た鳥型の姿をしているの」
「へ〜。そうなんだ」
この世界には、自分が知らない聖獣がたくさんいる。
できることなら、出会えた聖獣と色々と話してみたい。
そう考えていると、突然、横から頭突きがくる。
「僕がいればいいじゃんか!」
「そうね。ハルがいればいいけど話してみたいわ。どんな場所が好きなのか、とか。困っていることはないか、とかね」
「それは僕が代わりに聞くから〜。他はだめだよ」
「はいはい」
先程まで黙っていたハルは、話の内容が変わったことで話に加わってきた。
その必死な姿に、少し笑みがこぼれてしまう。
「白い聖獣。ふたりはどんな姿をしていると思う?」
「僕が思うに、かわいい系だね」
「ぼくはね、かっこいいとおもう!ハルみたいに!」
「うん、じゃあかっこいいはずだ」
白い聖獣。
どんな姿かわからないが、かわいい系なのか、かっこいい系なのか。
リアナが楽しそうに想像していると、話を見守っていた父が話し始める。
「ルカの口から、母親の話は初めて聞いたな。ルカは、今、寂しくないか?」
「ぜんぜん!ハルもいるし、リアナもいる。それにダリアスもやさしいし、しごとをみるのもたのしいから」
「そう。それはよかったわ」
寂しさはないようだ。
そのことをルカの口から聞けて、少し安堵した。
ルカの隣、父が座り直すと、紙を机に置く。
「ほら、続きを想像して考えてみるか。ルカはこの先、どうなると思う?」
「えっとね、たびをするんでしょ?ならねーーー」
父と一緒に、物語の先を考えるルカは、とても楽しそうに笑っている。
久しぶりの休みを満喫し、リアナはその様子を見守る。
幸せな風景に、満足げにホットミルクを飲んだ。
 




