女子たちの作戦会議もしくは恋愛相談所
「私は幸人さんの何かの逆鱗に触れたかも知れません……梢お願い助けて下さい」簑笠府イリスは震える手を組みながら、引きつった口端と、真っ青な表情で今にも泣きそうに彼女の侍従の梓梢に尋ねた。
「……聞きましょうか?」梓梢は主人から何がまろび出るのか怖くて、でもこの契約者は金払いが良いので覚悟を決めてそれに応えた。
「最初に聞きますが、イリスお嬢様に心当たりはりますか?」梢は恐る恐る聞いた。
「心当たりがありすぎて……一概には何とも」イリスは予想通りの言葉を放った。梓は頭を抱えたくなる。
「では、新庄様とのやり取りをすべて話して下さい」
「……あの、それは幸人さんの名誉にも関わるので」イリスは顔を赤めながら言った。一体どうしろと?梓は頭痛を感じてきた。
「それはそれとして、梓は山乃原君と沖ノ島君と喧嘩は起こしていませんか?」イリスは逆に聞いてきた。
「いえ、それが。二人の恋人と言う私の一方的なワガママにも関わらず三人で割と仲良く過ごせてますよ。二人がどちらも抜け駆けしようとしてギスる事もなく、仲良くて。本当に二人共に報いたいんですが、何処かに良い女性が居れば良いんですが」梓は惚気けていった。
「ちっ、上手くやりやがって」
「お嬢様のほうが浮気無しで此処まで拗れるんですから、私に文句言われる謂れはないんですが」
「私のスケベの師匠は貴女でしょうに!!」
「確かに性教育は大旦那様に命じられはしましたが、その師匠をあっさりと越えられましたからね。出藍の誉れと言う奴です。まあ、過ぎたる及ばざるが如し、ともいいますね」と梓が言うとイリスはぐぬぬと唸った。
「理解りました。此処では他人の耳が気になります、ですのでリリスを貴女に送ります。そこで聞いて下さい」イリスはそう言うとイリスの完全な模倣体である異能を使ってきた。
「あ、そうですか」梓は新庄君とスケベ以外の行為を行っていないのか?と疑問に感じた。其処に真実の全てが有りそうだと思った。
「ん??」梓は一つ違和感に気づいた。何故、この異能がイリスが持っているのだろうか?元々これは異能生産という最凶のデメリット持ちの力を、イリスの無敵でコストを踏み倒す、その為に作ったのではないか?少なくとも秘密のメッセンジャーとしての役割ではあるまいと。
「どうかしました?リリスは無事機能してますか?」梓は聡明なイリスが、こんな事に気づいていないと言うのが引っかかったが、イリスの脳内がピンクに染まっている場合は当てにならない脳味噌というのも長年の付き合いで知っていた。
「困りましたね、私は」リリスは己の本体にうんざりしながら言った。
「そう言ってないで。実際にはどういうやり取りをしましたか?聞かせて下さい」
「……そうですね、あれは……」リリスは梓の脳内でイメージを再現して過去のやり取りを見せてきた。
・
・
・
「幸人さんおかえりなさい。……父は何か失礼なことを言いませんでしたか?」イリスは心配しているというより、余計な事をしでかしてないか?と気が気でない。
「いや、立派な人だったよ。言動からは旧家の因習に染まりきった当主の雰囲気とかはなかったよ」新庄幸人は刹那の恋人を諫めるように言った。
「そうですか、それなら良いんですが」とイリスは仕方なく納得したかのようだ。
「僕の親のことを言われたよ、君がやってくれた事について、だったよ」
「余計な真似を」イリスは珍しく、憤ったかの様は表情を見せる。
「本当に有り難いと思ったよ」と幸人は穏やかなことを言う。
「ッ!?え?幸人さんは本気で言っているんですか?アレはっ!私が、あの女が赦せないと思って!しかし、知らずに済むならそれが一番だったんですよ?!」イリスは声を荒らげて言う。
「?どういうことかな?確かに、"今の"母から隠されていたとしても、僕の父は僕の親権をあのオバさんから取り戻そうとして戦ってくれた。日本じゃ女親の親権が脅かされず、男親が勝てないケースが殆どだ。でも親父は諦めずに戦ってくれたんだよ。
親父とは言葉をかわした機会はほぼなかったけど、愛情がなかったとしても義理を果たすための行動は……ちょっと待って。イリス、君の話は父が僕の親権を母が手放さなかった、事じゃない、よね?」
「……いえ、そうではなく。……その件で間違いがないです。"表現が"間違ってました」
「……君とは付き合いが短いけど、少なくとも僕の父よりは濃厚な時間を過ごしたよ。君の"それ"は明らかに卿碁さんに聞いた話とは関係がないよね?君は僕に虚偽を言えない筈だ、どういう事だ?」幸人は珍しくイリスに怒っている。信頼は地道に積み上げても崩れるときは一瞬だ。
・
・
・
「リリスそれ、可笑しくないですか?新庄君を、彼を激怒させたのはその一件なのでは?明らかにそれです。お嬢様の悩みというか、相談はそれで終わりなのでは?」
「それが、私は、例えそれが不信を買うとしても、"その事実"が幸人さんにとって明らかに実害を引き起こすから、と言って最後まで隠し通しました。彼の母親が操られて、それを切っ掛けに幸人さんが操られる原因となったんですよ?それを知らせたらその犯人が"私達にとって知己の人間が彼の母親を口封じした"、知られてしまいます。
私は無敵を解除されても口を割りませんでした。それが幸人さんを納得させたんですよ。命を賭けての態度が幸人さんの信頼を取り戻した、その筈です」リリスは断言した。
「……確かにそれでは、その人物が四ノ原早紀の知己、愛來さんの異能、身体の欠片を手に入れて遠隔的に操る。
そう疑ったから裏を取るために幸人さんの実家の彼の部屋を調べて、その部屋に幸人さんの体毛の一切が無くて、明らかに彼女の呪術めいた異能が彼の母親を通じて、幸人さんの体毛を手に入れる経路になった。
だからこれは完全に追い詰めるために調査が完了するまで"絶対に彼には話せない"から、今の今まで隠してきたんです。伝えるには時期尚早です」梓は言った。幸人の母は何かを通じて愛來の異能の発動条件、幸人の体の一部を手に入れた。それが先日の異能生産、強奪事件の真相であった。
「でも、卿碁さんはワザとやったんでしょうか?幸人さんの母親が、元旦那と親権を巡った裁判での戦いを伝えて、娘が隠していることを引き出すように仕向けたとか、そういう線はありますでしょうか?」リリスはそう梓に尋ねて聞いた。
「いえ、ここではそれはあまり関係ないかと。しかし、異能生産のデメリットをお嬢様に押し付ける事で危ない橋を通らずに済んだんです。これを幸人さんにとって再び手元に戻るのは腑に落ちないと」
「其処なんですよね、イリス(本体)が語れない情報をリリスから聞き出すのはあったと思いますが」
「まあ、私は此処で話したことを本体に持ち帰れませんが、リリスはくまでお嬢さんの考えを再現できるだけの存在です。幸人さんに入った時にそこで全部話した可能性は無きにしも非ず、ですがもう一つ付け加えると」
「なんですかそれは」
「幸人さまのスマホを無断で使用して彼のポルノ動画サイトを履歴を見たのがバレたくらいですね」
「いやいやいや、それが一番のだめなところでしょうが!!」
梓は、自身の主人の言動がもう怖くて仕方がなかった。




