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異能生産(Dehumanize)  作者: 赤石学
88/101

????(回想シーン2)


「発表してみませんか?」四ノ原早紀は何時ものように新庄幸人が書いてきた小説を読みながら言った。

「は?」幸人は意味が分からなかった。


「あの、新庄君はこのまま、何時までクリエイター志望のまま活きるつもりですか?」早紀は言う。

「あー、大学までは修行かな、そこまで行けばもっと作風を広める専門知識とか、学べたりするのもあるだろうし」幸人はまあ、乗り気ではないのは当然だった。自身の書いた物が一度も目の前の少女に受けた様子がないのである。当然と言えよう。


「はあ?そのままズルズルと燻って、社会人に成った後も修行続ける気ですか?」

「でもさ。未だに四ノ原さんに面白いものを提供できてないし」


「私の話は良いんですよ。そもそもこの手の創作物を嗜まない人間なんですから。でもこういうのが好きな人も居ますよね?このまま現実を見ずにこの夢を腐らしていくのが目に見えてますよ」

「これ、もうやるしかない流れ?」


「理解ってるじゃないですか。制作進行を私がやるので、そうですね。2クールアニメを想定した短編を何でも良いから書いてみましょう。ウェブ上に投稿して連載宣言、そして3日毎に更新を目標にしていきましょう」

「ええー。それって二次創作でいいかな?」と幸人は言った。


「元ネタが有るってことですか?」

「うん、俺が一時期ハマっていたゲームの続編がクソゲーでさ、俺なら公式よりマシ、みたいなのを書こうって思ってて。それなら10話程度を前後編にして出来そう、というかこれが受けなきゃ俺のとっておきを出しても限界がその辺かなって、諦めも付くから」


嵐真瞳武(らんしんどうぶ)ってシリーズで、初出は超マイナーゲームで、その同じ世界観を共有した伝説なカルトゲームが有って、それがそこそこ話題になって俺が遊んだのはその嵐真瞳武という奴からなんだけどね」

「それの、作品なら書けるってことですか?話を聞いているとそれこそ二次創作が沢山あって埋もれてしまうのでは?」と早紀は鋭い見識を見せた。


そうなのだ。その作品の二次創作は発売から5年以上経っても何処からか、何かしら出ているのだ。

だが、オフィシャルである著作権利を持つ発売元のメーカー、クリエイターからはお出しされた公式見解が、その伝説的なカルト作品の正統続編が、その、なんだ。意味不明で控えめに言ってクソだったのだ。

ゲームは地味、革新的なものでもない。かといって世界観が続いている、と言う触れ込みだが何処がそうなっているのか?意味不明なのである。

どれだけ好意的に解釈しても、これに意義を見いだせない。クリエイターの矜持というか、もっとこう、面白くする工夫が出来たのでは?と新庄幸人は素人ながらも思い至ったのである。

それでも、過去に実績があるのは事実。

有志によってゲーム内の膨大なテクストが発掘されウェブでまとめられて、そこから断片でもいいからこの作品のシナリオの断片みたいなのを組み直そうと有志によって探されたが、それを全て読んでも何一つ、この作品で語られている戦争が、このシリーズにおいてどういう立ち位置なのか?それを把握しているフォロワーは居なかったのだ。唯の一人も。


「へえ、新庄君はそれを出来るというわけですか?」

「少なくとも、答えの一つは提示できる。公式からオフィシャルのシナリオが提供されてない怠惰さに関しては批評する。そしてもっと良い物を書ける、と思う」


「じゃあ、それをやってみましょうか?では早速明後日にネームを提出してくだだいね」

「うわ、もう決定事項なのか」と幸人は青い顔をしながら、まあやるかと思ったのだ。


あれは10月か、11月だった。暦の上では来年の2月が来る前には最終話を間に合わせないといけない。星の巡りとか、そういう奴だ。

公式がかつてゲーム時間と、現実世界時間をリンクさせていたのだ。同じレベルで仕掛けなければいけない。

となると、最低でも5日に1回の更新、遅れを考えると3日に1回の更新を何回かやってバッファを確保しないといけない。


そうと決まると幸人の執筆は速かった。

初めての処女作である。稚拙であるのは誰の目にも明らかだった。

だが、3話を越えた辺りで、付いてきている僅かな読者の反応が好意的に変わっていく。

5話前後編は最高の盛り上がりに成った。


そして11話、最終話の直前でヒロインが闇落ちして、主人公との殺し合いは回避できない、となると俄然此処からの大団円は予想しにくい物となる。

計算通りである。否、途中でヒロインの交代劇をやってしまったので、四ノ原早紀が「マジで辞めて下さい!!」と悲鳴さながらの苦情を申し出たが、幸人は「仕方ないだろ、ラスボスが最高に可愛くなる展開が思いついたんだよ、王道的なヒロインを凌駕する邪道的なヒロイン、此れこそ俺が手掛ける意義だよ」と強行した。

