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異能生産(Dehumanize)  作者: 赤石学
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ゾンビ仮説(BadEnd)


ゾンビ仮説(BadEnd)



3年前


「やあ、君が●●●君かな?」

「はい、わたくしがそうです。貴方が教授の言っていた先生ですか?」


「ボクは先生と言うには相応しくないな、だが知識だけは蓄えているだけの存在として扱ってくれ。君の論文を読ませてもらったよ。非常に興味深い内容だった。働きアリの法則を人間にも延長し、知性体としての振る舞いは"場"が多大な影響を与えている。ふむ、同じような主張は見たことも聞いたことが有るが此処まで遠慮がない物は初めてだよ」

「もしかして間違ってますか?」わたくしはペラペラと無遠慮にめくられる紙束を注視しながら言った。


「いや、模倣子ミームの振る舞いが、量子的に振る舞う。此処までは良い。だが、君は人間以外の知性体の可能性を考慮して、人体を全て機械に置き換えても知性活動が生体と遜色なく可能、と言うなら模倣子というミクロな物ではなく、マクロでの知性活動を問うべきではないか?と君に言いに来たんだ」

「……知性の相対性理論、ですか……」わたくしは暫し思索に耽る。


そもそも、この論文はわたくしが7年前の簑笠府家と真行院家、その分家筋の四ノ原、荒井の子供達が佐爾波家の当主の元で7年後の災厄に備えて見出された事に端を発するのだ。

端的言えば妬ましい。その時に参加できなかった年齢のわたくしが。いわば悔しいのだ。偶然、間が悪い。それだけと理解っているが理解るだけに理不尽を感じている。

もし、"その場にわたくしが居たのなら"、と。

そうして歯噛みをしながら"余生"を過ごしてきた。


「是非見たいね。ノーヒントで此処まで来たのなら、ヒント在りきでなら……まさかまさかの、君は単独の個として怪物に成り得るかも知れない、どうだろうね?」と不敵に嗤う眼の前の人物。

「……怪物?それは一体何ですか?わたくしに声を掛けたのは、仮に後から来た人間が先に選出された正当な四人からその座を奪い取る、そんな事を赦すのですか?佐爾波家の当主は」わたくしは目をそらさずに言う。


「ふむ、誤解があるようだね。ボクは個人的に見込みが或る奴の、その限界点を見極めたいだけなのさ」言葉とは裏腹に冒涜的な叛逆行動を待っているかのように嗤う眼の前の人物は。

「期日は?」


「出来上がってからでいいよ」

「しかし、それではわざわざまた国を跨いでいらっしゃった貴方に手間を取らせてしまいます」


「ああ、其処は気にしないでいいよ。此方には時間的制限は”まだない"。実のところ"彼"の決心が未だ決まっていないものでね。なので好きに時間を掛けて仕上げしたまえ」

「それで宜しいのであれば」



・・・半年後


「なるほど。知性体の活動に於ける、場の効果による"相対的ゾンビ現象"。知性とは賢者と愚者とその中間者の比率で決まる。前の論文での確率論を残して、残りはマクロな知性活動を相対性理論をなぞって居るのは良い匙加減だね」

「はい、例えばその三者の『愚者』の割合が増えれば、賢者の価値が上がります。ですが此処で賢者の知恵が愚者に伝わるかどうかで、知性場(ゾンビ)は良いものと悪いものと別れます」


「君は知性という概念は、知恵が有る者、知識が有る者、ではない。と断じた訳だね」

「はい、賢者の知恵を愚者が理解は出来ません。そうして賢者が愚者を無用と断じてしまう。賢者の知恵が高まることと、愚者の愚かさが極まることは正反対の様で居て、実はコインの裏と表の関係で同一の現象なのです。これを知性場(ゾンビ)では『知性が下がる』としか思えません」


