嚆矢2
嚆矢2
「ハロウィン楽しみと思いません?」簑笠府イリスは新庄幸人にそう尋ねた。幸人には嫌な予感がした。イリスの猫耳コスプレを披露されながら、のことである。イリスは凝り性のようで猫耳に猫しっぽと安っぽくない。しかも猫しっぽは動くのである。最初は嫌な予感がしていたがどうやらしっぽの根本が上に付いている、恐れた自体にはなら無さそうである。
「コスプレしてお菓子もらえるイベントのことかな?」幸人はそう恍けて言った。言った時点でオチが見えてきた。つまり、こいつのこの尻尾はまさか……という思いがこみ上げてきた。得てして悪い予感は当たるものである。
「イタズラ(性的)とお菓子(て)貰える、って、神イベントじゃないですか!!」イリスはこの通り、脳みそピンク。快楽を一日一回接種しないと死ぬ生き物である。彼女の猫娘コスプレの意図が見えてきた。しっぽの生えている位置には拘った。だがそれでは動力源を隠さなくてはいけない。ならば、それを収納できる場所と言ったら?となると答えは一つである。昨日はお試しという形で後ろにチャレンジした、と言うか強引にやらされたのである。イリスはとても可愛い、外見だけでなく内面も可愛いのだがこういうシモへの拘りには正直ウンザリしてもおかしくないが、そうはなってないのは、この彼女の一貫したブレない態度に好感が持てると最近幸人は思っている。
彼女は頭がいい、ブラフも上手い。そんな彼女だからこそ彼女との契約が重すぎることに関して罪悪感を消してくれている、という気遣いを感じるまで幸人とイリスは深く繋がり始めている。
だからこその次の凶報が本当にタイミングが悪かった。今日だけは何も起きて欲しくなかったのだ。穏やかな時間を過ごすというのも悪くない、後ろチャレンジの条件は一日幸人の思うがままに過ごす、というものであったのだ。
幸人の携帯に連絡が入る。「もしもしミッキー?」と答える。相手は真行院幹雄である。
「悪いな、今日もこんな夜遅くに、だが緊急事態になった。簑笠府君にも伝えて欲しい」と真行院幹雄は真剣に言った。
「具体的には?」幸人はここでスピーカーモードにしてイリスにも伝わるようにした。
「異能者が出た!Unknownだ!僕達の作った異能にない奴を街で徘徊していた!山乃原と沖ノ島には徴集を掛けて追跡の異能者に追って貰っている」幹雄の異能の異片鑑定は夜の見回りなどで、町を行く人らのスキル枠(悪人ほど多い)の変遷や、先程の異能の把握していないものを無いか?と言うのを警戒している。
なにしろ、相手は何某という魔人であり、その何某の言う言葉通りなら、異能生産は新庄幸人唯一人のはずだ。彼を押さえれば、未知の異能が出現するという制御不能自体には陥らない筈だ、だが。未来予知は為されている。そして幸人とイリスはお互いに降りかかる災厄の到来を託宣として、受け取っている。この事が示すのはあの魔人がそんな生易しい事を許さない。必ず幹雄の監視も実らず、異能によって世界が滅ぶDEAD ENDが来るのである。では此方がどう動いても良いように何らかのトラップを予め仕組んでいたのだろうか?と思われたのだ。
それを聞いた瞬間にイリスは幸人の側に駆け寄り、幸人へ向かってイリスの第2の異能である精密雁札を使用した。
精密雁札は情報を隠蔽するのに特化したスキルだが、隠蔽する際に隠蔽したい事柄を正確に把握して、そこから改竄を行えるのだ。このプロセスを経た後に精巧な偽情報を構築できないのだ。
イリスが初めてこの能力を使用した際に「幸人のスキル枠が3つ」と言ったのはこれが理由である。
「嘘、幸人さんが私の知らない異能を作ってるログがあります」イリスは真っ青な顔で言った。何故ならイリスが何時も側に侍っていたからだ。そんなスキは無かった筈だ。
「マジで?どうする?隠蔽する?」幸人は念のために尋ねた。
