Living dead Girl Dreams of Free Will Choice?
「君だけは殺意で以て、レールの切り替えができるんだ。君だけは自身の脳で思考して、直感どおりに過程を経て結論を出して、人を殺せるんだ」簑笠府イリスの実父、卿碁は新庄幸人に言った。
「僕だけは認知プロセスを経て、決定して選択していると?」幸人は突きつけられた事実に対して実感を持てなかった。
それはそうだろう。自身の思いどおりになっていると実感がない。
もしも、卿碁の言う通りだとしてもだ。この事態を作り出した存在は幸人の意図を先読みして、後手後手に回っている気すら有る。
確かに、相対的な哲学的ゾンビは有るのだとしても、だ。自身だけが最も強いとは思えない。
いや、その予兆は在った。だが、認めたくない。もしそうであるならば、"新庄幸人が世界を滅ぼす"という事実を認めなければいけない。
「それでは、十二奥家という知性場において、虚無派というものが蔓延っているのは、異能を創れる人間が原因だということに他ならないですか?それだとイリスは対処不能な物に直面していると言える!それは悲しすぎる!」幸人はイリスが何のためにその身を差し出して生き延びたというのか?あの子が自身の欲望を毎日吐き出されて慰み物にされるのが意味がないということになってしまう。
「……そういってくれてありがとう。だが、それは事の最初から理解っていたはずだよ、あの娘は。理解っていて無駄でも抵抗しなければならなかった、だという事だ。そろそろ君との契約を果たすとしようか。新庄君、君の異能生産で私に異片鑑定を造ってくれないかね?」卿碁は優しい表情でこの会談の本当の目的を促した。
イリスが知らない情報を提供する代わりにそうしてくれ、という連絡が幸人に在ったのだ。娘への行為や、娘の家への反抗、全て不問にするというカードを切られては罪悪感の有る幸人に断ることは出来ない。
「理解りました。今日のノルマは果たして無いのでこれで……あれ?」幸人は何時ものルーチンワークを行おうとして自身の力が機能しなかったのを初めて経験した。いや、防御系の異能を造った時と似た感じである。
「出来ないだろう?"同じものは"」卿碁はこの結果を理解っていたかのように言った。
「ご存知でしたか?」
「まあ、恐らくはこうなると思っていた。どうして1000年以上も力を司る家が変わらなかったのか?と考えるとこうなることは予め推測できた。
此処へ娘が研究していた理論を読んだ今は"こうなるべき"とすら今では確信できた。つまり、君にも逆らえない摂理が、規定から君に与えられた物だという事だ。これを娘は界理規定と定めていた。此処で言う規定は規模に対して最大7つから8つ程の物が有り、これを逸脱する者を除外する。
この世界を守っていると思っていた我ら、十二奥家もそれに飲み込まれた。君が知る歴史と、我らが辿った歴史に違いが有るのは何故だと思う?