「それは、その中間者が知性活動の仲立ちを全うできなくなる。いわゆる知性活動のミクロ化。この場合は」

「そうですね、両極端化した知性は更にその強度をエコーチェンバーによって強めていきます。まるで大質量体の自転、この場合は三者の比率が移り変わっていくわけですが、それも止まって自滅の一途を辿ります。そうですね此れこそが知性場(ゾンビ)の終わりの形の一つです。一際燃え尽きる蝋燭のごとく光り輝き終わる。いわばHappy End。」


「一つと言ったね?では別の終りもあるのかな?」

「逆にその知性場(ゾンビ)が均一化、賢者と愚者に境界線が無くなることです。賢者が愚者に、愚者が賢者に、仲介者もどちらかになります。この場合は知性場(ゾンビ)の白痴化が膨張、巨大化する、みたいな感じの終わり。悪い終わりです。灰色の終わり、いわばBadEndみたいな感じかな?と」


「ふむふむ、でもまあ、まだ在るよね。これは恒星の話ではなく、多様性に富む知性場(ゾンビ)の終わり方だ」

「では、これらの知性活動の維持の終わり。知性は知識と経験が遺される物。更に次世代に継承されなくてはいけません。知性場(ゾンビ)が活動成功すればする程、部品のパーツの入れ替えとメンテナンスが重くのしかかってきます。それでこそ禅譲みたいな健全な次代への以降が行われるべきですが。

情報が欠落して言って、歴史から消え去り、新たな物ではなく過去に在るものを再発明してしまう。これは歴史の終わりです。これは今の地球みたいな知性場(ゾンビ)と言えましょう」


「12の家の管理者としては大変耳が痛いねえ。だがそれを踏まえてなお気になる点が在る。それはだね?」

「それは一体なんなんですか?」


「君は大学で、実験をしたね。賢者と愚者を擬似的に被験者の学生に役を降る為に、現時点で最も最先端の理論を扱った小試験の作成。しかし君と教授の目論見は崩れて、実態としてそこの実験で小試験で不正が在ったと。

此処には抜けている視点がある。君が気づけていない盲点がね。さてこれが君には理解るだろうか?」

「抜けている点?」


「この試験を行った"場"というのが知性場(ゾンビ)だということだ。この場に居る者は全てがゾンビだということになるね、君と教授が傍観者のように外から実験の観測しているとしても、だ」

「しかし、確かに教授陣も実験の現場に居ました。なので教授も……確かにいわゆる"賢者"でした。とすると観測者効果が発生していた?」


「そうだね。そして此れに因ると"知性活動は愚かしさと賢明さは同じである"。ならばこの実験において最も愚かしい活動と最も賢明な活動は具体的には何を指すのかな?勿論、そこの小試験はそうではない」

「そうではない?」


「ああ、ここでの賢者の条件とはこの知性場(ゾンビ)においては『テストの答えを識っていることではない』、ならば何か?君の恩師である教授が賢者のポジションに"居続ける"ことだ。

この場合、試験は"成功しない"事が肝要となる。では彼は実験を意図的に成立させなかったのだろうか?これは違う。わざとやっていればそのポジションで居続けられない。

何故ならその情熱こそがあの知性場(ゾンビ)を成立させるのに重要だからだ。克己心こそが君の論文を成立させた。此処が最も重要となるね、その熱源は何処に在るんだろうか?君には理解るかな?」

「……わかりません」わたくしにはこの人の言うことが"何故か理解った"が、"理解った理由が理解らない"。


「君だ、君がその知性場(ゾンビ)には踏み込まず、その場の外からの真の観測者であり、君が覗き続けたからこそ、君に協力した教授はその実験を完遂できた。『実験は失敗だが、次こそは成功させる』という結論を維持し続けられた、と言える」

「……」わたくしは絶句した。まさかいやこの論文が間違っているのは理解るが、失敗したということが正解なのだと、何故理解るのか?


