半身1
半身1
「すまないな、賊を捕らえてくれて。しかも情報を吐かせるにも成功したと言うじゃないか、感謝する」真行院幹雄と、新庄幸人、簑笠府イリスは深夜のファミレスに居た。客は他に疎らにいる。
「いや実際には殆ど知らされてなかった下っ端だったけどね」幸人は事実を話した。感謝されるほどではなかった。
「十二奥家に連なると知れただけでも十分だ。異能も判明した。これ以上は望むまいと思う。……突っ込んで良いか?」幹雄は幸人を見ながら言った。
「何か?」新庄幸人はスルーして欲しかったなあ、と思った。察しろ。
「イリスくんと新庄は交際しているのか?」幹雄はイリスと再会してからの垢抜けたその時の彼女にたいへん驚いた、なのに今ではかつてのイリスの格好に戻った。となると疑いは一つである。誰がそうしろ言ったのか?と。
「な、なんで、匿って貰っているだけだって!そんなのは無いよ」幸人は全力ですっとぼけた。関係性がバレるのは不味い。
「まあまあ、新庄君。幹雄君は根拠もなく、こういう事を聞くことではないですね」というイリス。
「そうだな、イリス君からの直々に幸人の血筋を調べてくれと依頼を受けてそれを異片鑑定で調査したのは僕だからな。じゃあ、そんな依頼を出すのか?彼女は十二奥家の中心的な派閥に良い顔しながら、ラストゲームでは他を出し抜きたい訳だな」幹雄は説明を行った。
「十二奥家の目論見ってなんなのさ?」幸人は戦争の効能をイリスから知らされた。意義のある虐殺、である。哲学的ゾンビが現実のものである、と言う事はまあ理解ったが、それが知性というフィールドを越えた頭数の生命体が蔓延ればどうなるのか?効率良く人は死なねばならないのだ。だが、それを赦しては知性の放棄でもあると幸人は考える。
「12の家に、在るべき力をも取り戻す。さすれば彼らの権威もろとも家が復興する訳だな。100年の悲願達成というわけだ。
実際イリスくんは昼歩行者で盟主としての未来を勝ち取り、更には蓑笠府の、その前由来の天狗の蓑笠に近い異能を得た。
故に彼女は奥家の保守派の末席、と言う認識だろうが実際にはその中心に居るというわけだ。上手いことをやった、何せ不動天の北の極点を元の席に戻しながらも、十二奥家の改革派である"新しい家と力の組み合わせ"も同時に達成しているからな」幹雄は感服したよ、とイリスをベタ褒めして紅茶を飲んでいる。
「それで、改革派は人間の間引きとやらをやるのか?」幸人は幹雄に問うた。
「やるさ、それこそが十二奥家の存在意義だ。彼ら、彼女らは責任を放棄せずに、人間が、人間のままで、人の知性の堕とす影が伸び過ぎないように、慎重に歴史を紡ぐ。そこはイリス君が、早紀であっても、僕が勝者でも同じ結果になる。だが、僕は既に報酬を得ている。故に交渉が可能だ、幸人」と幹雄は真剣に見返してきた。覚悟は在るのか?と。
「真行院の家の力って、異片鑑定なのか?」幸人は問い返した。
「違うな、これは本来佐爾波の家が司るモノだ。とは言えお前も、もう知己だろうから言うが、あの何某と言う佐爾波家には本来僕らが血眼で追っている異能と全く関係がない。未来予知や、人を鑑定する、そんなモノに頼らず、やってのけている。本物の怪物だ。だからこそ僕も佐爾波家の力を横取りしながら改革派の様な顔をしながらも、実際には保守派にも良い顔が出来ている」と幹雄もイリスとは違う頭脳派プレイヤーのようだ。どちらかの陣営に与するのか?などという者ではなく、上手く灰色のラインで留まっている。では四ノ原早紀はどうなのか?
