バッドエンド8
バッドエンド8 解凍
そのホテルの最上階に真行院幹雄と、彼に支えられた新庄幸人が辿り着いた。
その部屋のベッドには簑笠府イリスが昏倒して寝かせられている。
「新庄ぉ!!遅いぞ!!イリスちゃんが」沖ノ島が叫ぶ。
「すまんが、叱責は後で聞く」幹雄が遮った。それどころではない。
「ミッキー、異片鑑定に解析されず、異能を使いたい。抜け道はないか?」と幸人が尋ねる。
「そこは、異能全般に言えることだが、力は時空間軸しか参照していない。勿論、それを操作する、解析する場合距離に比例して解像度が下がる」幹雄は力に関する正確な説明をした。
幸人がイリスを抱き上げる。恋人のものに見えるが、力、特に異能と呼ばれるものを知っている者には別の見方がされた。
喉に口が触れるくらい、腕が頭、脚を股に、胸と胸が触れる。力の契約に必要な臓器を全て抑えている。此処まで密着していれば何方が主で、従か?理解るまい、ということだ。
「イリス、起きて」幸人がそう言って誓約成約を発動、彼女を護っていた力を取り戻させると異能生産のコストである正気消失から昏倒していたイリスが目を覚ます。
「は、幸人さん?」イリスが目覚めるとこれは想定済みという感じで直ぐ様に状況を把握する。
「幸人さんよくご無事で。それで……ん?幹雄くん?ということは」
「ああ、まだ見張られている。さっさと力を創れ、その情報を以て第一の塔は結実するのでな」幹雄は十二奥家の大望を最小限の言葉で表現する。
「最悪の想定ですね。幸人さんこのままで、何かノルマを熟すモノを"創ってください"」イリスが今の異能生産の所持者であるから、この発言は正しくないが、状況的には一番正しい言葉である。
「バーチャルイリスちゃんを創りたいけど良いかな?」幸人は意味不明なことを言う。
「は?何言っているんですか?幸人さんの良い所は私にチョロくデレない、イケズなところしか無いのに……」イリスは苦笑していった。
「意味はあるよ。今回みたいに離れた場合、君の戦略目的を逸しない範囲で動く範囲が理解らなくて往生するハメになる、なった」
「だから離れても君の思考を再現、と言うか予測と言うか、予知レベルに精度の高い脳内イリスとかどうだろうか?」
「ふむ、言いたいことは理解らないのでもないが、一つ難点が有るぞ。このままでは耕造に持たせていた異能置換を複数人に対して使うハメになるぞ?」と幹雄は言った。
そうなのだ。既に支配下においていた荒井耕造はスキル枠が7もあり、彼に複数の異能を持たせておいてある。
彼を操れる沖ノ島の屍者操作で耕造に異能置換を使わせるのだ。ただし、この力には制限を課せてあった。万が一彼がコントロールを失った時に備えた安全策であった。
今、異能生産は幸人が持っていない。だがこれを隠すためには幹雄の監視下で、異能所持者と、それが持っている力を一致させないといけない。
イリスと幸人は密着しているが、二人の異能を持てる空いてる枠が1つしかない。
イリス:異能生産:精密雁札:昼歩行者
幸人:三重身:誓約成約:{ }(空いている枠)
イリスから幸人へと異能生産を移動させれば良い。だが、それには離れている耕造の献納権能ではなく、異能置換を使わないと一手では行えない。
だが、イリスから何かしら異能生産で移動能力持ちの力を創っても、交換系のモノか、幸人が言うような思考再現系?そんなもので可能なのだろうか?
「出来るよ、思考パターンエミュの精度を上げる為に同期するために、本人に戻る必要性が有る。そこで戻れない場合、枠が埋まっていても何れかの異能が零れ出るとして最も近い相手にそれが送られるとしたら、イケるんじゃないかな?」と幸人は言う。
「なるほど、誰にこの疑似思考が与えられても、同期の為に私に戻るのを仕様として織り込むわけですね?」イリスが言う。
「君の思考が君以外の者に与えられても、何も助言しないし、そして精神汚染攻撃になり得るし、そして奪われても戻ってくる。どうかな?」
「あの、私を一体何だと思っているのです?まあ、確かに私以外が敵に回っている今の状況は、確かに相手に情報を与える事は無いという訳ですね」イリスは自身の扱いに不満が合ったが、そういう事なら一手でこの異能の交換状態を、他者を巻き込まず2人で完結している。
すると、イリスが異能生産で創る。言われたとおりに。だが、二人の距離はゼロなので、幹雄の真贋判定は働きにくい。
幸人に新たな異能が付与される。その名はリリス。まあ、名前は彼女なりの抗議だろう。幸人の脳内でもエロ妄想を繰り広げてしまうぞ?という脅しに見えるが。
直ぐ様にリリスはイリスへと同期のために幸人のコントロールから離れてイリスに戻る。イリスはスキル枠3枠埋まっているので、異能生産がこぼれ落ち、密着している幸人にそれが戻った。
「ふむ、僕には分からんが"戻ったな?"」幹雄がイリスに問う。
「何のことですか?」イリスがとぼける。
「いやいい。僕の勘違いだ。この情報はそのまま見たとおりに伝えておく。……議長のアポートゲートが消えた。あちらさんの監視も解除された。はぁ、心臓に悪い一日だった。」
「悪いね、ちょい待てイリス。もう密着している理由はなくなったよ。離れよう?人の目が有るし、ちょっと何時まで……」
「どれだけ私が貴方の独断専行に胃を痛めたと思っているんです?しかも異能生産を抱えたままで、契約延長すら行われず、冷えていく身体を抱えながら貴方の安否を考えていたんです。もうちょっと位は良いでしょう?」と今のイリスはとてもワガママで甘えん坊だった。
「仕方がないなあ」と幸人はそのままイリスの胸元に頭を沈めた。
幸人もイリスの温もりがない半日で心を痛めていたのだ。




