バッドエンド討伐完了
バッドエンド討伐完了
海洋を進む空母。それは三都首を抑えたアジアの大陸の蛮族を誅する正義の艦隊の筈であった。
正義こそは良識のある凡人が求めて止まない世界秩序である。そして秩序というのは暴力によって維持されるものだ。
問題は暴力を振るう側が常に勝者だからこその、常勝であることを疑いもしなかったことである。
勿論、本来なら油断も、満身もなかった。だが、この世界線においてその国はその満身を挫く経験が無かったのである。
賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ。
では。学べない存在は愚者であろうか?否、ならば賢者であるか?それも否。それを死者という。この世界において"歴史に障れない存在は生物学的には生きていても相対的に死者"であった。
正義の艦隊は、まず上空からの飛翔物、否。貨物が降りきた時にそれを目視した人間がその意味を理解できなかった。
その"貨物"が降ろされた。空母の限界積載量は2万トン、貨物は軽く5万トンを越えていた。
世界最強の空母が沈んでいく。空母内の大量の人間と一緒に海の藻屑と消える。
次に、低軌道を飛ぶ飛翔物が降ってきた。衛星である。軌道を計算されて落とされたそれは地球の上空を回り続けることはなく、艦隊のど真ん中に落ちる。
10隻あった空母はその飛翔物が海上に落ちた衝撃で、転覆する、いやそうなる様にされた。
余人には見えなかったが、見易い飛翔物に隠されるように天空から意図が、糸が、垂らされていた。
それが結びつき、空母の端を吊り上げた。
尋常ではない強度の、現実世界で有り得ない紐が其処には在った。
蜘蛛の糸。地獄へと垂らされる、救いの意図。しかしそれは単一の救済者だけでなく、周りの者もまとめて釣り上げようと、ワラワラと振り降りてくる。
礫の如くの飛翔された衛星で沈んだ艦は幸運だったと言えよう。
そうでない空母は、釣り上げられて、あり得ない高度から振り落とされた。
ただ其処に悪意はなかった。その高度は糸の長さが足りなかったからであって、本来なら成層圏を越えて持ち上げられる物であったのだ。
亜細亜の三都首へと集結した統制の取れた軍隊は、戦力集中を狙っていたのが仇になった。
戦争の神は、悪神には抵抗力がなかった。
それに巻き取られた、人類最大の兵力は質量兵器として、それにそのまま盤上に打ち直された。
ドスンドスン、ドスン。大河に大石を放り投げる遊びのごとく、水柱が立つ。
児戯の行為の結末は決まっている。過剰過ぎる破壊が、相手の呼吸が止まるまで行われるものだ。
此度の世界の終わり、BadEndは、再びの世界大戦の兆候はこうして討伐された。戦争すら起こせなかった、人はこの時に現実に何が起きたのかさえ理解することなく海の藻屑と消えた。
恐ろしいことに、これがDeadEndでも、HistoryEndですら無かったことだ。此等が残っている順番に首を落とされたなら、これ以降も人間はこの事件を認識できないのである。
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「まあ、此処まで上手くいくとは。では議長。帰還いたしましょうか?我々の新たな拠点へ」少女がそう言って髪をなびかせながら言う。不敵な笑みで嘲笑って言った。
「ああ、そうだな、帰るとするか。天橋立へ」議長と呼ばれた男は己の異能を起動してポータルを開放する。そこへ吸い込まれる少女と議長の男。
「君の言う通りに、君に踊らされてる気がしないでもないが。此れで我々の宿願も叶うのであれば、代償としてはつり合いそうだ」議長は踊り手としても、意志を持って持ちながら踊っているのだと主張する。
「なんの事ですか?私もコマですよ。勿論、新しい十二奥家の大義。屍人を間引くのではなく、労働力として活用し、知性は私達の繁栄に影を落とす災厄では無く、自らの塔を打ち立てるのだと」四ノ原早紀が言った。
「そうだ、我々は世界大戦を再び起こせずに頓挫した宇宙計画を遅れた分も含めて、此処で"他の歴史より"先んじる。彼の端末に残っていた"痕跡"が我らの答えが正しいのだと後押ししてくれた。我々は今すぐにでもこの軌道エレベーターを完成させて、人類をこの星から退去させる。その為には白人共主導の思想に靡く暇はない」
「思想汚染と、知性漏出、私達の世界を滅ぼす、目に見えない、頭の無い怪物。此等に対処できなければ。間引く戦争はもはや制御不能な規模に膨れ上がり過剰な死者を増やしその1つの終わりで行き詰まり、間引かなければ"2つ"の終わりが歴史の先を潰します。
では最期の終わり、皆が勝利する結末という終わり。其処に十二奥家は辿り着かなくてはいけません。人類未踏の場所に」早紀は保守派としての本懐を述べた。だが早紀はこの陰謀劇の真相に最も近い場所に居る。
終わりから避けに避けて、逃げに逃げて、立ち向かってその果てに何もない。そんな事に耐えられようか?
当の最初から、この4つの終わりが出現した時点で、人類は詰んでいるのだ。
そもそも、十二奥家とは、佐爾波家が選んだ、歴史の果てに断種と為った系譜なのだから。
何もかも、十二奥家という旧家の当主らの思惑通りに推移していくように見えるが、彼らすらも操っている黒幕は衛星軌道上の高みではなく、地べたに居た。
「さあて、よくぞ此処まで辿り着いてくれた。この労働に見合った待遇が君達には無くてはね……此処までの忠節大義であった。後は"彼ら"に任せて休み給え」佐爾波の当主はそう言って盤上から大駒を落としていく。
12種類の駒は、王と玉、象、飛、角、金、銀、桂、槍、太子、竜王、竜馬。そこから撥ねられず残るのは。
「桂馬と香車、歩。太子は実質王だけど、彼が"間に合えば"盤上に王が置かれHappyEndが為される。でも、君は其処に到れるのかな?"二歩"が禁じ手ではない事に気づいてくれると面白くなるんだけどね、新庄君?」と残った駒を愛おしそうに眼差した。




