バッドエンド7
バッドエンド トライタワー建立
「一つ賭けをしませんか?真行院幹雄君」簑笠府イリスは実家で久しぶりに出会った友人に向けて言い放った。
「契約ではないのか?僕らの家では契約を介さない決まり事など無縁だ」真行院幹雄はそう返した。
「残念ですが、私が契約する相手は決まっています。故に、此処は私達がプレイヤーという縁に従って提案してます。簡単なルールです。幹雄くんの異能の前で在りながらイカサマを完遂したら私達の勝ち。見抜かれたら貴方がたの勝ち。単純でしょう?」イリスは苦笑する。
「それは僕に有利過ぎないか?僕の異能は異片鑑定だぞ。異能だけでなく全てを監査し、定めてしまう。佐爾波のモノとされ、秘匿されてきたモノだ」幹雄は佐爾波の家の権能を知っている。
それこそが、この世の中で最も恐ろしく、不動天が北の極点を失ってもなお、輝きを失わない、永劫の光とでも言えような存在。
ただ有るだけで焼き尽くしかねない、虚飾を許さない裁定者の眼である。底に愛でる存在はないのだ。
「取引材料がないわけではないのです、勿論。幹雄君がそれを持っている事こそが今回の一番のネックでした。私はDeadEndを越えたい。ですがBadEndを越えることが出来ません」
「何故そう思う?DeadEndを"残したいものが居るとは思えない"。君が例え何か野望を秘めていたとしても、12の家が欠けるとは思えない」
「私の想定では、確かに最初の終わりは全家結託して計画を遂行すると思います。ですがそれは恐らく叶わない。私はずっとどうして12の家が衰退したのか?此れへの風聞が正しいとは思えません」
「何故かな?世界で初めての世界大戦、それが未曾有の疫病によるパンデミックで早期に終結してしまい、それを阻止しようとした十二奥家の当主らが次々と死没、というの表向きの説明。
実際には下位の家がグレート・ウォーを制御し、不動天を、その力を間接的に掌握、だが実際には其処の時点で不動天の奥義が失伝し、力の継承が途絶えた為と言う口伝に異論を挟む余地はないと思われるが」
「三都頚が顕現しています。佐爾波の家の復興には必ず見られる、歴史的事象です。ボストン、ブレスト、フリータウン。其処から当時多発的に疾病が蔓延しています。単なる偶然とは思いにくい」
「"順番が逆"だろう。佐爾波の当主が出奔し、行方不明。その間隙を突いた世界大戦。下位の家には不動天さえ押さえれば、古家の運営が可能と思っている愚者も多い。時系列が証明している」
「ですが私達、4人は"因果関係"さえ、成立すれば"時系列を無視して良い"という事を知っています。佐爾波の当主が直々に教えてくれた授業の参加者の4人が、実際に体験したことです」
「未来予知」
「正確には脚本ですね。アクターを置くのはその後。訓練と練習を繰り返した縁者はそう動く訳です」
「……発想が突飛過ぎないか?」
「実のところ、私も疑っています。こう考えること自体が思うつぼだと。しかし、恐らくは提示されるでしょう。逃れられ様がない終わりと、その迂回路を。こうして12の家が破滅していきます。最初の脱落者は私、次は幹雄君」
「どうして僕が2番目なのかい?最初は荒井耕造だろう。僕ら四人の名前を忘れたか?」
「私は"参加していません"。その4人が4つの終わりに対応している、というのは何某さん、つまりは佐爾波の陰謀で、大嘘です。あの人はゾンビを見ていませんし、頭数に含めないでしょう」
「たしかにな。あの人は何故耕造に冷たいのか?理解らなかったが今では理解る。単なる開戦の狼煙、そんなところだろう?」
「いえ、このお話は『終わり』の物語なので、幕上げではなく、幕切れでしょうね。となると、この終わりを紡ぐ物語には相応しい主人公が居ます。それは開幕前に死んでいる人、です。私の宿命はそれに出会うそうらしいです。如何ですか?」
「……なるほどな。そう言われると何故『新庄幸人』なのか?理解ってきたな。となると耕造が幸人を殺す理由にもなる。奴は主人公に取って代わろうとした。それこそが、終わらせないのを願っていた筈の耕造の行動原理であり」
「はい、幹雄君の終わりでも在ります。貴方が知りたい事は、この世界の存亡ではなく探している人の在り処。これを識るには貴方が佐爾波になるしかない。貴方は選んだのではなく、選ばされたのです。となると此処で私の付け入る隙となります。全知とも言える異片鑑定を前にイカサマを仕込む余地と成り得ます」
「理解った。君の言う賭けってのに乗ろう。BadEnd、そこで君は君の手札を開示する。そこでこの賭けに置ける手札の比べ合いとなるわけだ。僕が負ければ君を活かす互助となろう」
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「すまんが、早紀。此処は僕に任せてくれないか?」幹雄がやってきた。新庄幸人はやはり、と呻いた。12の因習の家、その一員である幹雄が居ないわけがなかったのだ。
「幹雄君……そうですか、分かりました。では私は後ろに控えています」と早紀は大人しく引き下がる。
