20XX/??/??
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「御父様、お呼びでしょうか?」簑笠府 千兎畝は簑笠府家の"現当主"である実父に呼び出されていた。
「ああ、ご苦労だった。佐爾波の教導訓練をこなしたようだな、その労いだ」
「別に、"わたし"は何もしていませんが」千兎畝は実際に佐爾波の当主と一緒にキャンプをしただけである。
「いや、時系列の話をしているのではなく、"我ら簑笠府と、十二奥家の計画"において、千兎畝お前は役目を果たしたのだ。佐爾波の教導を受けたならこの意味が分かるだろう?」
「……一日足りない、ですか?」
「ああ、そうだ。"お前の姉"は"一日足りず"、お前は"一日しか猶予がない"を、潜り抜けたと佐爾波から連絡があった。証拠がこれだ」父はそう言って"力"を発現した。
「まさか、北の極点ですか?」千兎畝は父に尋ねた。
「いや、それより更に劣化した異能生産と呼ばれるものらしい。2回自身を創造するとこうなる、縮小再生産らしい効能しか持たない、だが此れでも現時点で"力"には変わりがない。これが来た以上、我ら、我が家、私とお前は覚悟を決めなければいけない。千兎畝、理解るな?」
「はい、わたしの役目は唯一つ。それだけしか許されていない」
「そうだ、すまんな。当主としても同様だ。私の妹であり、妻が双子ながらツガイとなったのは、我らミノカサは己の権能すら欺ける」ちっとも呵責を感じずに簑笠府の当主は言う。実際に当主である男と、その妻は存在意義的にも社会的な位置にも、ほぼ同一時座標に存在していた。北の極点はその存在座標を以て、力の発動者が決まる仕組みである。ただし、其の者らが比較的ほぼ同一時空軸に存在していれば、全員がその力を発動したとしてもエラーは出ないのだ。これは力の権能そのものが「欺く」に特化している簑笠府家でしか出来ない裏技であった。
双子の兄妹でありながら夫婦、その子供である千歳。劣化異能生産で劣化ミノカサという汎ゆる物を欺く力を当主は自身に下ろした。そうすると千兎畝にも同時に劣化ミノカサは取り憑いたような感覚を得た。
「計画は今何処まで進んでいるのですか?」千兎畝は確認のために聞いた。
「3つ目の滅び、いや佐爾波の言葉では3つの塔までは確約したと、だが我々はそこで膝を屈する訳にはいかない。そのための」
「私達は、簑笠府の家の皆が無事に一人も欠けること無く悪夢の果てまで、辿り着かないといけない。そのためには」千兎畝がその先を言おうとして当主は、彼女の口を自身の唇で塞いだ。
「……ンチュ、そう、だ。我らは我が娘を生贄に差し出さないとそれは達成されない」当主と、その実の娘の口を唾液のアーチが作られる、深い深い、愛情以上を含ませる粘度のそれであった。
「御父様、どうか千兎畝の帰りを待っていてください」
「ああ、待っているよ、愛しい我が娘よ」当主はそこではじめて実父らしい、眼差しで娘を見た。だが、それ以上の湿度を持っていた。実子に抱えては本来いけない感情も。
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「はてさて、未だに4番目の終わりは見えてこないんだが、きちんと出来るのかな?ボクの愛しい弟子たちは」佐爾波鏡子はそう言って世界の果てで光を伴った瞳で"過去"を改装しながら呟いた。
「理解ってるのかなぁ?ボクが君達4人の成果や、実績、挙動には一切期待していないし、この世界を滅ぼしたいという前提だということに」佐爾波鏡子と呼ばれる世界の敵は、未だに健在な4つの塔を見渡しながらそれらの塔に4人の愛弟子を投影しながら眺めている。
第1の塔:BadEND:荒井耕造
第2の塔:Dead END:真行院幹雄
第3の塔:HistoryEND:四ノ原早紀
第4の塔:Happy END:簑笠府イリス?
「姉弟を、兄妹を思うあまり、我が身を投げ捨て、運命と戦うものよ。悲しいかな、それは徒労である。君らのエゴに意味はない、何故なら」佐爾波鏡子は見えた未来を回送してしまう。やはり堂々巡りか、と。
「さあ、席に着け。そこは君のためだけに明けたゲームチェアだよ、お願いだ。この耐え難い死にも勝る掻痒を、解消する君の息吹を聞かせてくれ」佐爾波鏡子と呼ばれていた何某という怪人の本音がつい零れ出る。永劫を生きる全能の悪魔の天敵は悪魔を討伐出来る聖なる存在ではなかった。その名を"退屈"と呼ぶ。
「嗚呼、早く君の声を、魂の慟哭を、嘆きを、聞かせてくれ。それだけがボクを、正気を労ってくれる……」手を仰いでプレイヤーチェアに座る最強の存在を幻視する何某。"彼"の目には熱い情熱が伴っているだろうと。
その情熱こそが、決められた滅びを融解するもの。そのものだった。その塔の名を"ハノイの塔"と呼んだ。




