第1話 只、それだけの話
聖女は天才だった。帝国の英才教育教養により、3才の頃には帝国民への演説、被災地の訪問、帝国軍の指揮、帝国の経済循環システムの更新を行い、支持率を過去最高に向上させた。4才の頃には腐敗した奸臣の追放を行い、身分制度を改めて政治の実権を掌握した。5才の頃には他国を制圧し大陸全土を統べ、無実質的な世界征服を一代にして実現させた。帝国が何百年も出来なかった偉業を2年して実現させた聖女は、まさに神童だった。6才にもなると、帝国からの逃亡を決意した。
睡眠時間は2時間にも満たず、毎日監視の元で21時間、政務に追われる。まともに食事すらとれず、食べれるのは政務の間に食べるパンとスープだけ。風呂は更に最悪だった。沢山のメイドに囲まれ、泡立てられた浴槽にドボン。4分でも湯に浸かると、メイドの出て出てコールが始まる。疲れ切って60人のメイドの監視下の元、防御結界でガチガチに固められたベッドに潜ると、直ぐに太陽が鬱陶しい朝を告げる。だから、彼女は決意した。帝国の全てを支配しても、自由にはなれず鎖が増えるだけ。【聖女様】は完璧でなけくてはいけない。【聖女様】は国民の希望の光。【聖女様】は邪悪な魔族と対なる者。だから、多少の我慢は当たり前。そう教育されてきた。しかし、聖女は馬鹿では無い。聖女は知っていた。人口が数百倍、強さは数万倍の魔族に敵いっこない。勿論、帝国も知っていた。だから、在りもしない魔物の被害を聖女ではなく、国民に告げた。教会を通じて聖女様こそが、邪な魔族に打ち勝つ唯一の存在だと。聖女は直ぐさま、対応した。大義名分をつけて奸臣の位を剥奪し、帝国から排除した。そして奸臣の賄賂や浪費を潰し、両手に溢れんばかりの富と権力を手に入れた。しかし、自由にはなれなかった。聖女の両眼には【大聖女の加護】という名の呪いがかかっていた。紋様は段々と黒ずみ、聖女の清らかな金の瞳を蝕んでいった。しかし、数千年前から続く大いなる加護も、覚醒した聖女にとっては幼子の戯れに過ぎなかった。聖女は逃げた。帝国から、国境から。人族は国境をある程度超えると死ぬ。しかし、聖女は例外だ。何故なら、国境沿いに造られた結界は聖女が創ったものだから。聖女の結界は全てを護り、全てを与える。聖女は結界を超えた。大河を超えた。大海原を超えた。深淵を超えた。
――そして、全ての始まり【始まりのダンジョン】に辿り着いた。
文才が欲しい(切実)