血と臓物幕間
血と臓物の幕間
「……台湾と、シンガポール、香港への中国の軍事侵攻ってッ?」新庄幸人は降って湧いた戦争は勃発したという凄惨なニュースをようやく吟味できる状況になった。自身の異能についても重要な事実が開陳されたが、それは一旦放置した。
何故なら妖しい目をした簑笠府イリスという幸人の一時の恋人(というかセフレ?)が握っている最重要機密なのだ。それを引き出すなら何かを突っ込まなければいけない。
これがボケへのカウンターとかであれば良いのだが、其処にはスラップスティックコメディ系とかであれば良いが、あいにくとどうやらこの物語はエロコメディらしい。R15すら生ぬるいR18レベルである。
幸人は自身の端末にある百科事典の起動と検索、そしてこの世界の歴史の検索と行ったり来たりで忙しい。悲しいことに幸人の徳操を犠牲にして得られた新しい端末が大活躍している。
「なんで?と思ったけど台湾と香港は地勢的、政治的に十分有り得るってのは理解できたけど、シンガポールが何故か?というのは僕の居た歴史ではここらは四小龍って一括りにされてるっぽいから何かの符号かな?しかしなんで韓国がハブにされてる?」幸人は独り言を呟く。
「幸人さん、カンコクってなんですか?」イリスは珍しく室内で"着衣して"暇をつぶしていたが、幸人の行動を注視していたのか"聞き慣れない単語"に思わず質問をしてきた。
またである。まずは今回の凶報である第三次世界大戦、に続くための前回の世界戦争である"第ニ次世界大戦をイリスは知らなかった"。そして韓国。この国は近代史において日本に住む人間が知らないはずがない。
イリスは黄色人種ではありえない類まれな容姿、アルビノの髪と眼球の虹彩、そして肌の色(だが在ったときとは違い、健康的な若干の日焼けしは肌に変わった)を持っているが、生まれも育ちも日本である。来日して間もない人間だとしても、彼女の知性で国際情勢にここまで疎いとは思えないのだ。
「えーと、朝鮮半島は知っている、かな?」幸人はまたしても背筋が凍る思いだったが、これ以上は話せないと思い、無難な言葉で切り抜けようとした。
「んー?もしかして幸人さんは、韓半島の事を仰ってますか?」イリスは即座に歴史にかつて存在した名称から適切な回答を行った、だがそれ故に更に幸人が混乱する羽目になった。
「え?え?と、韓半島?あ、そっか地名自体にはずっとそれが合ったのね、そうそうそっちね」幸人は自分の端末、今となっては元いた世界の歴史の証明出来る、唯一のデバイスになったスマホの百科事典からイリスの言った言葉を探し当てれた。そこでまた背筋が凍った。もう既に間違い探し成らぬ、世界探し、いや正解探しになった歴史クイズに震えながら答えれた。
「……幸人さん、一体どうしました?」イリスは愚鈍ではないから、幸人と出会ってまだ短いが彼の感情を拾えるくらいには深い情交を繰り返してきた。幸人にとってはスケベな少女の性欲のせいと思われがちだが、イリスにとっては他人を知る為に、距離をゼロ、もしくはマイナスにする行為を一次元的な解釈で行っていなかったのだ。
「……あ、もし、この世界が、僕の知る、いや違うな。この世界の住人でない新庄幸人だって僕が言ったら……イリスはどうする?」此処へ来てイリスから見放されることは幸人にとっては恐怖である。イリスは女性でありながら幸人との関係に幸人に一方的に責任を持たせるのを一度たりとも良しとしなかったのである。そんな彼女の寛容さえ超える事態に思えてきたのだ。
「何を言っているのです!?幸人さんがこの世界の住人でないとして、何故この世界特有の異能の、その大元を保って来て今まで過ごせたと思ってるんですか?有りえません!」イリスは断言した。
