バッドエンド1
バッドエンド1
「新庄頼む!!」友人の沖ノ島が目の前で土下座している。それを見た新庄幸人はドン引きしていた。頼みの内容と、その執念についてであった。
「新庄様お願いです!」友人の山乃原は、沖ノ島に対抗して逆立ちになっている。何なんだよそれは。
「良いじゃありませんか、幸人さん。友人のお願い、座礼をもってしてでも叶えたいことでしょうし、内容自体は"ささやかなもの"ですし?」とチクリと刺すように側から助け船を出したのが簑笠府イリス。幸人の正式な恋人である。少し前にそうなってしまった。新しい契約を結んだのである。
「ぐぅ!」幸人は辛い。何せ幸人自身が幸人に掛けた"効果"に比べれば二人の男友達の効果は本当に細やかなものなのだ。
"3cm伸ばして、1cm太くしてくれ"というのが二人の内容であり。
"10cm伸ばして、3cm太くした"のが新庄幸人である。己の自信の無さと自己肯定感の低さを露呈された気分になるのも仕方がない。
「そう言えば、肝心の本人はどう思っているの?」とイリスは自身の侍従である梓梢に尋ねてみた。
「私は別にサイズや、長さに拘りはないし、むしろ彼らと誠実に付き合ってない事に後ろめたさを感じるので、お二人の気が済むように、全てを受け入れる所存です」と梓は言った。梓も主人のイリスに負けずに性行為に積極的であり、恋人が欲しくて堪らない沖ノ島と山乃原の2人と同時に突き合っている(誤字ではない)。
「私のそれは平均的ですし、そんなに"伸びしろはない"ので今のままでも十分です」梓はチクリと主人への忠言を言った。
「私が"締まりのない女"だとでも?」イラリとしながらイリスは返す、が。
「いえ、お嬢様は何処へ出しても問題のない淑女です。まあ、"ぐうたら"だとは思ってますが」梓は金銭上の契約主にフォローを入れた、が。
「それ、類語だろ」イリスはキレていた。ぐうたらは無精の類語で、無精は"締まりのない"の類語である。もしくは色好みである。
「私は幸人さんだけです」イリスは指を絡ませた掌で指をスルスルと動かしながら言う。
「……巻き込まないで」幸人はそう言った。彼女の仕草は指三本、指二本、それをスナップさせて、み・ど・りと伝えてくる。これはSMプレイにおけるGREENの意味であろう。バレなければ衆人環視でも弁えないこのドスケベクソ女が、と思いながら幸人も満更ではなかった。二人の関係が刹那の肉欲で繋がったモノではなく、数時間前に本当の魂からの主従関係になったのである。
「……沖ノ島、山乃原。梓さんから聞いただろうけど、僕の肉体構造変化させるのは異能、もしくは力に関して防ぐための副産物であって、主な使い方をしないとそれは出来ないんだよ」と幸人は説明をした。
「はい、誓約成約は、臓器に因る力の契約を、強制的に結ぶ物で。私と幸人さんの間でも結ばれてますが、それは完全な支配を許容する。そういう様な友人関係では不可能なのです」と幸人とイリスはお互いが結んでいる掌を見せながら言う。
二人は対等な様で居て、実際には幸人がイリスの指を曲がらない方向で捩じ上げても、それに抵抗すらしないイリス、その指が限界の角度まで行ってもイリスの顔から微笑みは失われていない。
ゴクリと息を呑む、沖ノ島と山乃原だったが、その目から意思が折れた様には見えなかった。
「……念の為聞いておくが、新庄お前男もいける口か?」と山乃原が言う。
「そんなもの、そうであっても勃たなくするまで私が搾り取りますよ」とイリスがニコヤカな笑顔でありながら、言葉は剣呑な物であった。逆らえないが物理的に、スタミナを奪ってでも主の不貞をヤラせない意思が彼女の言霊に篭っていた。
「逆らったら即死亡、とかは無いようだな。それでいい、条件を飲む」と沖ノ島は言った。そうでなければイリスのそんな言動を許さない強制力はないか、新庄幸人が寛容である、との証明であった。
「そこまでして、見栄を張らなくても。梢さんはそんな女性ではないと思うが」幸人は自分の踏んだ轍を友人達には踏ませたくなかった。
イリスは「長さでも太さでもありません」と毎夜言っているが、幸人がじゃあ元に戻すねというと絶望した表情を見せるのである。
口では何と言おうとシュリンクされるのは耐え難い認知ストレスである。例えばそう、子供の頃から量が減り続けるお菓子などである。
