バッドエンド2
バッドエンド2
「いやいや初めてだっけ?違いますよね?どんだけ俺らのことを、モブとしか見てなかったんですか?」山乃原 稔は、佐爾波鏡子に聞き返した。
「あははは。悪いね。でもさ、実際に君らは相対的ゾンビの、そうだね自我の強さで言えば世界ランク7桁順位の存在であったわけだ。もっとも……この国に限って言えば4桁順位だから、どうでもいい世界の、国の人間の名前と顔を1万人程度とはいえきちんと把握してる、という事を賛辞してほしいくらいだよ、ネ?」佐爾波鏡子は何の悪びれもなく言った。
「確かにそう言われると、そんな半端なランカーの名前なんてどうでもいいと言えちゃいますね」沖ノ島 忠志はガッカリしながら言った。が。
「でもまあ、幻想ちゃんにはお礼を言って起き給えよ。君達が相対的ゾンビのちょっとだけ話せるポジションから、自我を持って選択をして主と契約を結べたのは彼女のファインプレーだ。あの娘は使える駒をきちんと選べたってことだね」佐爾波鏡子はイリスを見て微笑んだ。ゲームマスターが、己のセッションに参加したMVPプレイヤーを見るような眼差しだ。実際そうなのだろう。
「ぐぐぐ、確かにこの世界の支配者足る、自信溢れる言葉。しかし、どうして俺らの名前を覚えてくれたんですか?」山乃原は何故名前を覚える必要性が合ったのか?ここに不穏な動機が在るのでは?と不安になったので問いただした。
「そうだね、相対的ゾンビフィールド効果、この世界に怪物を実体化させる人間の知性の限界、保存量の見えない法則。これは、”エゴの強い奴"が眷属を、というか契約によって結んだ相手に裁量として、判断力を与えるわけでそうなってくるとエゴの強さが増えて、相対的に君達はもうゾンビではなく、本当の人類と言っていいレベルになった。
上位50位以内位にはなったね。バッドエンドの舞台に上がるには十分だ。ならばスタッフロールに君達を載せねばならないよ。これが君達の名前をボクが覚えておこうという気になった理由だと言える」と鏡子は言った。
「それじゃあ、強いエゴ持ちってのは?」沖ノ島はイリスと幸人交互に見比べて問うた。
「勿論、新庄幸人君だよ。エゴの強さ、世界ランカー1位のこの世界の、原義で言う所の真の人類、とボクが認める存在、この世界から持ち帰るとしたらこれしかない。
彼と契約を自発的に結べたら、そうだねこの際その裁量権を"EP"と呼称しようか。
これが君達に付与される。世界一位だからね、ほんの僅か、軽い契約でも裁量権がとてつもない。故にEPも一気に上位ランカーになれるくらいは在る。
これで君達が何を成し遂げるのか?本当に楽しみになってきたよ」鏡子は本当楽しくて仕方がないって表情で述べた。だが、その愉しさは恐らく悶え苦しむ事が殆どを締めているだろうと理解る目付きであるが。
「では、敵もそうは甘くない。相手は世界ランカーで同率2位のプレイヤーが書いた筋書きだ。イリスくんも同順位とは言え、色々と不利では在る。敵は1200年の歴史で研鑽された力の持ち主で、油断できない。此処だけはエゴの強さとかはあまり関係ない」鏡子はそう言うと周りを見渡す。
「嘘だろ。今ってまだ9月じゃねーか」幸人が驚愕する。それもその筈。
雪は降り始めていた。それに伴い急激に周囲の温度も下がる。そしてあっという間に吹雪いてきた。もう既に昨年の冬の最低気温を遥かに更新している。
震え始める、イリス以外の4人。
「敵の力持ちが君達に襲撃を掛けてきたようだ。十分に注意したまえ、と言ってもここはちょっと分が悪いね、勿論敵はそんなのは先刻承知だが。では健闘を祈る」という鏡子はそのままフッと消えた。
「畜生、やべえ、敵は多分、目の前に出てきたりしないんだろうね」山乃原の異能の条件は目視である。だが、幸人とその盟友の幹雄のプレイスタイルは「敵を殺さず支配下に入れる」である。
山乃原の即死能力は「相手を相対的ゾンビにする」という感じで罪をを犯さない風に調整した。これが仇になろうとしていた。
そして、沖ノ島は「相対的ゾンビを操る」である。二人の出番があれば良いのだが。
「案の定、視界が悪い!!」吐き捨てるように山乃原は悪態をついた。
「大丈夫です、引きずり出せますよ」とイリスは、上着を脱いだ。下からスリングショットの際どい水着が出てくる。返り血を浴びないために、イリスは前回全裸で戦ったが、ここでは梓や山乃原、沖ノ島がいる。