世界を国を超えて牛耳っていた集団が、どうして先のグレート・ウォーで、異能を、力を失ったと思うかね?客観的な意見を聞きたいね」と卿碁は言う。唯の一般人に聞くことか?と思ったが今の現状を100年前から違うとして俯瞰して見れるのが幸人の唯一性である。
「戦争の時に、大流行したインフルエンザとか、帰国した兵士から……とかは?」
「模範的な解答で、それは正しい、が。娘の話を聞いた君からはもう少し踏み込んだ俯瞰した意見が欲しかった。対外的には"そう"。しかし、そんな事は我らも百も承知だった。だが、その時の我らは驕っていた、んだろうな」
「というと?」
「歴史に例のない規模の戦争。つまりはだ、超大規模な知性場を、本来歴史を管理する側が中側になって観測してしまったんだ」
「ああ、そうか。十二奥家が1200年前から歴史を陰ながら介入してきた。でもそれは自身が実験室に入ってしまってはいけない」
「その通りだ。娘の仮説に因れば、力を、異能を新たに生産してしまい、上位管理者に与えられる権限が、我らから消えた。そしてそこには本来居る筈の上位者が居なかった。故に界理規定はその本質である所の、偶然とか規則がない確率で無作為に異能を異能内の人間に割り振った、という訳だ。
これも娘が、十二奥家の当主等に理解できるくらいに理解りやすく仮説として流布したからこそ、異能の範囲内で我らにその常識が周知された、と君からは見えている、かも知れない。
と私は思ったんだが。よくよく考えればまあ、あの娘の父として、あの娘の知能と其処から来た考察を信じて疑わないからこそ、だな。親の欲目というヤツだな、これは」
「その十二奥家の、知性場では、"イリスの答えが過去に遡って貴方達に影響を与えたのはどの辺りですか?"」幸人は問うた。知性場では辻褄が合うように未来の情報が過去に飛ぶ。これが異能という知性場の怖い所だ。そしてそれを最初からそうだと疑えないのがエゴの弱いゾンビだ。
「そうだね、君のスマホに在った辞典にあった歴史を見ると、十二奥家は2回目を起こさなかった。これは2つの理由がある」
「2つ?」
「これは宇宙開発を遅らせても、でもそれでも最終的にリターンが見込めるということだ。君は宇宙デブリを知っているはずだよね?」
「宇宙開発において、過去のロケット打ち上げに因る衛星が壊れたりした部品が衛星軌道上を超高速で、飛び交ってそれが小さな礫でも、分厚い金属板すら穿つような破壊力を以て宇宙での活動を遂行できなくなるくらいのダメージを与えるのが脅威となっている事ですよね」
「ああ、君の知る歴史では活発に打ち上げが行われて一見これよりも、我らの認知する今の歴史は、君の知る歴史より宇宙開発が遅れたという見方もできるが、それが出来なかったばかりに今の衛星軌道上はとてもクリーンとも言い変えれる。
少なくとも君の未来よりは遥かに宇宙開発がしやすい、筈だ。しかも我らにはロケットの打ち上げという過程を飛ばしてしまう力もある」
「そうか、そういう事なら、むしろ宇宙開発が激化しないほうが、将来的には人類が最速で、デブリの脅威などに惑わされずに新しい地平である、宇宙にすんなりと到達できる。それが軌道エレベーター。
どうしてこの世界でそれが有るのか不思議だったけど、そういうことなら出来てしまうのか……」
「そうだ、歴史の終わりには二種類有るんだ。異能持ちが選ぶ歴史と、総意である異能の結論だ」
そういった簑笠府卿碁の前に闖入者が現れた。
黒い瞳で濁った存在だった。
「いやいや、困るよね。それ以上は行けないよ。困るなあ卿碁君?」と此処で第三者の闖入が問うてきた。説明と約束が違うと
「貴女は、佐爾波鏡子。傍観に徹しているはずでは?」今までずっと涼しい顔をしてきていた卿碁に明らかに焦りの表情が浮かんでいた。
それこそが十二奥家の、それも筆頭とも言える簑笠府家の当主が狼狽える事態を物語っていた
Living dead Girl Dreams of Free Will Choice?
