半身2
半身2
「取引をしましょう」と簑笠府イリスは言い出した。これから先程捕縛した異能使いを親友であり、また僕らの異能使いのまとめ役である真行院幹雄に差し出そうとした矢先である。
「何を?こちらに手札は在るのかな?」新庄幸人は、異世界追放を回避したと思ったら実は、別の世界線に飛んでいたと判明したのである。その証拠は彼のスマホの電子辞書のストレージにある。だが、客観的に正確な証拠だと保証するものは一切ないのだ。
「幹雄くんと、幸人さんの知る常識としての歴史の差異について、ですよ。これはこれからの十二奥家との抗争に優位に働くと思います。ですので」とイリスは何か腹案が在るようである。
「そうか……これが意味のある事だと言うわけだね?」幸人はイリスの言葉をそのまま受け取った。だがその直後に後悔することとなった。このド変態クソ女は並行して己の肉欲と、二人が生き残る為の献策が両立可能なプランで出すことが可能なハイスペックエロ女なのだ。
「そっちではなく、いえ関係はあるのですが、此処では私と幸人さんとの間での事です。幸人さんの第三の異能枠がブランクじゃないですか?この際に埋めてしまいましょう。えへへ、ぐへ」イリスは淫蕩な表情を隠さず宣った。
「おいやめろ、真面目にやれ。見ろよ、僕らの敵が困惑の目で見つめてくるぞ、止めろ、救いの眼差しでさっきまで殺し合いをして、君に誓約成約で嘘を吐いたら死ぬようにして命を握っている僕に救いを求めるな!」幸人は賊である男の戸惑いの眼差しに困惑した。僕も困ってるんだよ!!
「あ、頼む。頼むからくだらない理由で死ぬのは嫌だ。きちんと有効に活用されて死にたい、せめての願いだが」賊の男の言い分は最もだ。思わず頷いてしまった。
「あ、そこはごめん。努力はする。スラップコメディの末に死ぬようにはしないと努力する」幸人はなんでさっきまで殺そうとしてきた男と通じ合ってしまったのか?これが分からない。
「ああー、もうそういうことを!良いですか?たまたま、ええ偶々です。タマタマだけに。ってそんな事はどうでもいいんですが。力の内容は、そうですねー、精巧な分身を創る。幸人さん自身の、です。これは使えると思いませんか?私の2つ目の異能である精密雁札、その天敵の幹雄くんの異片鑑定。保険は多いことに」限りますからイリスは最もな言い分を出したがもちろん下心は在るだろう。それを確認しないといけない。彼女は僕に嘘は吐けないのだ、契約上。
「その本音は?」僕、新庄幸人は訪ねた。彼女の契約の主としてである。
「私って、不貞、つまり他人棒を突っ込んだら死ぬじゃないですか?契約で。でも、でもですね?かと言って幸人さんの、その逸物を増やせ、なんて言えないわけですよ。契約の主の肉体改造、それは幸人さんの弱点を補う、労苦を解消するという方向性は変えられないんです。じゃあもう幸人さんが分身するしか無いじゃないですか?折角私三穴まで可能だと」イリスはこれで、正気である。このド変態クソ女は脳ミソの9割は性欲で満たされている。マジで。
「やめろ、合法的に、契約の穴を掻い潜って、全部の穴を通させるアイディアを思いつくな!そんなんならせめてミッキー相手に言いくるめる算段を立ててくれ」幸人は失言をした。そう言ったらこうなるのは流れで決まっていたのだ。
「はい、理解りました。私、簑笠府イリスが真行院幹雄君へ説得を担当します。私が主導で進めれるなら勝てます。彼の信頼と協力を勝ち取ると約束しましょう」イリスは勝ち誇った顔で予約した僕らの勝利を祝いだ。
「……あ、そうなんだ。ごめんね橋羽さんだっけ?多分この子、エロが賭けられてるなら絶対に勝つ娘だから。コメディだけど君らが多分何も触れなければ客観的にはシリアスで決着する。約束するよ」幸人は哀れな虜囚となった橋羽に同情した。
「……頼むぞ、マジで。俺は痴話喧嘩とか、エロコメディに出演するという死因は嫌だ」橋羽の言い分は幸人にはよく分かった。幸人も契約を結ぶまでこれはダークファンタジーだと思っていた。現実はエロコメディとは知りたくなかった身である。