「教授は、わたくしから見て、まさか、彼もゾンビなのですか?」

「そうだね、君から見れば殆の存在はゾンビだと言える。ボクから見れば君もまあゾンビなのだが、話をしたいと思う程度には人間と言える。これは何で決まるか君には理解るかな?」


「ゾンビと人との違いは哲学的ゾンビでは精神クオリアの有無です。ですが相対性ゾンビ仮説では強度があります。これがわたくしが、その自覚力、もしくは我を通す意志が強いと?」

「そうだね、当にその通り。エゴとも言えるし、精神クオリア強度とも言える。どっちにしても君が発端で、君が観測し続けていたからこそ、表向きの実験は失敗し続けたが、観測者は君のお陰でこの知性場(ゾンビ)は維持された続けた。

この場合の因果関係がとても重要になる。試験の失敗とかは枝葉末節に過ぎない。では原因、因果は何だろうね?」


「貴方が、わたくしに唆して、その気にさせて、教授に相談して、実験の手筈を整えた。実行したがわたくしがそれを辛抱強く観察した。そうして知性場(ゾンビ)にはそれを維持し続ける結果が生まれた。因果は貴方です。わたくしより貴方のエゴが強く、その言葉を持ってわたくしは情熱に因る意欲で実験を完遂した。

この場合試験は失敗し続けてもらう結果となる。何故ならその場の維持こそがわたくしの求めるものだから。この情熱はわたくしが"日本からリモート学習で現地の外から居たこと"で巻き込まれずに済み、全容を解明できた、ということで宜しいですか?」

「いいね、概ねその通り。そしてこれは知性場(ゾンビ)における重力井戸みたいなものだ。中の存在は一度参加したら抜け出せない。これをとりあえず"塔"と呼称しておこう。知性が落とす影、それが長くて昏いならば、その構築物を"塔"以外の呼び方はないと言えよう。だが、内部の知性場(ゾンビ)はそれ故に一つだけゾンビの特権が有る。此れは何だか理解るかな?」


「特権?なんですかそれ、わたくしにはそんな物があるとは思えないんですが」

「ゾンビ故に、時系列における順序に逆説的な現象が起きる。この中では因果関係と時系列は必ずしも一致しない。未知のテストが出されたとしても、誰もが答えを漏洩しなくても"答えを予め知ることが出来る"。何故なら相対性ゾンビの意識は知性場(ゾンビ)の内部では弱い精神クオリアでも知識は共有されているからだ。

故に答えを予め知って解答を終えた後に、その後で試験官が答えを漏洩するんだ。この場合は因果関係だけで時系列は『漏洩(結果)』、『解答(原因)』となる訳だ。理解できたかな?」


「それって未来の情報を識られる、ってことですか?」

「限定状況でのみ、だね。何故ならそれはゾンビしか起こらないし、未来の情報を未来のものとはゾンビは見えない。ゾンビは時系列に並んだ物としてしか記憶を想起できない。彼らはそれを自覚できない。これが一般的ゾンビ相対性理論という訳だ。だがエゴの強い、もしくは精神クオリア強度の高い者が居た場合、客観的な観測として未来情報を得られる。

此処での問題は『精神クオリアの強い人間が自らの主観でのみ観測できる』だ。では、未来の情報は観測できる?」


「……出来ますが、時系列でしかゾンビの脳では処理をしません。ですが」

「ですが?」


「つまり、観測者としてのエゴの強さで更なる上位者が居ればそれを判断できます、筈……しかし……」

「なるほど。君の論文の欠陥というか限界は、君はこの実験の結論を"失敗にしてしまった"。君もかなりのエゴの強さが有るからボクの話を何故か理解できている、しかしこの実験における真相。

『悪意に因る情報は漏洩していないが、知性場(ゾンビ)効果により情報を共有できている』までは、辿り着けていない。これを仮に君よりエゴの強い人間が君の側に居れば君は実験を成功に導けるという訳だね。

ふむ、そうだなあ。君さえ良ければ君の研究を完成させるのに協力する、そういう流れに持っていける。だが出来るかなあ?君にぃ?」佐爾波家の当主はニヤリとしながら言った。まるでお前にそんな事ができるのか?と。