最終話のボリュームは、締切が5日だったが、7話辺りから最終話の作業も並列していたので、4話分のページになった。恐らく500頁。通常更新では平均120頁だったから、四ノ原早紀が進行管理していたとは言え、処女作でこれを良くもやろうと思ったものだ、と満足の行く結末だった。

誰もが無理だと思ったハッピーエンドへの道のりに立ち塞がるメリーバッドエンドを力づくでねじ伏せ、大盛況でその物語は幕を閉じた。


ぴったりと1月末日に最終話は余すこと無く間に合ったのだ。恐らく閲覧者は100名どころか、30人居るのかも怪しい。だが、残った人は最後まで付いてきた。

そして、だいぶ後からスレッドには書き込まなかったが、ひっそりと更新されるこの無名の作品が刺さった人が数人くらい感想を述べていた。


「これが誰にもまとめられずに埋もれていくのもったいない、これは明らかに瞬間最大風速では公式を越えた」みたいな賛辞を述べていた人も居た。

何処の誰かも分からない彼らの感想を、幸人はプリントアウトして、心が折れそうな時には何時も読み返しているのを、四ノ原早紀は知っている。


「まあ、元ネタは私は知りませんが、知らない第三者に此処まで言わせたんですから、新庄君の夢は叶うと思いますが如何ですか?」

「ああ、うん。君がケツを叩いてくれて、僕も無謀と言えるこの数ヶ月は俺の人生で一番だったと思う。そしてこれ以上の物はもう書けないと思う。だからさ」


「こんなマイナー止まり、の時点で俺の夢は叶わないって、確信できた」

「え?どうして?」


「上位数%しか、食べていけない。俺は仕事をしながらその合間にこのまま創作活動を行っても芽が出る可能性はない、って分かった」

「理由を聞いても?」


「これは俺が世界で一番面白いと思って書いた。でも周囲はこれより上が有るって思ってる。そんなので結婚して妻子を養いながら、クリエイターとなって夢も叶えるルートはないんだよ。誰も彼も俺のこの最高の作品を唯の無料ただで読めるもの、以上には見ていない。この先に見て発掘する人も現れるわけがない。

これは"僕が"世界に問うた、俺が世界最強だ。と言う宣言だったんだ。でもこの程度しか読者は認知していない」

「まあ、確かに題材がクソゲーですからね。人気作品で競合者が沢山居るものなら話が違ったんでしょうが、新庄君にとっては」


「そう。俺にはこれしか無い。これが最高のエンタメなんだ、って事だったけど。リアルにはさしたる影響は、爪痕は残らないで消える。それが理解っただけでもやる意義は在ったかな。ありがとう、此処まで付き合ってくれて」

「力不足で申し訳有りません」


「いや、君が居なければ、本当に永遠に未発表で。燻り続けて終わったから。そこは良いんだ」幸人の表情には絶望と、やり切ったというのが現れていた。

「……」


「それに今回で痛感した。やはり独学と、他者のやり方を見るだけじゃ、これ以上はない、と。でも……」

「でも?」


「母から、このクリエイターの道を目指すのに経済的支援は絶対にない。そういう進路は取れない。だからこその母が納得しそうな進路を進みながらも、やるしか無いと思う」

「御母堂は協力しない、ということですか?」


「逆、妨害してくる筈だよ」

「どうしてですか?」


「恐らく母は、僕が一般的な進路に進んで、結婚して家を立てて、そして老後は扶養対象に入ろうと言うのを狙っている、と思う。これはほぼ確実かな」

「じゃあ、食い詰めながらも夢を邁進する新庄君の場合、御母堂は敵な訳ですか」


「そうだね」

「これを見る限り、チャンスに挑戦し続けない限り、貴方が大成する可能性はあり得ません」と四ノ原早紀はプリントアウトされた原稿をポンポンとしながら言った。


これは勝ち目がない戦いではない。

挑戦し続ければいずれ何かをまた生み出す可能性は高い。

それこそ、今度は四ノ原早紀が純粋に楽しめる、完全なオリジナルが生まれたら、それは駄作で終わらない可能性は捨てきれない。


四ノ原早紀は、生まれて初めて他者に殺意を感じた。



「なんで、次の作品を書かずに遊び呆けているんですか?覇主皇道;RE?ただのスマホアプリじゃないですか?」

「いやいやいや、これがなかなか奥深くて面白いのよ。実装されたキャラは多種多様で、メインシナリオはまあツマラないけど、キャラクターストーリーは本当に面白いんだよ。ハズレも沢山あるけど」


「やはりクソゲー?」

「いや、調整は神ゲーだよ。間違いない」


「はあ、理解りました。このままではその覇主皇道;REの二次創作が出力されそうですね、なので私もそれをインストールして遊びます」

「え?」


「お忘れですか?私は私を満足されるお話が読みたいのです」



こう言った四ノ原早紀の笑顔を見て、恋に落ちない新庄幸人派ではなかった。



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