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少年期の終わり
「幻想ちゃんときちんと話し合った方がいい、それによって君には不福な条件を飲むことになろうとも、それを認めるのがガキの、子供では居られないって意志の現れになる。これを通過しない人間は」
「僕は、子どもおじさん、ってことですか」と新庄幸人。
「まあ、たとえガキだとしてもボクらはまあ受け入れる予定だが、君は何処かの世界線でも言ったように、それを受け入れない、大人になりたい男だってのは変えられないようだからね」とダエーワの大幹部である何某と自称する何者かは慈愛に満ちた瞳で何処かを見ているようだ。
「……彼女が、彼女本位の決め事を隠しているとは思えないが」幸人は簑笠府イリスという幻想の少女とは近しい関係である。彼女の思考パターンすら把握する程度には。
「そこはまあ、君の手腕に賭けるとしようか。そうだね、話し合いをしたまえ。そこで巧くやらないと異世界の侵入者によって、彼女は亡き者になりかねない」
「理解りました」と新庄幸人は"公園"を見渡しながら言った。此処は病院ではなかった。幸人にはその違いの認識はなかった。彼にとって現在とは今此処である。
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幸人の平衡感覚がふらつく。何かが飛んだ、そこまでが幸人の限界である。
「幸人さん、何が不安ですか?」簑笠府イリスは平然と訪ね返してきた。ここで何某らの助言が合ったとは言いたくない、言えば彼女は警戒するだろう。これ以上、彼女に対価を支払わせたくない。僕にも本当に秘密な情報を隠し続けるために彼女は何もかもを失う覚悟を決めている、と幸人にも分かるのだ。
「君が、僕の為に良かれと思っている、それをどうにかするつもりはない、でも君が君のために僕の本意を知りながら秘匿している事を何とかしたいのさ」何故かは理解らない。幸人は逸れを厭う、彼女はそのまま詳らかにすることを厭っている。
「それってなんなんですか?」言外に言い当てなければこのまま有耶無耶にすると言わんばかりのイリス。
「そうだね、君は僕にも気づいていない、何かに気づいて君の裁量で始末をつけようとしている、何か。これが気になって仕方はない、そんな物があったなら。君の主人様として僕は相応しいだろうか?」此処まではどうとでも言える。
「へえ。そんなもの合ったんですね」と簑笠府イリスは初めての眼差しで新庄幸人を見た。
「合ったのさ、そんなのが」新庄幸人はかろうじてそれを言えた。彼女の本音がわからない視線。イリスには珍しい。自身の痴態よりもなお秘匿する何かが彼女には在る、当然だろう。だが好ましい、彼女が僕自身に好意を持っているが、実のところ女性という存在を理解しているわけでは無いのが新庄幸人の正体である。
それが何かの間違いで、異能生産と異脳である|異脳聖餐《zombification》の2つを持ち合わせている。その為になんか自身を巡って、周囲が動き始めている。天動説か、何かなのか?いや哲学的ゾンビ世界観が正解だったのだ、天動説はあり得るか?
そんななかで、人間っぽいイリスは恐らく、トップクラスの頭脳労働者である。そんなのと張り合え、と何某らの超越者が言っているようなものだ。一体どうしろと?だが出来るというのがあちらの見立てっぽい。
考えられるのは逆算しか思いつかない、彼女が自身の利益を保護し、僕の、新庄幸人の利益になりつつ、僕の思いを踏み躙りかねない、そんなレアケースが起きているのだと、何某は言っていたのだ。
ヒントはそこまで。全く思いもつかないが、ここで当てに行かないとこの結末は、僕の、そしてイリスの気に食わない結果になるんだろう、だからこそ、何某らは傍観者を止めて僕にだけ助言に来たのだ。
「そろそろ、目の前の案件を片付けませんか?」イリスは、倒した刺客の手当を終えていった。
「眼の前って何?誰かな?」と幸人は慎重にイリスに言った。
「勿論、十二奥家の対処です」イリスは忘れたのか?と言いたげだが、実は世界の時系列が人間のそれに従わない、と知ったばかりである。すっ恍ければ普通の人間には指摘できない、だがイリスはそういう風に考えてない。
「人間の時間軸と世界の時間軸が一緒とは思えない」と幸人は言う。実体験しているので間違いがないし、異脳では因果関係こそが、原因(過去)と結果(現在)を保証している。そうだとイリス本人も言っていた。
「では、一体何が私に翻意があったと言うんですか?」イリスは異脳を此処で出したのは幸人もそれを確信していると言うのか?と言っている。話が早い。言質を取ることも省いてくれるのだ。