「そんな事が出来るんですか?」

「君がこの研究に対する執着の強さに因るね。君が何もかも擲つ(なげう)なら君の目の前に答えを送りつけられるよ」


「……研究自体にはそれほど、執着してません」

「理解ってるよ。君はこの世界の災厄に対して立ち向かって抵抗したいんだろ。ボクが招集した英雄候補の4人の席を欲している訳だね。良いよ、その条件を飲もうじゃないか。その代わり君は人間としての尊厳を擲つ事になる」


「それはつまり、わたくしよりもっと人間らしい人間が出てくると言いたい訳ですか?」

「そうだ、ボクの探し出した真の人間を君の側に置ける。それよって君は自身が尊厳も人権も持ってないモブにしか過ぎないと認めさえすれば楽になる。そして君の望んだ席も用意できる」


「良いでしょう。わたくしはそれに乗ります。相手が真行寺君でも、荒井くんでも」

「勘違いしているようだね。彼らは違うよ。君と同じだよ。真人(トゥルーヒューマン)の御側役に過ぎない。ボクが欲しいのは4人ではない。そいつだけだよ」


「では君さえ良ければこれで契約が結ばれたと言うことで計画を進めるがまだ疑問は有るかな?」

「歴史が改変された場合、ゾンビと人間で違いは有るのですか?」


「あるよ。ゾンビは自身が改変後の歴史を正しいと認識する。人間は歴史が変わっていると認識する。例えばだ。今から君の決断を聞いてボクが過去に遡って、君の両親に『君の子供は片方しか生き残らない』と伝えたとする。この場合君の"名前"は次代の当主の物となるか、それとも断種するする者としての名になるか?どうなると思う?どう見えるか?」

「ゾンビは改変後の名前になる筈です」


「では、人間でもなく、ゾンビでもない場合、どう見えると思うかな?」

「……それは難しいですね。どっちも見えそうで見えないかも知れない」


「答えは両方だ。君の名前は変わる。だが変わった後で『事情があり名乗る名前と戸籍の名前が君の親が改竄した』と認識する。では君の名前を改めて聞こうか?簑笠府さりゅうふ千兎畝ちとせ君?」

「え?あれ?わたくしは?ちとせ、いえ確かにそう呼ばれた筈……でもわたくしはイリス。誰かがわたくしをそう呼んだ。なんで?」


「そういうことだよ、歴史が変わった時点でゾンビは君の名前は最初からイリスだと。しかし真人(トゥルーヒューマン)から見ると指摘する後から千兎畝ちとせだった筈だ。

しかしそのどちらでもない当事者は『千兎畝であり、イリス』である。君は感知できないが君の要請を受けての結果、君はこの事実を指摘されるまで気づけ無いが、指摘されれば差異に気づけるポジションだ。

ちょっとした歴史改変が起きても、精神クオリアの強度が低いゾンビだと改変後の世界でも平気で過ごせる。だが、精神クオリア強度がある程度高いと歴史改変の影響をモロに受けて生き残れない。その中間の存在は明確に指摘されると両方の記憶が残っていることに気付く。だがそこは知性場(ゾンビ)の強さに因ると言っておこう」

「以外でした。てっきり自我の強い人はそんな影響を受けないものだと」


「自我のないやつほど記憶改竄の影響を受け難い者だよ。エゴというのは他人に自身の世界を押し付けるものだとも言えるからね。他人に負わせる事で自身の負荷を軽減している。まあ勿論最近はゾンビ共も人間の振りをしていると言えなくもないね。嘆かわしいと思わないかい?」

「……なるほど。まさか目の前でゾンビと人間の違いを見せつけられるとは思いませんでした。この"人間らしさ"というのは何処まで適用されるのでしょうか?」


「人間の業によるものまで、だね。例えば歴史書などは顕著に出るが、全てがそうではない。大体は"その身に帯びるものまで"という辺りだ。納得は行ったかな?では君が新たな参加者として名乗り出たということで良いかな?簑笠府イリス君?」

「はい、どうぞ」


わたくしは受け入れがたい現実を前に気を取られて、その時の言葉をあまり気にしていなかった。が、後になって思えば佐爾波家の当主はとても誠実に事実を述べていたのだ、と気付くには幸人"様"に出会うまで年月と成長を必要としたのだった。



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