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異能生産(Dehumanize)  作者: 赤石学
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バッドエンド討伐後 敗戦とゾンビ


敗戦とゾンビ



「はあああああ。負けた。負けました。完敗です。有り得ない。どうして?」簑笠府イリスは自室のベットでふて寝していた。彼女は珍しく、メスらしく全裸では無かった。シリアスモードである。機嫌が悪いがそうなのだ。

「なんか、ごめん」新庄幸人は思わず年下の(恋人?)(セックスフレンド?)相棒に頭を下げた。


「いえ、幸人さんは悪くないです。わたくしなら本来は読み切って完勝している筈だったんです。これに関しては完璧に、佐爾波家の当主である佐爾波鏡子(何某)の読みと、準備が上回っていました。まさか宗家の方々がわたくしの卒論を読破していて、内容も信じている、そんなことはないという甘い想定でした」とイリスは語る。

「え?そういやイリスは中学生じゃなかったっけ?」幸人は十二奥家の当主が有能とかいう降って湧いたワードに反応せずに、一番ヤバい情報である其処に触れた。


「え?いや、あのわたくしは幸人さんには契約の関係で虚偽を申せませんよね?」と言うがイリスの目は泳いでいた。

「『一昨年の時点では君はランドセルを背負わなくて良い年齢』って言ったよね?」これは幸人がイリスの実年齢を周到に隠されていると気づいた時に問いただした時のエピソードである。


簑笠府イリスは埒外に頭脳明晰であり、この異能アビリティーを扱った戦略では、幸人側に多大な貢献をしたのは間違いがない。

間違いではなかったが、この異能アビリティーは『犯罪者だったり、悪党ほど複数の異能アビリティーを保持できる』と言う仕様のお陰で、善良な能力者を増やしにくいのに、異能そのものも『防御方向の異能を作り難い』『1日に1つの異能アビリティーを創らないと幸人の命への負荷がかかる』と合わさって凶悪な結果を生み出しかねないのだった。

だが、この俊英の少女は巧みに、幸人と異能生産(Dehumanize)の仕様の穴をつき、遂には完全無害化させたのである。


彼女と出会う前にも、親友の真行院幹雄や、四ノ原早紀も知恵を捻ってくれたが、破滅を遅らせる程度であったと言えよう。

だが、イリスは頭が良すぎた。幸人へ助言を促すと同時に、己の欲望も忠実に叶えてきた。


イリスが得た異能アビリティー無敵(アイギス)精密雁札(Supernote)リリス(淫魔)の3つ。

幸人の異能アビリティーは、異能生産(Dehumanize)誓約成約(ダブルバインド)三重身(アジダハーカ)の3つ。


まあ、どれもこれも使い勝手は非常に高いのだが、悪用も出来る。誓約成約(ダブルバインド)などは他人との契約を結ぶために特化したモノだが、この世界において契約とは人間の重要臓器と其処を流れる血流によって促される為に契約自体はおまけ、本体は「人間の結合組織を操作する」物となったのだ。

そのせいで、色々とイリスとはそれに付随した行為を行う羽目になっている。

だが、"その行為自体は年齢次第では倫理規定に抵触する"ものなので、事が明らかになった場合、幸人は加害者になってしまう。なのでイリスに実年齢を聞いたのだが、




「幸人さんに虚偽は申せませんが、知らなくていい情報を渡すのも抵触します」

「ヒントですか、一昨年には、まあ、ランドセルを背負う必要はなくってましたよ、言えるのは此処までです」

「ふふふ、幸人さんがぁ、"本当の覚悟"が出来たならぁ、一枚の書類を書く過程でぇ、教えることも出来ます、ね?」



と、怖くなったので追求を辞めた、というのが実態である。


「まあ、良いじゃないですか。その話題は。とりあえず、わたくしはこの世界において発生する知性に関しての論文を書く為にとある事について研究していて、それが切っ掛けで佐爾波家の目に留まることなったんですが」

「凄いじゃん」幸人は素直に褒めた。


「ですが、自信満々で書いた奴でしたがボツ、というかリテイク食らっちゃってぇ、仕方ないから統合された一般性まで保証した研究の成果を幾つかに小分けしてそれぞれで論文書いたんですよ」

「それが?」


「はい、それが『哲学的ゾンビ仮説世界における知性の場において』です。これでもわたくしも大学の教授陣から厳しい査読されて、本当に生きた心地しませんでしたが、

最終的には再現性のある実験も出来て、通ったんですね。そういう過程を経ているから」

「ん?おかしくない?哲学的ゾンビ、相対性ゾンビか。それって観測できるものなの?実験も一体どうやって?僕なんかそういうのが有るってだけで驚きだったんだけど」


「はい。わたくしも『働きアリの比率』という程度の物で満足できる筈だったんですね。それが出来ちゃいまして。どうやったか知りたいですか?幸人さんにはあまり興味がない話になりますが?」

「いや、すげえ気になるから聞きたい」


「知性というのは、知識とその活用と定義されがちですが、わたくしは『働きアリ理論』から、賢者、中間者、無知者の比率が一定に保たれるとしました。この比率を変えたり、固定したりする、みたいな思考実験をしてみたいなあ、とね」

「ああ、そういう話なら理解りそうだ。つまり知識を溜め込む識者と、知恵を行使する実行者、それを仲介する、もしくはその中間の識者と実行者を兼ねる者が、行ったり来たりする訳だね」