合法的な全裸露出癖のイリスだったがこれが譲れないラインであった。
「幸人さんよろしくお願いします」イリスは上着を預ける。結構高級なブランドの夏用コートだからね、と幸人はこの状況を無理矢理納得した。本当にコイツ、状況的に露出するしか無いな?と。
「私は今回、貴方がたの位置情報を欺瞞することに、精密雁札の全力を使うのであまり期待しないでください」
「無事生還してくれればいいよ」と幸人。
「勿論です。油断はしません」イリスは断言した。
地を蹴って離れると、イリスを中心に寒波が移動したかのように思えた。これは明らかに幸人達を相手の力使いが認識できなくなったと思われた。
そして、吹雪のもっとも濃い白い空間をイリスが殴りかかると、悲鳴めいた声が聞こえた。
「くっ、何故位置が理解る!?」敵の力使いの悪態を吐くが窮地を脱することは出来そうにない。
「……さっさと投降しなさい、さもなくば死を」イリスは無敵の防御能力を持つが、それ以上はない。フィジカルは少女のそれを超えることはない。彼女が圧倒的な有利というわけではないのだ。
「この阿婆擦れが!」敵はイリスの痴態をそのままの感想を吐いた。脇から氷で出来た槍で突いてきた。どうやら氷使い、もしくは凍気使いらしい攻撃だ。
「そうですか、では」イリスはその氷を掌で受け止め、握り潰してそのまま不用心に付き出した腕へと掌で軽くスナップすると鮮血が吹き飛んだ。
返り血を浴びるイリス、それすら弾く無敵の肉体。それを見て驚愕の表情に染まる敵の刺客。ある程度は知っているだろうが、それでもこの理不尽さは理解の範疇を超えている。
そういう事でなら、全裸で戦うのが最も合理的であり、羞恥心を考えるとまだ布地が僅かでもある過激なスリングショット水着が戦衣装というのも頷けた。
イリスの腕力は、そのまま強さだが。強度は別であった。彼女の肉体の延長線上でもっとも細い、その髪は外部からの圧力や、力で影響を受けることがない。風で靡く程度では影響を受けるが害意の入った力に対しては無敵の対抗の対象となる。
故に鋭利な刃物の如く、もしくは鞭の如く、敵の右腕を切り裂いた。
「くそぉ!!」出し惜しみ無く、最も力を込めた凍気を、弾丸のようにして打ち出す。巨大な、白い、言わば硬弾化したダイアモンドダスト、それをイリスが被弾する。しかし、それを無傷で無効化する。
「そんな程度ですか?」此処まで来て未だに彼我戦力の差を分からない無知蒙昧かと、ウンザリしそうな表情でイリスは勝ち方を考え始めた。必殺の攻撃を果断せずに、力を緩める。
イリスの、細い、それでいて女性らしいプロポーションを飾っていた僅かな布地が、強烈な極低温と運動エネルギーを持った氷弾で氷付き、割れた。敵の力の持ち主がイリスに与えた損傷はその程度だった。
だが、十二奥家の令嬢らしく裸を晒すことに羞恥を感じることもなく冷徹に、死神の刃の如き斬糸と変わり果てた己の髪を振るった。
男の右足が切り飛ばされ、体勢を崩されて無様に地を転ぶ。
それを非情な目で見下ろすイリス。圧倒的であった。
だが、佐爾波鏡子が脅威だと指摘した敵の男はそこで終わらなかった。
「ああ、流石にこれほどならば、戦いを交える前に投降を要請するのも頷ける。だが」男はそう言ってニヤリと嗤った。
「はあ?」イリスは呆れながらも胆力は大したものだと思った。
「俺はもう、"力を振るってない"」男は言った。
「!!」イリスは瞬時にその意味を悟って"振り向いてしまった"。
「その敏さがアダとなったな!簑笠府!!」男はもうイリスを見ていない。
「くそ!二重底でしたか!」イリスは己のミスを呪う。だが、嘘を吐けない速度で敵は既に行動を行っていた。
アポート。もしくはアスポート。敵は手始めに地球上の寒冷地と此処を繋いで"大寒波を持ってきた"。その上で、それと見間違えそうな凍気使いの力の継承者をコンビを組んで襲いかかってきた。
敵の目的は、まず無敵のイリスを足止めすること、そして力の正体を知る前に目的を遂げることだった。その目的とは。
「幸人さん!!」イリスは己の主人の名を叫んだ。だが既にその声が届く前に既に新庄幸人はアポートらしき能力で運ばれたあとだった。
これが消滅や、生存圏外に放棄されたもの類ではないのは、イリスの頚に枷られたチョーカーが健在であることから分かった。この首枷は彼女の命を掴むと同時に、遠隔地の主人の安否を知る唯一の手段であった。




