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異能生産(Dehumanize)  作者: 赤石学
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バッドエンド3いつもの愛の巣で


バッドエンド3いつもの愛の巣で


簑笠府イリスは不貞寝していた。彼女の持ち主の物件、この街で最も高いホテルの最上階が彼女の部屋だ。否、そのホテルは既に主を変えている。彼女の主の新庄幸人に譲渡した。

その後、個人的な契約を経て元に戻す。煩わしい経営に主人の時間を割く訳にはいかない。


主不在のホテルで不貞寝していた。否、これは欲求不満だとイリスは漏らす。それを聞いた彼女の侍従の梓梢あずさこずえが優しく声をかけた。


「お嬢様が、新庄様を打算的に、選び取ったと。そう私は聞き及んでいます」梓は雇い主であるイリスからかつて彼女から言われた通りの言葉を言った。

「その通り」イリスは当然だと言った。そう、淫乱どスケベクソ女、それは擬態である。冷徹に結論を導き最短で走った。その過程がそういう言葉に置き換えるのが最適だと言うだけなのだ。


「ですが。その欺瞞を看破したのは新庄様です。そしてその後に掛けられた言葉を御嬢様は覚えていますか?それに心を打たれたのまで嘘では身を挺して私達を護った彼に示しが付きません」梓の声はここで咎める色を含んでいる。

「……覚えてない」イリスは投げやりに呟いた。その場に梓は居なかったはずだ、という確信があった。すっとぼけた。


「では、新庄様が我々の前から敵の奸計で消失、もしくは転送された直後の御嬢様はなんと言ったか?……覚えてますよね?」梓は1時間前の出来事を説明する。


=======

「御嬢様?申し訳ありません。私が停めようとする前に新庄様が全速で飛び出してしまい、そのまま御嬢様の第二の異能アビリティー精密雁札(Supernote)の隠蔽領域から出た瞬間、幸い肉体がバラバラに転送されるというケースではない、と願いたいですが……」梓は幸人が彼の仲間の沖ノ島と山乃原、その側に居た梓を巻き込まないようにしたのだという。


敵の能力は恐らくアポート、そこは幸人も看破したというのは間違いがない。先陣を切ってきた見え見えの囮の凍気の操る範囲は非情に狭い。此処ら一体を真冬どころか、寒帯と言って良い程冷やすとは思えない。

ならば範囲攻撃の力の持ち主が居たとすれば、この戦況が説明でき、そして幸人達は所在が理解らずともいずれは時間の問題で全員が凍死、結局は一網打尽であった。

それを察した辺りで敵の刺客が発した言葉と、イリスの反射的な安否を確認する行動。後は逆算するだけだ。ここらを一気に寒帯にまで落とし込むまでの寒波を吐き出したモノの及ぶ範囲は?広いのは間違いない。ヒト一人ならまるごと無傷で乗り込める。そうでなくとも回避行動を取らずに飛び込む姿勢であれば予想よりゲートの入り口が狭くても五体満足で飛べるはずである。最も、敵の懐につながるのは避けられない。

そして相手の狙いは十中八九、幸人一人が狙いである。だが、かと言って沖ノ島と山乃原のどちらかが欠けたら不味い。イリスのもとに二人は確保させなければいけない。

それに、既に幸人は相手の狙いを挫く処置が行われている、そこまでは読めまい!早計かも知れないが、しかし身体はとっさに飛び出していた。



「ああああ……」イリスの顔が絶望で歪む。

「ふふっ、任務は果たしたぞ、好きにするがいい」足を切り落とされた男が自身の力で傷口を凍結させて出血を止めていた。


「…………へえ、いい度胸ですね。冷えた血液が心臓に流れ込むとショックを起こすようですが?これ以上凍結した肉体体積が増えると、どうなりますかね?」イリスは八つ当たり気味に残った足も切り飛ばす。彼女の髪がヒュッと閃いて血しぶきが舞う。しかしイリスは返り血を物ともしない。彼女の冷酷な眼差しに男が震えた。

「単なる露出癖の痴女と思ったが、元々肌を晒すことに躊躇もない方が素面だったか」男は新たに増えた足の切断面を追加で凍結させて止血するが、そこでクラリと男の強固に踏みとどまろうとした意識すら心臓に激しく流れ込む冷気で消えそうになる。身体が信じられないくらい冷えて体熱が残っている部分が灼熱のごとく感じられた。

そして今は残暑の厳しい時期で、呼び込まれた冷気も大方本来の温度に戻りつつ在った。


「どうしよう、梓……幸人さんが、生きては居るでしょうが、死ぬよりも耐えられない物がある、とわたくしは知っています……あの因習の家の者らが得意にしている手管が……」イリスの顔は冷気を物ともしないがまるで全ての冷気を浴びせられたみたいに真っ青だ。

「御嬢様、とりあえず、戻りましょう。沖ノ島君と山乃原君が凍傷を受けているかも知れません。安息が必要です」梓は二人を両肩に抱えようとしていた。

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「口で何と言おうが、そちらが御嬢様の本心と思いますよ私は。貴女が打算と、合理的な手段と、その感情を一致させようと努力していたのはずっと見ていましたから」梓は言った。

「べーつにー?今のわたくしは単なるセックス依存症のど淫乱変態クソ女で、常識人として終わってるわたくし唯一のアイデンティティを奪われて禁欲状態の欲求不満なだけでーすー。わたくしが安否を気にかけているのは簡易契約が今晩行われるかどうかだけでーすー」イリスは拗ねている。だが、先程までの世界の終わりのような表情は遠のいている。

「そうですね、なんとも便利な言い訳じゃないですか。淫売と罵られるのを気にしなければ、純粋な乙女心も完全に隠蔽しきれるわけですからね。どうやら御嬢様はそちらの方が"羞恥プレイ"になるようですから」梓はニッコリと微笑んでいった。

梓梢も新庄幸人を失うのは怖い。だが、皆で恐慌状態に陥るより、誰かがふてぶてしく笑う人間が要るのである。




場面は一旦変わる。幸人は全く周囲を知れない状況に陥っていた。

目隠しと両手足を拘束されて、猿轡を付けられ、恐らく軟禁状態にあるのだろうと。

どうやら何もされていないらしい。四肢も無事で、最悪体の一部がアポートのゲートで削がれているのも覚悟していたのだ。


「おはよう、新庄幸人君。気分はどうかな?」誰か分からないが、幸人からそう離れていない場所から流暢な日本語が聞こえてきた。幸人は通訳はいらなさそうだたと思ったが、最も日本語を話すからと言って話が通じるとは限らないのも知っていた。

「……なんとも言えませんね」幸人は正直な感想を述べる。猿轡を外されて口の端から垂れる唾液を拭きたいが。


「自己紹介は出来ない、申し訳ない。そして君の生殺与奪は我々が握っている。そしてそろそろ日付が変わる時間だ。この意味が分かるね?」と声の持ち主は相当こちらのことを知っているらしい。話は通じ無さそうだ。


だが、幸人の口から垂れる唾液を吹いてくれる何者かの所作が、優雅過ぎて誰かを想起させた。それは幸人にとってここに居ては困る人物であった。

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