マジシャンズセレクト
「なにかいい帆布方法はないかなあ」と真行院幹雄は呟いた、独り言である。だが、同じ部屋に居た四ノ原早紀に聞こえてしまった。
「例の異能ですか?」四ノ原は話が早い。
「俺が街を見て回って、すれ違いで広めても良いがな、管理が煩わしいのが目に見えている……」今は知己だけで賄えているが、
「新庄くんと、真行院君、何時も毎日二人連れ、まああまり良くない手だと思いますね」四ノ原は幹雄の話の先を補足した。
「複数欲しいな、せめて一つは確実に、しかしそれとなく頒布方法が流布してなおかつ、こちらに足が付かないのが望ましい」幹雄が言うのは難問である。自分にとても都合が良いと言える。
「腹案があります」四ノ原は自分の知性を売り込むチャンスと見て、助け舟を出した。
「ほう、言ってくれ。どんな手でも藁をも掴む思いだ」幹雄には珍しい弱音である。
四ノ原は虚勢を張る男が好きである。その虚勢が崩れるのを見るもの好きなのだ。良いものを見たと満足した。
「占いはどうでしょうか?」
「オカルトだな?」
「もう!そもそもこの案件は紛うことなき、オカルトです!」四ノ原は事実を述べた。そうである異能など既におかしいのである。
「ああ、そうか、そういうことなら開き直るか?しかし足が付くのは逃れられないのでは?」幹雄は当然のことを言った。
「偶然が3つ揃えば人為ですが、偶然が2つまでならそれは乱数です」四ノ原は自信がある様だ。
「概要を聞こうか?」
「私の通う女子高には、旧校舎があります。立入禁止の。そこを恋のおまじないの儀式会場にします。意中の彼に恋敵の存在を知らせ、その故意を破局するのを願う、その為の呪術、と言う名の異能を与えます」
「ロケーションにはうってつけだな?だが、その度に新庄がその女子高に侵入しなければいけなく無いか?」疑問はもっともである。
「手品にはマジシャンズセレクトというのがあります」
「お、そうか。そういうことか」
「はいこの手法の利点は、予め頒布したい異能を相手が選んだと思わせられる点と、自身が恋敵の破滅を願ったという事実をこちらが把握できる点、最後に咎のない人を呪うなら異能枠も複数ある可能背が高い」四ノ原のこの言葉が契機になって幹雄は腹を決めた。
「四ノ原、頼めるか?」
「ええ。私の後輩と友人に口が堅い学生が居ます。彼女らに協力を仰ぎましょう」
「でもそれだと、女性しか能力を付与できなく無いか?」
「男性にはもっと簡単な手段がありますよ」
「それはなんだ?」
「マッチングアプリですよ」
「それは、そのなんだな?モテない男性諸君の悲哀が伝わってくるな」幹雄は顔を知らない、マッチングしない非モテの男性陣に同情をした。