「それはどうでしょうか?幹雄くんの異能が見た時に。このログが精巧な虚偽の情報と判明した時に不味いことになりかねません、なのでこのままログは手を加えません。正直にリークしましょう」イリスはそこで退いた。
「しかし、なんで僕の記憶にない異能が生産された?」幸人はわからない。
「……幸人さん、今までに作った異能の効果の詳細を教えていただきますか?」イリスは尋ねてきた。
「分かった、じゃあ……」と幸人は全ての異能を説明した。昼歩行者は作ってないので除外されている。
それらを聞いてイリスは頭を巡らす。候補は幾つかあった。が、足りないパーツが多い。
その人物はそれが可能であった、また別の人物も可能であった。彼らが全員グル、単独犯、など無数に想定が可能であり埒が明かないのだ。
「埒が明きませんね、では幸人さん。さっき教えてもらった異能の効果範囲をお聞きしていいですか?」イリスはこのホテルの部屋が他のビルに比べてかなりの高階層だということに気づいた。それで射程範囲を絞りきれると考えたのだ。このホテルに並ぶ高さの建築物はそうそうはない。
「ああ、じゃあそこも説明するね」と幸人は各異能の射程範囲を説明した。
イリスはそれを聞いて頭をフル回転させる。どの組合せがこんな芸当を可能にするのか?
当日の、異能生産が不法に使用された時刻の人物配置から、その組み合わせを考えていく。
「梓梢」イリスは、そのマスターピースを見つけ出した。イリスの忠実な侍従。彼女しかありえないと。
「梓さんが?それは流石にないのでは?」と幸人は言うが。
「いえ、彼女しか考えにくい。何故なら容疑者の能力の射程範囲がどれも短いんですよ、外部犯だとすると。私と一緒に居た幸人さんに最も近づけたのは私と、梢のみ。そして幸人さんが自覚なしに異能生産を行使したのであれば、梢も自覚なしに加担したと。そう考えるのが筋かと思われます。幸人さんを操れたなら、他の人物も操れた。ですが、相手は私のホテルを乗っ取れなかったとすると限定的な物と思えてきます。これならたった二人だけで済みます。候補者は更に広げられます。いえ逆ですね。ほぼ絞れるかと思います」
「……なるほど、筋は通ってるね」幸人は認めた。たしかにこのホテルのこの階層に届く、異能と、場所がそうは無いのである。その距離を埋めるにはこのホテルを自由に闊歩できる内通者を作り上げる、その後に幸人へターゲットを移すのだ。これであればこのホテルの最高層の部屋だろうとお構いなしだ。
「梢を呼び出します」イリスは宣言した。
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「ごめんね、梓さん。一応拘束させていただきます」と幸人は言った。
「構いません」梓はそう言った。
「梓さんにも自覚して異能を受け取っては居ない?」と幸人は尋ねたのだ。
「はい、話によれば"異能を使ったら、使ったという自覚、自動起動した"というのを認識できるはずです」と梓はそういった。たしかにそうなのである。
幸人は其処が気になっている。考えたくないが一応「他人を操作する異能」の持ち主に心あたりがあるのである。沖ノ島のネクロマンシーである。
「嘘、そんなのって」イリスは精密雁札(Supernote)で梓のログを見ていた。改ざんする、隠蔽する気はないので、その人物の情報を精査しているだけであるがだがそれだけで彼女の驚愕には十分だったらしい。
「何か在ったの?」幸人は彼女の声色が困惑にあふれているように聞こえた、実際に彼女が言った言葉に度肝を抜かれる羽目になった。
「幸人さんから、授かったのは「もう一つの異能生産」、そして「梓はそのまま第三者にも異能生産が付与させています!しかも、今の梓は異能を所持していません!3人目が作った異能で奪われているとしか思えません!これでは第三者の足取りが終えません!」悲鳴のような報告を上げるイリス。
「つまり、2人目の異能生産までしか辿れないってことか!?」幸人はうめいた。
遂に終わりの始まりがやってきたのだ。