「……さてと、早紀は行ったな?幸人。実のところ、僕はお前をどうこうしようという気がない」
「……どういう事かな?」幸人は幹雄が突然の容赦に逆に狼狽えることとなった。
「答えは簡単だ。実のところ、早紀はお前が窮地に陥れば化けの皮を剥がすとでも思ったんだろうな。そうだな、異能生産は世界を滅ぼす責任を放棄して日付を跨げば、それを咎める筈だと。我が身可愛さに本音が出るとな、そうだな早紀へのお前の想うところの、その本心とかだな。お前の贖罪としての異能が手に入る」
「この後にミッキーに渡すとは思えないのかな?」
「思うだろうな、実のところ罪深いの僕の方だ。家が没落したとは言え、仕えている主命は耕造への忠誠だった。これを破るのは何らかの咎めを受けているとは思わないか?」と幹雄。
「どうだろう?人から精神を奪うのは規定に抵触する?」
「しないな、それは世界の物理法則だ。一定の領域に知性の量は維持される。抜け穴を創るとかでない限りは」
「じゃあ、渡せないな。この場にいるのは一番近い早紀さんだけ。それとも誰か隠れてる?」
「言ったろ?抜け穴だと。議長は天地をひっくり返した。つまるところヤツが物理規定を越えた。彼に渡るのを阻止できた幸人と、イリス君のファインプレーだ。そして、お前は、離陸したこの機が日付を跨ぐ頃だと言うのに焦っていない。何故だ?それは焦る必要がないからだ」
「ミッキー、規定知っていたんだ?それ、僕の切り札だったのに。じゃあ僕が既に幾つか異能の保持枠増やしてる可能性も知っているじゃん」幸人はお手上げという風にジェスチャーした。
「まあ、知っては居たがお前は多分法律は破っていない。条例は奇しい(あやしい)がな?」と幹雄はニヤリと笑った。朗らかな笑みだった。
「そこは、理解らない。イリスちゃん、あの娘隠してることが多すぎる。まず年齢サバ読んでいるよね?」幸人は鋭い。そここそがイリスの幸人への唯一の不忠である。
「婦人の年齢に関しては触れてやるな。だが、参ったな。これでは僕の賭けは負けだったということか?」
「賭け?」
「そこは気にするな、だがお前が何一つ怪しい行動を取らないようではお前を疑え無い。参ったもんだ、こうなると僕も身の振り方を考え直すしか無い」
「ミッキー、助けてくれるの?」
「悪いが助けられん。だが、このまま時間を稼ぐことは出来る。どうする?僕の権限では機を迂回させて日を跨ぐまでは行けるがせいぜい20分程度だぞ?」
「いや、逆で頼むよ。もしくは今のこの機体の正確な時刻を知りたいね。場合によってはイリスちゃんが死ぬ」
「やはり、イリス君は奥義を知っていたか」
「契約のこと?血と臓物による不破の決まりごと」
「言っておくが、それをもう口には出すなよ?今、日本では特殊戦時法が検討されていてな。個人の所有するマイクカメラが公共物となり、戦時政府が徴発可能となる。と言うか既に成っている」
「イリスちゃんが恐れていた早紀さんの異能の対象範囲が、日本全てになるわけか。でも、なんで彼女が意味ありげにスマホを取り上げていたんですかね?」
「そこは、アイツにも想定外の恩恵ってやつだ。僕の異能は早紀が持っている筈の無いモノも、聞こえる筈のない声も、声なき声も理解ってしまう。なので異能の起動は僕の視界範囲内で行われていないし、全部筒抜けだ」
「つまりは、異能生産のノルマで出来ちゃったものだけが持っていかれると。助かった。でもさ、僕を疑ってないよね?なんで?」
「僕らはさんざん、日付を跨ぐ前にお前に異能の落とし所を時間を掛けてやっただろ?逆算すればこの機が離陸した時点でお前の恐慌の様子が見えるはずだ。
だがそれが無かった。となるとお前は知っているし、早紀も耕造の持っている異能の献納権能が此処最近で使われた様子がないと僕に言わせている。
実際に耕造が操られた事もない。では当然目当ての新異能と、異能生産が手のうちに入るというのが結論だろうよ。となると、僕はイリス君の賭けに負けた訳だ」
「その勝負、ってどうやって決まるんだったの?」
「簡単だ。イリス君は僕に悟られずに手札を変えるというイカサマをやるといった。だから此処で君らの手札がイリス:昼歩行者、幸人:異能生産が手札に無くて別のものにすり替わっているのなら、恐らくは勝てる手札になってるんだろうな、君らは。
BadEndは早紀によって討伐されるだろうがDeadEndにイリス君が来ると良いなあ、僕は思うよ」
「ありがとう、みっきー。僕らを助けてくれて」
「礼には及ばない、実際のところせいぜい、DeadEndまでの束の間の幻想って奴だ。今どうにかできない事を今する必要はあるまい、さて僕は今日はずっと起きていたからもう寝たいが何かあるか?」
「そういや、此処台湾には日本帝国軍が上陸したんだよね?彼らって何かこう、日本の軍隊っぽくないんだよね。ミッキーは何か知ってる?」
「いや、初耳だぞ、それは。ん?おかしいな?」
「どうしたんだい?」
「ありえないな。何故駐留していた日本軍兵士に異能のスキル枠がない?」




