バッドエンド4 帰国
バッドエンド4 帰国
「拷問はお好きかな?」目隠しの向こうから男の声が聞こえる。だが、ここに居るのは先程の新庄幸人の口を拭った、優雅な所作の女性(多分)と、それ以外の人間の息遣いを感じた。
「受けるのが好きな奴はいないと思いますが?」囚われの新庄幸人はビビりながらもそう返答した。これが"ここでは最適解"と判断した。今もすぐ側に居て、審に振る舞いを観察されている気がしていたのだ。
「誤解して欲しくないのだが、我々は君をどうにかしたいわけではない」男は優しげで落ち着いた所作をしていそうな優雅な声で応えた。
「いや、じゃあ、なんでこんな戒めを受けてるんですかね?」幸人は言った。当然の疑問であろう。
「我々の中では、君の力を危険視して、我らが触れないなら他に使われる前に、という輩も居る。それくらい君が危険だというのは君自身が理解って貰えると思っているのだ。どうだね?」
「まあ、そうですね。今のところ、人を害する物騒な力ばかり、作らされますからね。でもそこに特定の勢力に肩入れする、ってのは無いです」
「だが、君は創らねばならないのだろう?そこに我々と敵対している者で固められたら、そういう訳には行くまい?」
「今がその状態だと思われますが?」
「いや、そこがそうではないと言ったら君は私の言葉を信じるかね?」
「……意味が分からないです」幸人はそう言ったが、幸人の脳内イリスが答えを言った。「それはここに居てはいけない人間は声を上げられない。故にこの場の長以外の発言と意向は却下される」と。うんまあ、スケベ以外に関しては君は大変有能だね、と幸人は思った。心の中のイリスは頬を膨らませて抗議をしてきたまで多分本物とそう変わらないだろう。
(なるほど、ここでは、僕も見張られているが。他の者も見張られている?つまり長と話を進めろと?)
新庄幸人は冷や汗をかきながら言うべき事を考えるが、それをまたも幸人がよく知っていそうな女性に似た所作でそっと汗を拭ってくれる顔も声も正体のわからない存在はずっとそこに居たらしい。顔の汗は拭われたが、幸人の背中の冷や汗は全く止まらない。
「一つ聞きたいのですがよろしいですか?」
「発言を許そう。何を聞きたいのかな?」
「もしかして、"俺は"異能をここで創らされなくても良いんですか?まあ日付を跨いだ後でノルマを果たして無くて正気を失ったら分かりませんが」
「逆に聞くがどうしてそう思うのかな?」
「俺が、見えない状態で此処の誰に無差別で異能を与えて、しまっても?」
「他の2勢力が実力行使で排除する」
「じゃあ、なんで俺が此処へ呼ばれたんですか?力を創る以外に役割があるんですか?力を使う前に開放されることもありますかね?」
「いやそれは難しい。力を創った後なら開放できる、それとは別に君が過去に何を使ったのか?という情報が欲しいね。その中に我々が追う背任者がいるというこちらの事情もあってね。
佐爾波でもない、宗家の支配する保守的な家の力の復権を狙うものでもなく、新しい力とそれに因る序列の再配列を望むものでもなく、ただただ己の欲望を満たしたい者が此処に居るのだ」
「え?俺が既に創った異能の持ち主に、そいつが居ると。その情報が欲しいと。でもそれはあそこまでして、イリスちゃんに勝てないので捨て石を切ってまで欲しかったものですか?」
「欲しいね。そいつは我々の中で潜みながら最悪のタイミングで、我々を殺すだろう。何処にも与しない真の世界の混乱を求める第4陣営、それは我々の今回のグレート・ウォー、前回の100年ぶりの悲願だ。
二度とパリの講和会議みたいな失態はしないと思っているが、そいつらの思惑は分からない」
「つまり、貴方がたは家の役割通り、人の頭数を減らす責務は果たすわけだ。それでも人は死ぬだけでして」幸人は正直哲学的ゾンビが、相対的に存在しうると知ってから、戦争に因る犠牲を忌避する、なんて一般的な良識は無くなっていた。
だが幸人のそんな心変わりした本音を言っては相手の想定している新庄幸人像に反すると思ったのだ。恐らく、相手の言う正体不明、意図不明の勢力に幸人の恋人、簑笠府イリスが含まれていない保証はないのだ。ならば新庄幸人もその"第4勢力として"処分されかねない。
「価値のない存在、が死ぬだけだ。そして、剪定の終わった盆栽はさぞ綺麗なものになるだろうよ。それに、我々は無知蒙昧の使徒をむやみに殺したくない。何故か理解るかね?」
「人間は資産です。それがゾンビとは言え知性と自我がある。それならある程度の高い知識を有してながらも尊厳を保証せずに人類の未来への奉仕として殺す予定だったものの有効活用、は出来ませんか?」これはイリスが幸人に言った、相対的ゾンビを活かす場合の逃げ道の一つである。
「それならあくまでもエゴ持ちとされる上位者3%を除いた数が、そのまま労働力となるというわけか。間引きをせずに単純労働として、知性を持ったゾンビとして極力犠牲を出さない。こういう感じでどうかね?我々に情報提供をしてくれないかね?そうしてくれるなら君の提案を採用も出来る。日付変更まで後25分」
「くそっ。どうやったって……一応聞いておきたいけど力、もしくは情報提供をした後で俺が始末されるとかは?」