「良いですか?力に関しては多くはまだ開陳できないというか、説明が複雑で私でも確かな、全ての疑問を解決する言葉を知りません。ですが第一の前提として、この世界には宿痾としての厄災、その破壊の種子が根付いている、これを取り除けない。それ故に何某さんはこの世界を滅ぼそうとしてます。此処までは理解していると思って頂きたい」とイリスは何某という幸人の知己を出して説明した。
「何某さん、が僕の異能生産をたしかにこの世界の産物だと?」幸人は、何もかも超越した存在である魔人。確証はないが人外の存在を、そうだと認識するに足るまで何某の所業を見ている。
何某。その人物の自己紹介によれば、本名は、いやこの世界の仮の身分は『佐爾波鏡子』と言った。しかし、それを"何処で、何時聞いたか?"を幸人は思い出せない。この時点で異様である。記憶に有りながら、その記憶が時系列の何処に挟まるか?を認識できないのである。
そしてだが、新庄幸人が、異世界転生を果たす前に、"自称神との対話"を途中で打ち切って、乱入したのも此奴らしい、というのも何となくだが理解っている。これも何処で認識したのか?が幸人には分からないのだ。
何処かの、喫茶店、それもローカルのモノの何処かで話した記憶がある。だが其処へ再び行くには、今起きている「なにかのEnd」であるこれを越えなければいけないだろう。
「そして、幸人さんと私の異能を成立させる、契約は!世界を跨いでは成立させられません。それは私が今生きている事からも自明の理!では、それは成立前、から仕組まれているのです!」イリスは凛々しくも胸を張って言った。格好いい、イリスは格好がいいのだ。服のセンスではなくカッコイイである。
彼女の着衣しているパーカーが、短くなく、ファスナーもきちんと閉まっていれば、だが。大きく開かれた胸元と下半身に着けられたマイクロビキニが、イリスのカッコイイのすべてを台無しにしている。どうして此処まで服のセンスの方の格好良さがないのだろうか?布地が呆れるくらいに少なく、イリスが背筋を伸ばして立っているとそれだけでボトムから隠しきれない性器、陰核が出ている位に紐以外に表現の難しいエロ水着であった。これを恥ずかしげもなくリゾートビーチで着けてきていたのであるから彼女のエロさはどうしても幸人には残念で成らない。
「……?んんん?ビキニ?」幸人はイリスの頭の悪い、わかり易すぎるイヤラしい水着から直感的に、恐るべき事実にチェーンしてエピソード記憶が導き出されて気づいた。
幸人は、"この世界の歴史"を検索して、核実験を検索用語にしてその検索結果を知った。そう、第二次世界大戦、それは"初めて核爆弾が落とされた戦争"なのである。
"ビキニとは!"異世界に絶対にあって欲しい、スケベアイテムだが、その由来自体は人倫思想に染まっていると、難癖の標的にされるアイテムである。だが、其処には浪漫が詰まっているのである!と将来作家を目指す新庄幸人はココロの中で仮想クレーマーを粛清しながら思った。僕の世界ではビキニはファンタジー世界でもビキニである!と。
「あ、あった!こっちでもビキニ諸島で核実験はされてる!よし、この世界は僕の世界である!!僕の矜持はこれを認めた!!」幸人も大分イカれ始めている。恐らくはキャパオーバーに因るオーバーロードであろう。
「は、はあ?まあ幸人さんがこの、これで何かを取り戻されたなら、私も女冥利に尽きるというものですが?」とイリスは自身の下半身のマイクロビキニを眺めながら言った。我ながら見事なビキニブリッジであると、どうしてこれに幸人は欲情しないのか?とやや不満である。
「すると、もしかして、この歴史では、核技術に因るインフラとかに、アレルギーじみた抵抗感はないかも?あ、本当だこの歴史、日本に異常な数の原子力発電所が有る!」幸人は自身の閃きが的外れでないと識らされて、ちょっと自信が戻ってきた。
「ああ、はい。そうですね、そりゃうちの国もアホじゃないんですから、前もって石油産油国に頼り切った政策を斬るわけ無いじゃないですか?いえ、この場合幸人さんは、特異点みたいな感じですので……」イリスも此処へ来て新庄幸人というこの世界のイレギュラー存在としてのユニークさを思い出したのだ。
