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異能生産(Dehumanize)  作者: 赤石学
87/101

????(回想シーン)

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「これ、非現実過ぎませんか?ヒロインが主人公に惚れる過程が雑すぎませんか?」四ノ原早紀は新庄幸人に今度は恋愛モノを書いてこいと要求して、それからの感想がそれであった。

「なんて、勝手な」要望通りに書いたのに、と幸人は愚痴りながらも言いながら特に怒りもせずに感想を素直に受け止めた。


「やはり、恋愛物はモテない人が書けないものなんでしょうか?」

「作者への人格攻撃やめてくれない?」


「もうちょっと、リアルな過程を踏んでいくのではいけなかったんですか?」

「そんなにページ割いて居たら読者は離れちゃうよ」


「じゃあ、この題名が全部筋書き通りになのも」

「うん、今の流行りは読みたいものをすぐに見つけて読めるようになってるのが良いらしいね。俺もそれはどうか?と思うけど」


「私がそういうのを望んでいるんですから、流行りを追わなくてもいいのでは?古典の良さはやはり王道かと」

「そうだね、俺も最初はそういうのを目指していたんだけど、どうしても其処は書けなかった」


「思いつかなかったのではなく?書けなかった、ですか」

「うん、例えばだけど、家族の女性が母しか無いとしてだね。母が父と結婚した理由を忠実に書けないじゃん。なんで俺は母親みたいなヒロインを書いているんだ?ってさ」


「ああ~、確かにそれはそう」早紀は仮に自分に弟が居たとして、それと一致していたら兄弟の性癖とか暴露されている気分になりそうだ、と言った。

「弟?さんがいるんですか?」


「あ、うん。なんか私には兄か弟が居るみたい、なそんな複雑な家庭事情が」

「なんか面白そう。話がネタになりそう。詳しく教えてもらっても?」


「止めてください。この事実は話のネタにするのも憚られるので」

「理解りました、軽率でしたね。お互いに」幸人は最近は早紀にも皮肉交じりの冗談を言ってくる程度には態度が軟化していた。同じ年頃の異性に対する苦手意識は早紀には無いと見られていた。それが早紀にも異性の知己だという認識が薄かったのでお互いに遠慮のないやり取りになっていった。


「でもさ、別に家族ネタと被らなければ、リアルの事情に即した物は書けそうじゃない?」早紀はごく当然に現実的な具体案を出してみて言った。

「ん、エンタメにならない、からかな。四ノ原さんに見せるにしても最低限相手を楽しませる事にチャレンジして無いと、書く意義がない」


「なんでエンタメにはならないの?」素朴な疑問であった。リアリティは微塵もないと逆に説得力に欠ける、それが面白いとは到底思えない。

「現実の女は、現実を見てないから。そんな連中の恋愛は料理できない。そうだね例えれば食中毒確定と言っても良いよね。あいつらの評価点は瞬間して見ていない。

誰かに寄り添う思想がない。あいつらってさ、目に見える範囲で一番の存在にこそしか興味がないんだよ。そしてそこからわずかに外れるた存在を、まるで最初から存在していないかのように見る存在を、"人間として見ることが出来ない"。まあ、お互い様だね」幸人は断言した。


「それは、極論ではないですか?」四ノ原早紀は辛うじてそう言えたが、幸人の本音、彼の心の闇の深さと濃さを垣間見て、慄いたのであった。

「じゃあさ」と言う幸人の顔は見えない。そして


「じゃあさ、四ノ原さんはどんな世界を、恋愛を、いや他人への愛をどう感じているの?

俺は家族が、"人間に見えない"からさ、俺にとっての現在暫定人間の四ノ原さんの意見が聞きたい」とずいっと身を乗り出して尋問するかのように迫る。其処に他の意図はない。ただ聞きたいだけと言うのは疑いようがないが。

「待って!待って!近いってば!!」早紀は急に焦って、取り繕っている自身を抑えられず、素の態度が出てしまった。


後に世界を鏖殺する少女は、この時点ではただの小娘だった。


「ごめん」と言う幸人の顔から先程の深淵はもう見えない。四ノ原早紀は今になって思えばあの時に即答するべきであった、と。

「いえ。確かに、私も、家族を含めて、愛を感じることはありませんでした。過言でした。私も確かに世の女性の異性への興味の持ち方自体に共感がなく、それに関心を持てませんね、誰それが良い、などと言いながら自分だけの、信じるに足る評価を聞いたことが有りません。

皆さん、他人の評価を伺ってばかり。好きな人も他所の人間の評価を聞いて心の蓋をする、そんな場面を見てきたばかりですね」


「そういう点では、新庄君と私は性別さえ違えど、心の同士かも知れません。もっとも」

「もっとも?」


「私の生き別れの兄弟は、例外であって欲しいですね」

「君の家族とは違って生きているから?」


「ええ。もしかしたら毒されてないのでは?と」こう言った四ノ原早紀だが、後日見合いをした男性と婚約する事になるが。四ノ原の家、もしくは真行院家の悍ましい所業を知ってしまう事はこの時点では未だ知らない。

「そうだね、うちは兄弟も居ないから、それは望めないかな」こう言った新庄幸人だが。数年後、絶世の美少女に半裸で、彼女の命を賭けた脅迫に屈して、半ば強引に性関係を結ぶ羽目になるとは未だ知らない。



否、この時点ではそんな"未来も存在しない"。


だが、賽の河原にて、親より早く死ぬ稚児が、石を積んでいた。

その稚児は死ぬべき定めであった。彼女には未来がなかった。


この場合、定めとはなにか?運命と言うべきものだろうか?

否、そうではない。


人間はその瞬間の質量しか見えないが、過去から未来へと俯瞰してみれば体重が3kg前後から、成長し60kg前後?辺りまで増えて、老年期にはその体重も基本的に落ちていき45kgまで下がる。

単純に言えば、ある時点から生命を維持するのに困難な質量を維持できなければ、そこで命運が尽きるのである。これは運命論ではなく、決定的な物理法則である。

人は時間を遡行したり、未来へ行けないから見えないが、もし仮にその存在が居たら、人がいつ死ぬか?が理解るのである。


この時点で質量ゼロの人間は、それより前の、過去に遡って質量が自然に、もしくは人為的に減るようになる。これを現実から観測すると人は事故死だったり、不審死だったりするが、そこにオカルトが介在する余地はない。


だが、この稚児は自身が越えられない赤い死線レッドデッドスレッズを越えて、石を積んだ。その質量、否、ミーム的、もしくはこの世界の法則的に言えばエゴの強さが、物理的、ではなく代替質量として"ある者"に観測された。

これをもって、賽の河原の石の塔は、塔として成立したと何某は宣言する。


人の知性が、人の歴史に影を落とす。その影が深く暗く長いならば、その影の主は"塔"としか言いようがないのだ。

これでもって、塔は打ち立てられた。


これを佐爾波のザッハークは興味深くて見ていた。



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