「十二奥家は、敵じゃないでしょ。そうだな、アレだ。僕の異能を奪った主犯だろうけど、僕を陰謀から外してくれて僕を殺さず生かした恩義も在るからね」幸人はこれで言い逃れられるとは思ってないが。
「まあ、確かに今回の主犯はその一派ですから、幸人さんを殺すには忍びなかったのでしょうか?」
「イリス、君は異能奪取の主犯を突き止めてるよね?誰かな?」幸人は問うた。そこがまず誤解という、着地点に誘導してもらおうという感じである。
「……四ノ原早紀、さんですね。あの人の御友人の『御手洗苑子さん』はご存知でしたか?」
「ああ、人心操作の。彼女が?あの子は早紀さんに執心で、僕なんかどうでもいいかと思っていた。イリスに到っては敵ですらあるのでは?邪魔者が一箇所に集っている」
「……言いたくはなかったのですが、早紀さんと幹雄君が実の兄妹、というのは周知の事実ですが、幹雄君方向からしか私達は事情を聞いてません。ここまでは結構ですか?」
「うん、僕も洗脳は一番分かり易い回答だと思ってた。ではそれの多角的な視点だとどうなるのかな?」
「まあ、その前に幸人さんは四ノ原早紀さんが好きだったじゃないですか?」
「初恋だったのは認めるよ。それで?」
「しかし、彼女には婚約者が居た。それが真行院幹雄君、貴方の親友です」
「そうだね、ミッキーが影となって助けてくれたりもした」
「しかし、そこには早紀さんの意図が複数混じっている。1つは彼が実の兄だという事実と、関係です。彼女は此処に誤解を与えようとしている意図があった。そこを見抜いても私ではその事実を指摘して言えないと理解っていた」
「別の意図とは?」
「……はぁ、言いたくないんですけど。私には何の利益もないから!それでも私は逆らえないんですが……ブツブツ」そういうイリスに他の意図がないように思える。ということは嘘ではないのだろうイリスに利益がない事実の開陳は。でもそこに暴くべき真相があると。
「聞いたことを感情を交えないで処理すると約束しよう」と幸人は真面目な顔でいうと、イリスの顔が見たこともない表情に戻る。幸人に好意的でない女性は、それこそが正体に見えるのに。これが嘘なら人間不信になりそうだと幸人は思った。
「……理解りました。2つ目の真相、早紀さんは、好意を隠すことで適切な距離を取れるんです。幸人さんと幹雄君から」
「……どういう事かな?」え?どういう事だ?と幸人は混乱する。
「早紀さんは幹雄君が好きだと偽る。そうして幹雄君とは距離が取れる。彼は常識人だからです」
「え?いや、確かに実の血縁者との結婚が可能な工作はされているから、いやそこは真実で良いんだよね?」
「ええ。そこは真実です、本来早紀さんも幹雄君もこれを阻止する為に活動に参加した筈です。ですが後に幸人さんと早紀さんが出会ってしまった。ましてや、密かに想いを寄せていた、なれば両者の合意が通りますし」
「えええ?早紀さんが?!……いや。確かにそうか。彼女とは」
話し合い終わり:仲直りックス
「……大丈夫?」
「……興ざめです。私は折角酷い彼氏に、酷い強姦をされて、その秘事の余韻に耽っていたのに。何時もの幸人さんに戻ってしまわれても私は次のこの機会が来ると理解っていながら目を逸らせていた」イリスは機嫌を損ねながらも視線を外したりはしない。
「予測できないほうが気持ちよくない?君の性癖だとお座成りな、形だけの性交だっていける口だと思ったんだが」
「はい!理解りました!!確かにレスな、冷え切った関係でも、耐えてみせますってのが私ですが!」と憤慨しながらジタバタ暴れるイリス。お預けしても、欠かさなくてもどっちも行ける、脳内で快楽に変換される、安い女の正体が簑笠府イリスという少女である。
「んーと、まあ僕はヘタレだけどね。傷つけたくない、安易に流されたくないってのは本心で真心だと思うんよ」
「そこは、疑ってなど居ません。飽きられても仕方ないと思ってます。私、自身でも痛感するほどチョロい穴という自覚はあります」
「……それで、どうやったら母を殺せるか?ってのはアイディア在るかな?」
「人工心肺装置は、貴方の権限で何時でも停止出来るようにします、これなら理も適用されて、なおかつ法律的にも抵触しない」
「えーと、法律、つまり君の言う、法理 規則を破ったほうが、同時に二つの世界規則を2つ満たせて効率的ではないかな?」
「いえ、そこはまあ2つも異脳を増やせて便利、という側面もありますが、それは非常事態であり、世界の終わりの厄災には世界を終わらせる異能という選択肢も有るので、2つも空いた枠は持て余しそうだと、思いまして」
イリスはセックス大好き少女だが、そうでない時は本当によく考えている、よく考える賢い少女だが、そうでない時間が余りにも長すぎたのである。