「はい!その通りです。これは大学の小試験を密かに実験場にしました。これに関しては大学の恩師が骨を折ってくれて実現しました」

「ほお、それでどうなったんだい?」


「最新の知識、技術を産み出した研究分野の権威の講師、その場でテストを実施、それを応えられる学生と全て揃いました。そしてその知恵が、知識が如何に学生に伝わるのか?という現実の実験が行われた」

「どうなったのかな?」


「誰も識らない知識だから、伝わる経路は目に見える筈だった。試験官がひっそりと答えを漏らさない限り、でした」

「でした?」


「厳密に人選した筈の試験官から、試験の解答が漏れました。しかし何度やっても"誰も識らない筈"の試験を解ける受験者が一定の割合に出ました。しかも既知の過去に行われた通常の試験と"大差がない"、と。

此れに関してはわたくし大変憤ったものです。"折角の仮説の為の試験が邪魔された"と。ですが恩師の教授はそう受け取りませんでした。何故なら彼は何度も何度も学生を相手に不意打ちの試験を行ってきたのです」

「ん?どういうことなのかな?」


「つまり、わたくしの没となった最初の仮説が成り立ったんですね。そもそもこの論文の最初は"知性というフィールドにおいて、識者と無知者の関係は移り変わる"というのがテーマでした。それを以て"相対的哲学的ゾンビが現実に成り立つ"と」

「識者というのが此処でのテストの作成者で、実行者は受験者。試験官がその仲介、という事だね」


「これを火中の栗に例えると愚者とは火の中の栗を水を使わずに大火傷を負いながら拾う者、賢者は水を使えと助言する者、水を取りに行く仲介者、という感じですね。

ですが愚者が経験で学んでくれると賢者の知識と知恵が愚者の行動、その愚者である確率を減らしますが、それでも愚者は出ちゃうんですよね、ってのがゾンビ仮説の肝です」

「そこが、よく分かんないんだよね。もっと詳しく」


「はい、賢者と愚者の比率とは、これが変わるのか?一定に出来ないか?という思考実験をしまして、人の、いえ"知性体の比率を固定しても変化させてもそのフィールドは成り立たない"と言う『矛盾仮説』が最初期の論文で、それを小分けに分離したのがゾンビ実験の論文というわけです。

ですので、そこから話を始めないと何故知性体とその比率の話になるのか?と難しくなります」

「矛盾仮説?」


「つまり、知性というのは量子的に振る舞うのではないか?と言うのがわたくしの初期のアイディアでした。何故この宇宙で知性体が生まれたのか?それは炭素を元にしたものでなくケイ素化合物を素材とした知性体が跋扈する"歴史が有っても良い"と発想しました。では、その場合私わたくしら」

「ケイ素系人類というのは、化合物の少なさからあり得ない、という理論も有ると思うけど?」


「いえいえ、化合物の多さはむしろ知性体としての発展の逆になる可能性も有ります。この場合、複雑系としての生物のシステムとしては癌のような、もしくは光学異性体の転写ミスと言った自家中毒みたいなケースが発生して居ます。

なので化合物の複雑さが無い、必要最低限の単純さというのは頑強な生命システムを構築できる可能性があります、として話を進めますとわたくし達は肉体というハードが変わったとしても知性体としても成り立ちうる。ならば知性というのは"最低限再現性が有れば発生するもの"と言えます。ここまでよろしいですか?」

「どうぞ続けて」


「となると、この世界には"知性とは物理法則として発生する"という|物理規定《physics code》が存在するとします。この様に仮定することで知性のフィールドの振る舞いを物理学として扱えるようになります。すると波動関数がそのまま場の知性活動を顕す式として転用できます!!凄いと思えませんか?

これで弱い知性と強い知性、引力を持つ知性などなど可能性が広がります」

「ふうむ、それは凄いな。というと哲学的ゾンビは『観測した瞬間に、人間になる』ということでいいのかな?」


「幸人さんは勘所が良いですね。そうです、その筈でした」

「筈でした?」


「ええ。米国の最高学府の教授はそれに丸を付けてくれたんですが、実はわたくしを受け持つ教授の師匠というべきか、名誉教授という人が、ソレにペを出しました。誰だと思います?」

「ええ、僕はそんな人達の名前を知らないんだが?」


「幸人さんも知っている人です。よーく考えてください。最高学府の教授、博士号を持っている権威、それを一笑に付す存在ですよ」

「あ、まさか」幸人は一人だけ心当たりが在った


「何某さん?佐爾波家の当主、佐爾波鏡子」幸人はイリスらの師匠的な、教導者が一人だけ思い当たることに気がついた。あの正体不明の怪人であるならば、此れ以上に何かが掘り出されても納得が出来た。

「はい、あの人から『量子論ではない、知性というのはミクロではなく、マクロサイズの活動の成果だ。相対性理論を使いなさい。特に一般相対性理論だね』と。

そこからわたくしは半泣きで卒業に間に合わせるべく書き上げたものです」


「なるほど、だから"相対的哲学的ゾンビ"という訳だ。相対性理論は光の速度を不変としているけど、この場合知性は不変ってことかな?」

「幸人さん、それは特殊相対性理論です。一般相対性理論は"場"としての"歪み"を説明したものです。なので"知性体の場"を説明するには此方が向いてますね」


こうしてイリスに拠る知性体の集まる場所での"歪み"が語られることとなった。


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