経済力が付いて子供の頃の願望を叶えるまでそれが見窄らしくなっていくのは悲しいのである。
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「「俺はお前の犬だ。なんでも命令しろ。使えと言えば躊躇しない」」と沖ノ島と山乃原は直後にそう言った。げっそりした新庄幸人。それはそうである。彼の誓約成約の有効範囲は『目視できること』であった。なので同性の、友人の肉体操作、それもセンシティブな部位においては出来れば拝む機会は無い方が良いものである。
「そういや、新庄様は昨日の夜はどう乗り切ったんですか?」と梓はイリスに昨日の晩の事を耳打ちして己の疑問を尋ねた。
新庄幸人の最強の異能である『異能生産にはデメリットとコストが在る』のである。それは毎日一つ世界を滅ぼすに足る異能を作らなければいけない、という決まりがあり、怠れば持ち主の意識を奪い、それによって判断力を失い、言われたままに作りかねない危険なものである。
梓はかつては毎夜作戦会議と異能付与に3人で日付が変わる前にその義務に付き合っていた。昨日は二人の年下の恋人と逢瀬を行っていて、同伴できなかったのだ。
「作戦は計画通りに進み、昨日は私が異能生産のペナルティを負いました。私の無敵で無効化されたのを確認したので当分はこれの所持者は私で進める予定です」とイリスは昨日の夜の事を梓に伝えた。
「そんな事が可能であれば、もっと速くにやれば良かったじゃないですか?」と梓は当然の疑問を問うた。その筈である。
「ええ、私もそれを何故"昨日まで思いつかなかったのか?"が不思議でなりません。まるでそんな選択肢がなかったかのように、幹雄くん、早紀さん、幸人さん、異能生産を一時的に濫用した下手人含めて、力の存在座標を変える発想が出なかったのか?が理解りません」イリスは梓に問われて事の異常さに気づいたのだ。
「え?昨日の君は計画通りだというふうに言ってたじゃないか?」幸人は昨日のイリスが、熱に浮かされていたのは二人の関係が進展したので、先に進んだと思っていたのだ。
それまで実行不可能だったのはイリスが幸人を裏切る可能性が合った、だが先日その疑惑は霧散した。
イリスの献身と、覚悟が見誤っていたのは幸人だけであった、筈なのだが。
「ええまあ、あの"2枚めの契約書"は昨日までは出来ませんでした。しかしホテルの譲渡を使った法理規定自体は、それこそ最初の契約を結んだか、幸人さんの第二能力が決定した時点で行う判断を私がした筈なのです。今梓に問われた事で私が認識阻害をされていた可能性が発生しています」イリスは顎に手を当てて見当を考えている。
「先日の僕の異能の濫用、梓さんの洗脳の時点で行われたのでは?」幸人は疑わしい事件を挙げた。だが。
「いえ、それはおかしいです。幸人さんの生産物ではなく、異能生産のオリジナルに手を付けない理由はないは筈です……恐らく世界そのものが騙されていたとしか……」イリスは未だに判明しない先日の事件の実行犯と黒幕の心理から何故残したのか?が理解らないのは其処の点である。
「デメリットが再生産されたモノには無かったから、とかでは?」と幸人は言う。昨日の夜はイリスに、その彼女の、秘処の奥、更に奥に己の精を吐き出しながら運命の日、己をこんなオカルトバトルに巻き込んだ元凶を彼女に押し付けた事で、50日ぶりくらいに間接的に世界を滅ぼす行為をしなくて済んだのである。
「それは、幸人さんだから理解ることです!私もこれを身に宿してからこのデメリットの凶悪さを思い知りました。もしこの力を奪った人間がこの凶悪なデメリットを理解した時点で実行犯は私達が取り逃すのはありえません。何故なら」
「そいつはぶっ倒れてなきゃいけない、ってことだね?そしてそれを君に宿したそれだと気づくまでの時間と、そのまま僕に戻す理由にはならない、と」幸人が言うとイリスは頷いた。
「そこはまあ、あまり今回の事には関わりはないよ。そのタイミングはあくまでバッドエンドの討伐タイミングは其処じゃないといけなかった、ということだし」と5人の前に突然、話に割って入ってきた人物が居たのだ。
その人物の名は。
「よろしく。山乃原くん、沖ノ島くん、それに梓くん。はじめましてボクは佐爾波の家の現当主で、鏡子と言う者だよ」何某と呼ばれていた人物はそう話を締めくくった。