「そこは保証する。命は奪わない、五体満足で帰そう。何しろ、"次も"今回のようにご同行を得たいのでね。その時には不逞の輩の候補も絞られているから、もっと待遇が改善されることも約束しよう」
「俺が正気で居られる時間切れまでに、そちらの都合がいい異能を得た場合は?やはり手中に納めるのですか?」
「それはない、が。そうであっても無くても問題はない。情報提供こそが望ましい」男はドア越し交渉と言わんばかりだ。
いよいよ、相手が此処までして人的損耗を厭わず新庄幸人の身柄を確保した意味がわからない。
もう一度、幸人の中のイマジナリー簑笠府イリスを心の中で呼び出す。
相手の意図が分からない。こうして話しているだけでも意味不明だ。相手に利益がないのだ。情報?何故十二奥家は真行院幹雄を頼らない?彼なら幸人の異能生産の全ログを知っている、その事自体も把握している筈だ。
---------------------------------------------------------------------------
「それはですね、この時間稼ぎそのものが相手の目的です。つまり、幸人さんには"日付を跨ぐ"事が恐怖でならない。その前提が狂っていると言えばどうですか?」イマジナリーイリス
「もしかして、日付を跨ぐって意味が違う?」マインド幸人
「そうですね、彼らの言い分は"異能は出来ても潰す"というのは、力は与えられないって事だと思います。棚ぼたでなら、って感じならどうですか?情報こそが欲しい。それも私の掴んでいる情報が」イマジナリーイリス
「そういえば、僕は"アポート"で此処へ運ばれた。目隠しは相手の顔を見れないようにするため。そう思わせるためにあの場の議長以外は一言も喋らない。しかし、そうではなく"本当の今の時間が分からないようにするため?"」
「なかなかいい線ついていると思いますよ。やはり幸人さんは作家の才能が有るんじゃないですか?叙述トリックみたいなもんでしょう。ではその今居る候補地は?十二奥家の、宗家に連なるもの、新しい体制を願うもの、佐爾波の言う通りに静観して様子見するものらの代表が揃うのであれば?」イマジナリーイリス
「日付変更線、の逆方向。つまりマイナス1時間程度の場所で、僕は尋問を受けている。これには2つ狙いが有る。新しい異能を得ること、情報を得る事。2つとも渡さなければ良いんだ。1時間程度此処では"日付を跨ぐまで猶予が有る"!」
「その場所は?」イマジナリーイリス
「大陸が手に入れた新嘉坡か、日本軍が駐留している台湾!」
「それともう一つ。時間稼ぎですが、此処に幸人さんが居る。と言う事自体が重要な可能性が考えられます」イマジナリーイリス
「時間稼ぎだな。この場合どんな?」
「誓約成約と、無敵の弱点を把握してるとは思えませんが、貴方が不在の簑笠府家に脅迫じみた交渉が同時に行われているというのはどうでしょうか?」
「ああ、そうか。無敵の弱点、契約者同士の肉体的距離をゼロ以下にしないと常時発動状態の力が解除される。力の性質に詳しい彼らなら、宗家しか知り得ない力の発動条件の裏の裏のそれ、を知っている可能性がある」
「はい、あちらでは時間制限が本当に差し迫っているので、こちらのような悠長なことにはなっていません」
「ってなると、こちらが早急に要求を飲んで解放されるのが必要ってなるな。しかし、全部相手の思うつぼじゃないかな?」
「それを、誓約成約で、本物の私に知らせてください」と言うとイマジナリーイリスは用を達したので像が雲散霧消する
「(……ふむ、イリスのエミュレートだけど、僕の知能の範囲でも似たことは出来るんだな。完全再現する異能とか、テレパスとか考えてみてもいいかな?)」と幸人は思った。
---------------------------------------------------------------------------
「今日創らなければいけない力を含めて過去の力の情報は渡しますが、受け渡す力は拒否したい。それが譲れない一線です」幸人は言った。
「その辺が妥協するラインだろうな。構わない。彼の帰還への手続きを頼む」とこの場の会議の議長らしき男が言うと、この場にいる者がそれに従ったかのような空気になった。
・
・
・
「はあ、ようやく開放されたかあ」と幸人が人心地付くとアイマスクを取った。そこは既に日本に着く予定の旅客機だった。
でも定期便ではなくプライベート機の様で利用者は他には居ない。幸人を縛っていた手枷は先程勝手に外れた。よく見ると遠隔操作で外せるようになっていた。
自由になった手で足枷も外した今ではパッと見は幸人の外観は旅客機の中では睡眠中にしか見えなかっただろう。掛けられていた毛布を畳んで横においた。
「お隣よろしいですか?」と幸人に声をかける女性が居た。
背筋に冷や汗が流れる。それは先刻まで監禁されていた場所でずっと隣で様子を見ていた人物の雰囲気にそっくりな気配と、よく知っている声だったからだ。
「……どうぞ、奇遇ですね。四ノ原早紀さん」と幸人は言った。
「あら、他人行儀ではないですか?新庄君」と四ノ原早紀は言った。