「悪いね、卿碁君。それ以上は見過ごせないな。其処から先は"幻想ちゃんの決意を貶める行為だ、12の家の禁忌の機密漏洩の中でも最悪の興ざめ"、と言えよう」佐爾波鏡子は裁決を下した。
「何が、抵触したんですか?」卿碁は肩を落として項垂れていた。希望をへし折られた、という感じだ。
「歴史の終わりが、どうとかいう辺りだよ。それはいけない。子供達が可愛いのは分からないでもないが、甘やかすのはどうかと思うよ。
この先は子供達が血反吐を吐きながら、磨かれた尊い選択肢の行方を見守るべきだ。自身の罪深さを自覚しながらもね?」と佐爾波鏡子という"存在"は言う。
「しかし……」
「待ってくれ、貴女は一体何者なんだ?」と新庄幸人が話に介入する。
「いや、お久しぶり。新庄君。幻想ちゃんは元気にしてるかな?」佐爾波鏡子はニンマリと笑みを浮かべながら幸人に視線を向けた。
強烈な違和感を幸人は感じ取った。
絶対に有り得ない、そんな何かを。
だが、明確に言葉には出来ない。十二奥家、その13番めの序列の旧家。しかしてその実態は歴史を知り、力を知り、知性場すら把握している。何もかもを把握している異常な存在。
確かに目の前の人物が、女性がそうであると確信できるが。
そうか、そういうことか。
「貴女は一体誰ですか?」ごくごく単純な質問を新庄幸人はぶつけた。
「会ったことが有るじゃないか、一体何を言っているのかな?」佐爾波の家の者は尋ね返す。
「新庄くん君は一体何を?」
「卿碁さんこそ。何を血迷っているんですか?眼の前の佐爾波家の当主は、そもそも女性ですら無いんですよ。眼の前の人は明らかに女性だ。何某とかいう怪人は性別とかで括られる存在だったりしたんですか?」
「……、は?」卿碁は呆れたように答え、そして眼の前の人物を見直して、虚ろな虚像が雲散霧消していくのを実感した。これがエゴ強度の強い人物と一緒にいることで得られる知見なのか?と卿碁は改めて自身の娘の慧眼に感服した。娘が全額をこの少年に賭けた理由が理解った気がした。
「ああ、見破られるとは。簑笠の家の者と、新庄さんが出会う前に介入すべきでしたね。はあ、困りましたね。ですが警告はしなくてはいけませんね」と佐爾波鏡子は自身の髪を掴んで、手元に持ってきた。鬘であったが、それ取るだけで体格、表情、背の高さ全てが変化したのだ。
「それは一体?」
「認識阻害、という奴ですね。私の上司は今動く訳に行かないので、代理人みたいな者です。あらためて初めましておふた方。私が佐爾波の鏡子という名でこの世界に住んでいる人間です。
本当の名前は、まあどうでもいいですね。実際に戸籍としては私こそが佐爾波家の鏡子本人で、先日既に接触した私の上司が私を騙っている、という認識ですね。
そしてそれ以上は幻想ちゃんに不利益になります。簑笠府の卿碁さん、これ以上は御自身も利益がない、私は上司が望んでいないし、何より鏖殺ちゃんと幻想ちゃんの競争が破綻するのを止めにきました」鏡子は言う、これ以上は無粋だと。
「どういうことかな?佐爾波、の人。娘が何を失うと」
「貴方の娘の勝利条件を勘違い為さっている、事です。貴方の娘の勝利条件は"新庄幸人が生存すること"です。卿碁さんの支配している知性場の"簑笠府家"を越えて居るんです。そんな狭い見識では彼女の足を引っ張ることになりますよ」
「どういう事だ、イリスが望んでいるのは忘れられないこと、じゃないのか?」
「くふふふ。まあ、なんとか上司と同じことは出来そうで何よりです。そう、歴史の終わりのもう一つの方は誰かに新庄さんが唆されるのではなく、貴方が掴み取って記さなければいけません。
故に卿碁さんからこれ以上は終わりの怪物について聞くことはお薦めしません。私の話をもっと聞くと良いでしょうね」と認識阻害が解けた佐爾波鏡子は、本物の何某と違い、若干の人間味が有る感情の籠もった視線と、蠱惑的な笑みで口の端を吊り上げながら言った。
「よっと、邪魔です。もっと端に寄ってくださいよ。私が座れませんから、卿碁君、新庄君もっと詰めてくださいよ」と鏡子は言った。
「あんたは一体何者だ?イリスの本当の目的は一体何だ?」
「そうですね、私も自分の同胞を見るのは初めてですからね。私は新庄君と同じで個として成立している三頭首の怪物。コードネームはザッハーク、と与えられてます。この世界が滅んだ後にはそうですね、佐藤とか田中みたいな平々凡々な名前に憧れる怪物の一種、です」