「ふふふ、心配は要りませんよ。私にお任せを。確約された勝利を、同盟を幸人さんにプレゼントします」イリスは最上の笑顔で微笑んだ。なんでこの娘、普段この表情で笑わないのか?本当に残念でならない。
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「取引、か。これを見てくれ」幸人は自身のスマホを投げて寄越した。ストレージに入っている電子事典の第二次世界大戦の項目を開いて幹雄に手渡した。
「……これで二度目の、本来、と言うべきか?が起きた世界の歴史の流れということか?読んだ所疑問点は在るが、それ以外はあり得る、というのが新庄、お前が辿った世界の歴史への感想だな。それで一応聞いておきたいという確認したい。質問は良いか?」幹雄は突如知らされた架空の歴史に戸惑わずに逆に問い返してきた。
「良いか?僕を含む人間、個人を含めて全員が"大戦争以来、この規模に匹敵する戦争が起きていない"という認識だ。この世界を騙すのと、新庄お前の認識とこのストレージに在る電子辞書の記述を一致させるのとどちらかが手間がかかるのか?という疑問だ。これをどう思うか?聞きたいな」幹雄は痛いところをついてくる。
「つまり、僕の認識を操作してしまえば、この世界が一度歴史を変えられているという荒唐無稽な説を信じる必要はないと?」幸人は呻いた。まあ、確かにそう言うことになる。常識では。
そうだ、そうなのだ。新庄幸人は物語冒頭に異世界転生されかけたのだが、その際に新庄幸人はスマホを取り上げられている。その後、幸人を転生させようとした自称神から、他の人物(恐らくこれが何某という超越存在だろう)になった際にスマホは取り戻している。
だが、取り戻したからその前からの幸人の認識は触られていないと思いがちだが、その前提が覆っていないとは言いにくい。それを客観的に証明する、出来る人物は恐らく2020年まで会えないと言う謎の確信があったのだ。
「幹雄くん、それはあまりにも不誠実なのでは?二度目の戦争が起きた、この事に関しては本件とほぼ関係ないと思われます。何故なら十二奥家の没落は大戦争が関係しますので。そしてこの世界では二度目は回避されている、これは十二奥家のコントロールの賜物と言っても良いのですから。なので此処でこの電子事典の効能が発揮されるのは比較検討してから、だと思われます。ですから例えば……」イリスは考えるふりをして言った。
「比較検討?具体的には?」幹雄はイリスのブラフを受け取らなかった。だが、それはイリスには織り込み済みである。
「この辞典の記述にはこうあります。原爆実験が行われた、と。そして実戦投入が為されています、とも。でもそれは可笑しいんです。何故ならこの国の主要の発電所は9割以上が原子力なのですから。私達の歴史でも当然原爆実験は行われいます。ただし辞典とは違い米英主導ではなく、独逸主導でです。当然ですよね、二度目は起きてないから自国から逃げ出す必要性はない、ならば主導でやる国は独逸です。その辞典の記述は因果関係と矛盾しません。むしろ、原爆が実戦投入された歴史こそが、この国を放射能アレルギーに陥らせて、シーレーンという石油確保のための膨大なリソースを投入するという自縄自縛なおおよそ合理的でない、十二奥家に因ってコントロールされてない歴史の証左かと?如何ですか?」イリスはすらすらと架空の戦記を読んだかのように答えた。
「手厳しいな、今の中国に因る南下する軍事侵攻、本来ならと言うか新庄の歴史ではこの国は"それに抗議しなくてはいけない"。何故ならこの国は原子力発電所の稼働は唯一の原子爆弾の投下国として、自国で再び放射能被爆が合ってはいけないと言う面倒な輩が台頭して、原子炉を止めろなどと足を引っ張る展開はは大いにありそうだ。そうなると今の協力体制はあり得ない。新庄の事典では我が国と中国の関係は大変悪いらしい。こんな状況は僕でも変えたいと思うだろう。そしてそれは僕らのゲームには不必要なノイズだからな」幹雄は素直に自説の欠点を認めた。
