DeadEnd 承前1
DeadEnd承前1
「……」新庄幸人は背筋に走る冷や汗を感じながらレンタカーの後部座席で居心地の悪さを感じながら揺られていた。
「……」簑笠府卿碁は簑笠府家の当主とは思えない、自らの手で車を運転している。セックスフレンドの実父とのドライブである。怖いしか感想が無い。
「此処ら辺でいいか、新庄君、昼食は取ったかね?」卿碁さんが聞いてくる。
「ええ、ホテルで」
「ふむ、一応聞いておくと味は良かったかな?」
「ええ、あのホテルのシェフ、腕がいいので何時も美味しく頂いています」
「ああ、それなんだが、梓の報告ではシェフは初日だけで、以降は娘のイリスが用意しているんだよ」と言いながらドライブスルーで「月見バーガーのセット、コーラで」と注文していた。
「え?いや、一体そんな暇あったんですか?」幸人は日がなまぐわろうとするイリスが手料理を作っている暇など無いと思っていたのだ。
車は人気のない真昼の公園に着いた。
卿碁は「君も、知性場に放り込まれるのは嫌だろう?」と言っていたので、イリスの研究は父親にも
「あの娘は、多方面で手抜きが上手い。かと言って雑じゃない。手を抜いていい場所とそうでない場所を確実に抑えている。十二奥家の騒動が無ければ、外に嫁に出すのもやむないと思っていた。家の為に、力の器として一生を過ごすよりはよほど。あの娘の才能は世に問うべきだと思うが、なかなか親の思いどおりにはいかん」と卿碁はボヤきながら昼食を摂っている。
「手抜きですか?」
「ああ、君に出されている食事は全部家電で、うちのホテルのシェフ、ウチの家でも腕利きの総料理長が泣きそうになりながら『私と同じものを5分で作るんです、家電で』とボヤいていたよ」
「うわあ、なんて酷い」幸人はその人に同情した。
「だからまあ、あの娘が自らの足で出奔してくれて、父としては嬉しいと思うよ、ただ君の方は娘に何か不満を持っているらしいが、何が気に入らないかな?」と卿碁。
「いや、家柄とか、婚約者とか、居る娘に、しかも年齢がその、アレじゃないですか?」と幸人は言った。
「生まれなど気にするな。むしろ悍ましい近親婚の末、で生まれた娘だ。正妻とまでいかないが、どうかね?君の血筋を探ったがどれだけ遡っても"我ら"の血が出てこないのは願ったりだ。あの娘も君に懇意のようだし」
「普通の父親は、娘の恋人、とかに反感持つものじゃないですかね?」幸人は世間の常識を問うた。どうもこの卿碁という人物理解が有りすぎる。
「この間、娘から仲睦まじそうな写真を送られてきた。だが仲はどうやら正式な恋人でもないようだ。此方としてはこの際、相手の出自を問わないことにした。残りは扱いだけだ。未婚の母にだけはしてくれるなよ、という気分だ。内妻でも良い。子供が出来た時に認知してくれれば父として言うことはない。此処まで譲歩しているんだ、新庄君から良い言葉を聞きたいところだが?」
「……まあ、普通はそうですよね。でもね、娘さんから『認知しないで欲しい』って昨日言われたんですが」幸人としては父娘の方針の違いを指摘せざるを得なかった。
「何を言っているんだあの娘は?」
「ですよね、僕もそう思いましたが、それが唆るのだと言って聞かず」幸人はややうんざりしながら言った。
「……娘から聞いていた新庄君とは思えないな。何か娘と取った写真は有るかな?」と卿碁さんはスマホを寄越せと言う感じで手を伸ばしてきた。
「ああ、はい。幾つか僕が撮ったのが……あっ!クソ、あの女!NSFW以外の奴、全部消しやがったな!」幸人は悪態をつきながらスマホをいじっている。
