矛盾許容世界モデル1
矛盾許容世界モデル1
「この世界が矛盾しているって言ったら信じます?」四ノ原早紀は取り巻きの少女に言った。
「どういう事でしょうか?」早紀の取り巻きの一人、名前で話さずにコードネームで呼び合っている。青を与えられた少女は早紀の言葉の意味が分からない。傲慢には程遠い謙虚な態度である。
「佐爾波さんの計画では、新庄君の異能生産を量産するのは避けられない、というのまではこちらも理解っておりましたし、その意図を認めた上で出し抜く、これが私達の計画、私達という旧家に居ながらもそれを否定する集まりでした」早紀はこの集団が十二奥家に対抗する集まりだと言った。
「ええ、それは私も理解してました。それが何か?」青は言う。矛盾した世界とはなんだろうか?と。
「では、何故新庄君の異能生産を残しておいて、2つ目のそれを、不動天の家に渡した。その裏で3つ目の異能生産を、その行方を血眼になって探して、私達はたった今、それが簑笠府の家にあると調査の結果理解りました。ですが」早紀は言いよどむ。
「……」ようやく、青の少女にも早紀の言いたいことが理解ってきた。
「それが、力を失ったはずの簑笠府家が、十二奥家の中で、権力を失わずに居れた"理由"がその3番目の"北の極点"と"天狗の蓑笠"を10年前に既に手中に収めていた事実を、私達は見逃す程愚かでしたでしょうか?」
早紀は先日喪われた3番目の異能生産の行き先が10年前だとは想定してなかったが、だがよくよく思い返してみれば既に10年前には簑笠府家は没落していく十二奥家の中でも例外的に辣腕を振るい、権力の座から落ちることはなかったのだ。
だとすれば、10年前の時点でそれを奪い合うこともなく、かと言って不動天の立場を脅かすこともなかった……それは何故だろうか?という疑問が生まれたのである。
「……まるで、私達が見失ったのは、それは時間遡行をしてそれが渡った。渡った時点でようやくあの家は権勢を得た?」そういう事なら話は筋が通りそうだが、青はその言葉に違和感を感じていた。
「何故、10年前に?それでは新庄君を先日襲撃して、異能生産を創る理由が消えます。簑笠府家、その当主の狗翁殿から分け与えられれば良い。なのでこの世界は矛盾しています」
「確かに。あの家は復権派でも、改革派でもいるというスタンス。それは同士討ち、闇討ちを避ける立ち回りの筈……」
「そう言えば、あの子の卒論は"矛盾許容世界"でしたっけ。世界は矛盾の線上に存在し、合理と混沌の境界線上に無ければいけない、と。その知見を得ていたのであれば、世界がどっちに傾いても対応して動ける……これが?」早紀はイリスと同じ大学を出ている。彼女の論文は今の状況を説明できはしないか?と
《一方その頃》
「矛盾許容世界モデル?」幸人はイリスからそれを聞いていた。
「はい、世界は矛盾していないと破綻する、という感じです。矛盾には二種類あって、破綻するのと破綻させない、の境界線上に濃度により変わります」
「濃度とは?」
「集合における、自然数の個数と、偶数もしくは奇数の個数が無限にある、その場合前者の濃度は後者に対して倍の濃度が在ると言えます。そういう感じで破綻する世界と、しない矛盾した世界が在るんです。私の大学の時に出した論文を思い出しました。まさか、幹雄君が3番めの異能生産の在処を知っていたとは……つくづく因果なものだと思いましたよ。」
「ミッキーはそれを知っていながら、僕らを見逃してくれたんだから恨み節はそれくらいにお願いね?」幸人は十二奥家の保守派というか、維持派に属していると言っていた。
「まあ、それはそう、そうなんですが」イリスは納得していない。
「俺は、実のところ、十二奥家の世界コントロールのノウハウ無しで、このBadEndと、DeadEndが越えられるとは思わない。そしてどうせ早紀はHappyEndを狙っている。となると選択肢はそう多くない。俺は多分BadEndか、DeadEndを選ぶしか無くなる」
「HistoryEndじゃダメなのか?」
「ダメだ。それベストではないがベターの終わりだ。そしてHappy Endというあからさまな約束された決着が在る。恐らくそこには俺の求める決着はない」幹雄は悲壮な覚悟でそういった。
「じゃあ、僕はそのHistoryEndを狙っていると言ったら?」
「頼もしい、任せたいがいいか?」
新庄幸人は笑顔で「当然」と言った。