「ええ、ですから"今現在の状況で、この国と中国の南下が協調体制で行われて事自体が証拠です"。こんなのあり得ない訳じゃないですか?二度目が起きていたら。なので此処で求められているのは各人のスタンスです」とイリスは一度言葉を切っていった。
「スタンス、か」幹雄はうんざりと言う風に答えた。
「十二奥家主催のこの戦争、乗るか、降りるか?です。ちなみに私は様子見です。早紀さんの動向をまだ把握していませんからね」イリスは腕を組んで顎を乗せながら言った。様になっている。
「苦しいな、正直どちらも負けそうだ」幹雄も頬杖を付きながら言った。
「ええ、はい。正直この戦争勝っても負けても十二奥家の勢力争いの代理戦争ですから。勝った側に肩入れしている勢力が取って代わって南の地を占領するでしょう」イリスはこの戦争が、陰謀ならば賭けにもならないと看破していた。
「敏いな、イリスくんは。正直余程勝ち組に乗れると思っているらしい。僕には答えを保留したい気持ちで堪らないのだが」幹雄はお手上げといった。
「いえ?私は十二奥家の陰謀など知ったことではありません。何故なら私の目的はあくまで"4つの塔の怪物"であるDeadEndの先ずは打倒。中国の南下戦略に関してはどっちでも勝者側の足を引っ張ると言うのが私の戦略です。如何です?幹雄くんも一口乗りませんか?」イリスは手を伸ばして握手を求めてきた。
「ふぅ、怖いな。10年前はただの病弱な少女と思っていたが、今では君が末恐ろしいよ」幹雄はその手を取りながら言った。
「何がでしょうか?」イリスはニッコリと微笑んで訪ねた。
「いや、新庄をあっさりと囲い込んだやり口と言い、今回の密談と言い、全部君の掌だったからね。それはそうと話が変わるが新庄良いか?」と幹雄は幸人に尋ねてきた。
「どうした?」
「スマホは返す。だが、壁紙と待ち受けに恋人の痴態を採用するのはどうかと思われるが?僕は口を閉ざすがね。見られたら困るぞ、特に早紀辺りにな」と幹雄はスマホを返しながら言った。
「ちょ!おま!!このド変態クソ女!なんでこんなのが待ち受けになってるんだ?作戦会議に貸した時に差し替えたな?なんで知己にこんな自分の裸体見せるように仕向ける?」幸人は真っ青になって設定を元に戻した。
「クソとはなんですか?私は"まだ"排泄物には手を出しておりませんし、これからも触れませんが?」イリスは居直った。
「反応する所そこかよ。ドスケベにもド淫乱にも、抵抗はないのね?」幸人はさめざめと泣きたい気分だった。
「本当に仲がいいな、お前ら」幹雄はため息を付きながら言った
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「如何でした?」イリスは"新庄幸人と合流してから言った"。
「凄いね、まさか分身体の僕が、あの幹雄の異片鑑定の目から逃れて、そのまま帰れるとは思わなかった」幸人は先程まで幹雄と会談していた己の新しい異能で作り出した、「異能生産と誓約成約と三重身、そしてこれ以降に得た異能を使えない以外は寸分違わない分身」を解除して言った。
「そうですね、勿論幸人さんの携帯の電子辞典、そこからの架空の歴史の存在、そして私の痴態、という三重の保険、デコイを用意したから、こその成果です。一度通った物を偽者とは思いにくいのは人の心理です。どうです?私に預けて正解だったでしょう?」イリスは横目で攻めような眼差しで非難してくるのだ。
「ああ、そうだね。恐れ入った。しかも恐ろしいのは君の欲望を叶える為に望むところでも在る異能の内容、と言うのが怖い。だが頼りにしてるよ」幸人はイリスの頭を撫でた。
「……子供扱い、やめてくれませんか?」イリスは大変不服そうだ。
「あれ???」この流れでなんでそんなことに?
乙女心は複雑怪奇である。