「この際、良いから見せ給えよ」卿碁は気にしないから、と言いながらスマホを幸人から取り上げてそれを見た。
「ああ……」セフレの実父にまさかのハメ撮り動画を見られる羽目になったので頭を抱えてうめいた。
「……なんだこれは。いや流石にこれは大きすぎるだろう?なんでこんなのを平気で飲み込めるんだ?あの娘は"やっぱり"恋人を改造する計画を実行してしまっていたのか……」卿碁は幸人を責めること無く、娘の予想してたかのように痴態に驚くことはなかった。
「あ、そのお父さんはご存知でしたか?」幸人は恐る恐る聞いてみた。
「梓から報告は在った。あの娘のお付き歴は長い。あの娘が四六時中ポルノサイトを巡っていると聞いてね。そこで説教をした。あの娘を野に解き放ったら即座にそこら辺のサイズのでかそうな男に跨がろうとすると思ってね。男性のサイズと強度に幻想を抱くな、と言ったのだが、言ったんだがなあ……」
「ああ、そうなんですね」幸人は三つ子の魂百まで、という言葉の意味を改めて思い知った。
「なんか、済まないね。君の異能生産が、娘を日の下に出られるようにしたというのには感謝している。だが、そこを逆手に取って自身の野望を実現する算段を立てているのでは?と疑っていたんだ」
「あ、予想は出来ていたんですか」
「まあ、梓が既に抱き込まれている可能性は考えてなかった……、梓、あの娘の雇い主は元々私だったんだがなあ。いつの間にか全額あの娘が出している様になっていた辺りで察するべきだった。此れでは嫁にしてくれとは言いにくい阿婆擦れではないか……」
「まあ、梓さんも結構な性癖持ち主だったよね……」梓梢が年下彼氏を2人侍らせて、毎日3人で愉しんでいるらしいと聞き及んでいた。出元はイリスと、山乃原と沖ノ島の自慢である。
「君には苦労をかけるが、預けていいかな?」
「まあ、可愛いので良いですよ。もしかしたら気の迷いで結婚するかも知れませんが」
「はっはっは」
「顔が笑ってませんよ、お義父さん」
「まだ早いだろうそれは」
「良いじゃないですか、持参金代わりに教えて下さいよ。当主の貴方しか知り得ない事実を」
「ふむ、まあ良いか。降嫁というほどには簑笠府は世俗に染まりすぎた。妻を宥めなきゃいかんがいいだろう、それで聞きたいことは?」
「3つめの異能生産、卿碁さんが持ち主ですよね?」
「それが聞きたいことかな?」
「いえ、その対価を得るために何の代償を払ったのですか?」
「我らの家の滅びを見過ごせ、とだね。娘の研究に因って知性場という場に因って、底には、其処にはそれを強いた者が抜けても、役割は引き継がれる。まるで個性など無いように、だ」
「それは一体誰が?」
「そこは言えない。暴露することは見逃すことに成らないからね」
「では聞き方を変えます。貴方がたは皆、異能に飛びついた。力の復権です。其処では本来存続を望んでも、再びの滅びを願うとは、そんな知性活動が行われる場が発生し得ない。保守派、改革派、穏健派、武断派のそれぞれの家の名前はどれですか?」
「ふむ、面倒臭いな。11の家の事情を全て話すには時間が足りない、せっかく監視から逃れたのに、だ。なので言える事は簑笠府はその4つ全部に内通している。真行院も同じ。だが」
「だが?」
「真行院は、分家の四ノ原、分家の中でも更に血の薄い荒井家。これらが混然となっている。佐爾波家が滅びを促したとして、誰が『こんな因習の旧家を復興させるな』と発想した誰がそうなのか?という事になる」
「残っているのは幹雄君と、早紀君。だがどちらも決定打には成り難い。しかし此れは知性場という特殊なクローズド・サークルでの完全犯罪だ。此処まで言えば我が娘なら犯人に辿り着くだろう」