新庄幸人は、簑笠府イリスにとって、代替の効かない、最初にして最後の存在である。それは10年前の授業で何某、いや佐爾波鏡子が幻想ちゃんに伝えた秘奥の一つである。それをイリスも失念していた。
そして、その証拠は「新庄幸人は、"1日だけ時間遡行をしている"」という証拠で持って、簑笠府イリスは羞恥心を捨てて、処女を使ってこの男を篭絡したのであったのだ。今まで余りにもイリスの思惑通りだったので、彼が代えがたい存在なのを忘れかけていた。
「まさか、元の世界、いいえ、この場合歴史は"石油不足が大規模に起きて"ましたか?」イリスも敏い。歴史のifを即座に看破した。
「うん、原子力発電は石油不足を想定してたのに、とある事情で大規模にインフラ化しないで、中途半端な数しか記憶には無かった気がする……」幸人はこの世界が、とても頼もしく思えてきた。この国が、石油に因る火力発電で電力を賄うのであれば、シーレーン確保に多大なコストを支払わされるのは自明の理である。そこへ"もし"原子力発電への忌避感がなければ?と夢想したことがないといえば嘘になるしかもそのデメリットも確実に把握して注力して防いでいたとしたら?それは夢のような安定した電力供給になるだろう、となるとこの国は思ったよりも国力が強いかもしれないし、国際社会に対して強いかもしれないのだ。
「うん、まあ、それは酷い政治ですね」イリスは嘆息していった。放射能の危険性は当然である。地震の多い国である。そこで放射能が漏れ出たとしたら、放射能被爆がとんでもない事態を引き起こす。それならば石油の輸入は石油製品、もしくはついでに残った分を火力発電に回してバッファを確保するだろう、というのがまともな認識であろう。
「……、太平洋戦争が起きてない、これはこの国に原子爆弾は落とされていない、そして原子力発電はこの国に忌まわしい記憶を想起しない、となれば安定した電力供給が出来る。ならば今回の中国のシンガポール侵攻は、シーレン確保が困難という問題は最小化される……出来すぎている……」幸人は情報を整理した。
「僕の記憶ではアジアの経済的発展を遂げた3つの小龍を中国は抑えにかかった。これはどういう意味なのかな?韓半島は、多分世界大戦後に中国の支配を受けた?あ、そうだ。ロシアもしくは中国に翻弄されてろくに表舞台に出来てないでいる。南北に分かたれることもなくそのまま隣接した国の支配を受け続けている、だからカンコクは通じないんだ」幸人は頭を抱えながら言った。確か幸人の歴史では韓国は迷惑な隣人でったのだ。
「それは、おそらくメッセージかと思われます」イリスは断言した。
「それは何故そうだと言える?」幸人はイリスに根拠を尋ねた。
「何某さんは、幸人さんを含めて、3つの頭を持つ物に並々ならぬ執着を持っています。現に私が幸人さんを説得できなければ、そのまま幸人さんはこの世界から回収されたでしょう、そうしてこの世界から何某さんは二度とこの世界に興味を示すこともなく、そして滅びる道を辿ると思います。」
「なるほど、三小竜が成立するために、"首は一つ討伐された"と。これは紛れもなく、誤解、もないように僕らへのメッセージだということか……なんというか自体は壮大になってきたな……疲れた」幸人はバッタリとベッドに倒れ込んだ。
「おやすみなさい、しばらく休みましょうか?」イリスはそう言って幸人の横に座って頭を撫でてきた。
「一体何それ」幸人は苦笑しながらなすがままにされている。
「今回の事件は多分ですが、軍事演習からの軍事侵攻も驚いたと思われますが、恐らくは幸人さんが気に病むほどのことは無いと思われますよ」イリスは慈愛の目で幸人を励ます。何時もこんなのだと良いのに。幸人はちょっぴり残念だ。