「ミッキーも人間を間引きしたいのか?」幸人は信頼する友人に問うた。
「僕には、そんなものには興味がない。好きにしろとも思う。そんな事をせずとも人は増えるだろうし、わざわざ減らさなくてもいい位には容易く死ぬ。だがな、僕にはどうしてもこのプレイヤーの席が欲しかったのさ」幹雄は遠い目をしていった。
「真行院家には17年前に子供が出来た。そしてほぼ同時期に分家の中でも血が薄い四ノ原家にも子供が生まれた。更に付け加えると12年前に真行院の家の或る者が僕にこう言ったのさ、"君には双子の妹が居たが死産した"と。また別の者はこうも言った、"君は四ノ原の子供の生まれた日と同じ"だとも。それから僕はずっと半身を探していた。
だが10年前に僕に四ノ原の娘との婚約が成立した。寒気がしたよ。何も知らなければどうなっていたのか?だが僕は子供で、相手は大人で、信憑性の高い調査を行える手段がなかった。僕が探しても、単なる偶然、欲しかった欺瞞情報、かも知れない」幹雄は呻くように幼い頃の感情を吐露した。
「だからこそ、僕が異能を与えられると知っていれば、欲しいスキル枠が一つだけであるならば、汎ゆる欺瞞を意も介さず真贋鑑定出来る異能を要求した、ということなのか?十二奥家の抗争も、全部後付だと?」幸人はその頃正気ではなかった。異能生産を得た直後であり、デメリットの重さを知らずに日を跨いでしまったのだ。だからといって許されることではないのではないか?と思ったのだ。
「ああ、そうだ。だからこそ僕は欲しいモノを得られた。代償としては賄える範囲だ。そこは共犯関係となるな、気にするな親友。僕もイリス君との関係がどの様にあっても気にしない。たとえ身体目当てだけだろうとしても気にしないとも」幹雄はニヤリと笑っていった。冗談ではなかった。
「ああ、もう!なんでこのド淫乱糞女との仲を黙認するんだ?親友じゃないだろそれ!」幸人は言った。
「ええ?なんですかそれ!私、お排泄物に関しては"まだ"全くのノータッチじゃないですか!」イリスも納得がいかないと文句を返した。
「ええ……反応するのそこなの?クソってのはWTFみたいな意味であって糞便の意味はなかったんだが。それで"まだ"っていずれかはヤるつもりなんじゃん……」幸人は改めてイリスにドン引きして呻いた。
「いえ、私も幸人さんがそうお望みであれば、の話でして。積極的に愛人の前で晒したいわけでは」イリスは自分の裸体を晒すのは気にも留めないが、淑女としては始末しない排泄物には抵抗があるのであるという謎の乙女の羞恥心である。これどうとでも言い逃れる無敵の文法じゃねーか、と幸人は思った。
「ハハハッ!いや良いんじゃないか?お似合いだよ、お前ら。好きにやってろ。どんだけ文句言ってていても"数"はこなしてるんだ。もう諦めろ!」幹雄は気分良くトンデモナイことを鑑定して言った。
「待てよ、回数とか見るなよ!そこは紳士協定の範囲内なのでは?」幸人は友人の前で羞恥プレイをしたいわけではない。出来れば恥をかき捨てれる範囲で収めたい。すなわち相対的ゾンビに見せる範囲では問題はないのだ。
「すまんな、見ようと思えば見れるんで、事前に警告とかでないタイプでな、僕の異片鑑定は」幹雄は藪突いてナニが出たのは自身の責任ではないと抗弁した。
「く、やはりこいつと来るんじゃなかった!」幸人は悪態をつきながらイリスの図太さに心底震えていた。
幹雄の相手の全てを調べる異能に対して、相手の調べる範囲に贋作を置かないイリスの周到さにもだ。
恐らくは性行為の回数の一致を幹雄は見たのだろう。そこまで見れるのは怖いが。だが、そこに偽情報を置いていない。いや置いていても改竄されたと思わせない程度に書き換えたことだ。
ここで不審を買い、幹雄の力で再び精査されては流石の簑笠府の力、天狗の蓑笠の本当の驚異も露見するだろう。
だが、ここでは欲しい情報以上のものを与えることで、更に掘ってまで穴の底の本物に辿り着かないようにしている。
イリスは力を得る前に幹雄に幸人と一緒に精査されている。本来はそんな必要はないのだ。新庄幸人は調べるまでもなく簑笠府の家に親しい血筋ではない。その直後に欺瞞情報を植える精密雁札を得ている。
彼女に時間の猶予がなかったというのも、疑われる要素を減らしている。たった一度の逢瀬で、肉体関係を結び、それを更に契約行為として、更に異能を重ねて得るとは思いにくい。
イリスは幹雄の見てない場面では幸人に「どうですか?」と言わんばかりに笑みを返す。幸人の懸念は全て吹き飛んだ。親友との諍いも、十二奥家の事情も、青少年の関係も、全部此処で、幹雄相手に通したことだ。
ちらちらとスカートの端を捲りあげて見せてくる。視界のギリギリで、見えてはいけないものが露出する。彼女の強心臓っぷりに舌を巻いた。いや、横紐は解くな。その紐は巻いておけ、いや本当に結んで居るタイプかよ。そういうのはファッションで解けない奴じゃねーのか?
いやこのドスケベド淫乱糞女が、そんな手間を惜しむようなドスケベではないのだ。本物である。解いたら、即座に再び完璧な結びを再現するまで習得するタイプだ。
幹雄は、一生涯恋人できないだろうな、と言うタイプの大人しいと思われた友人に、仮初であってもそういう関係者が出来たのは微笑ましいと思っていた。
簑笠府家と真行院家は懇意であったから、幼少期からの知己であったイリスにもいい関係だと思っている。だがそれ故に"この二人を巡り合わせた"、自身の婚約者の四ノ原早紀の意図が見えない。
幹雄の悲願である、自身が産まれた時の半身、双子の妹を探り当てる異能を得て、即座に異片鑑定で調べたかったのは早紀のことである。
彼女が産まれた日時、だけではまだ1つ目の偶然。彼女の血筋が四ノ原家の物でなければ2つ目の偶然、そして自身との遺伝子の一致率、これまで合えばもはや人為の物であろう。
そう言った幹雄に対して、四ノ原早紀はまるでその宣告を予測範囲内でした、言わんばかりにこう言って返したのだ。
「"お兄様"は心配性ですのね?一つの世代で近親婚が合ったとしても、誤差の範囲内なのでは有りません?」
「早紀、それは親の世代、祖父、曽祖父の世代までの交わりがなければ、の話だ」
「私の世界、未来ではそんなのは問題にも為りませんよ。何故なら」
「鏖殺しますので」と妹はそう断言したのだった。