「僕は、アジダハーカとか言われた気がする。一体何なんだ?」
「奇頭の怪物は、基本的に世界に益する存在ですね。と言っても普通の人間、幻想ちゃんのお話によれば偶数の頭(unheaded
undead)にとって、奇数の頭を持つ怪物は排除する存在に見えますね。
新庄君が荒井耕造に殺されたのは単なるイジメの一環では有りません。明確に殺意でもって殺すしか無い様に見えちゃうんですよね。
それを後からイジメだとか、弱者であるから、とか言われる訳です。問題なのはこれを殺しにかかっているのが、世界を滅ぼす四つの塔と、無関係なので私の上司は新庄君を保護しようとして居たわけですね。
これに関しては何か意味があるとかではなく、ただ単純に人間蒐集という趣味を持っているだけなので悪意も善意もないんですよね。
ですが、この世界を滅ぼす四つの塔を、私達ダエーワを除けば対抗しうる唯一の存在なのも、これまたアジダハーカである新庄幸人のみ。困ったものです、早く仕事を終えて帰って頂きたい所ですが、上司が仕事熱心なのも部下は困りますよね」
「ああ、つまりはエゴの強さこそがこの世界で、世界の行く末を正確に観測できる、最も重要な要素で、それを強く持っているからこそ、世界に選ばれた、とか?」
「そうではないです。因果が逆です。元々、君の異能生産の力と、異能の|異脳聖餐《zombification》は別々なものでしたが。
まあ、この世界の住人が世界の滅びに抗いたいと言ったので、私の上司は悪趣味なことに、この無理ゲーが成立させる為に、君を巻き込んだ訳ですね。
そして、君と鏖殺ちゃんと幻想ちゃん、そして現実君と、妄想君が選ばれたわけですね。それぞれ誰が誰か?理解りますか?」
「イリス、現実君はミッキー、妄想は荒井の事かな?じゃあ鏖殺ちゃんは、四ノ原さん?」
「概ね当たりです。何故概ね当たりなのかはその内理解るでしょう、それで質問はもう無いかな?」
「僕は今回、卿碁さんとは異能生産の事について、力を作ると言っても唯一性の物で、一度作ったものは同じ物を作れない、と教えられた。これは聞いてもいいですか?」
「ああ、なるほど。そういう事ならむしろ説明しましょう。十二奥家としては、このまま幻想ちゃんが無敵が持ち続けていくことに危惧しています。
そして彼らは何とかして南の極点を手に入れることにやっ気になっていますね。そうですよね、今現在、幻想ちゃんの無敵を攻略する手段がないんですから。
となると、彼女の契約者である新庄君が生きてさえ居なければ、となるのは必定です。これは幻想ちゃんも危惧しているでしょう。新庄君が脅かされるのであれば、と」
「それは、真行寺幹雄君も言っていたね。矛盾するようだが異能で以って、異能を無効化する。そうでなければワンサイドゲームになってしまう、と」卿碁は言った。ゲームバランスが崩れれば唯一の攻略法である、新庄幸人を害する方向に走りかねない。
「しかし、そういう力は異能生産で創れてないんですよね。なので」
「いえいえ、卿碁君と話していたじゃないですか?既に創っていた異能の二個目はもう創れないと」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。それだと先日僕が洗脳された時に、異能生産を複数創る事は出来たじゃないですか?」幸人は反論した。同じ異能が創れないなら先日の事件が説明がつかないのである。
「そこは、私から説明させてもらおう。3つ目の異能生産を渡されたが、それには"時間制限"が付いていた。その異能には寿命が在ったんだよ。恐らく、幸人君が主導で創ったものはそうはならない、と思う」と卿碁が説明を補足する。
「はい、その通りです。真行寺君らは防御系の異能を創ろうとして、攻撃に偏った物しか創れないと早合点した。ですが既に創られていたとしたら?異能をキャンセル出来る唯一の事例を新庄君は知っているはずです」ザッハークは言う。
「それは……」
幸人は見ていた。イリスの無敵が敵の攻撃を、力とそうでないものを区別なく、無効化していたのを。
「まさか」
「はい、そうです。彼女の無敵の正体、それはスキル枠を専有しないように一枠に圧縮した、防御系の異能の集合体、と言ってもいいのですよ」




