幕間3 幻想少女と鏖殺少女
幕間3 幻想少女と鏖殺少女1
簑笠府イリスの実家の街にある、とある品の良い喫茶店。そこでイリスと四ノ原早紀が会っていた。朝方に会いに来たいという話だ。
本来ならば朝から簑笠府家のプライベートビーチで幸人と、野外の開放的なシチュで色々秘事をしようかな、と思った矢先である。一抹の不安を感じざるをえない。
「ごめんなさい、イリスさん。帰省中に呼び出してしまって。どうしても聞きたいことが在って、ね?」四ノ原早紀は申し訳ないという表情で言った。
「いえいえ、此方こそわざわざ私の実家の近くまでにご足労いただき申し訳ありません。早紀さんの聞きたいことってなんですか?」イリスは鉄面皮のごとくすっとぼけている。何を聞きたいのか分からない、と言いたげだ。
「新庄君の行方をご存知ですか?どうやら実家には当分の間戻っていないようです。"貴女と在った後辺りから"」早紀は突如核心を突いてきた。
「ほう、新庄さんの行方が知れないと?」イリスはいきなり急所を突いてきた。が、イリスも負けては居ない。表情は変わらない。目で情報を察せられないように、目を伏せながらお茶を飲む。
「彼には、うちのホテルの一室を無償で提供しています。元々彼は実家で実母との折り合いが悪く、居づらさそうなのと、彼は貴重な異能使いの中ではもっとも重要な方、セキュリティーの万全なうちで匿うことにしました。ので心配はご無用です」イリスは全てを開示できないが真実と嘘を混ぜて情報公開した。その方が既に相手に裏を取られていたら答えに瀕する羽目になる。
「ああ、そうでしたか。でもイリスさんが帰省中はどうしてますか?」早紀は追及の手を緩めない。
「部屋に居るか?彼も帰省中か?聞いてみてはどうですか?」イリスはいけしゃあしゃあと言ってのけた。彼は今簑笠府家のプライベートビーチの宿所に滞在している。
「そういう事でしたら、安心しました。ところで」四ノ原早紀はここで嫌なことを突いてくるというのはイリスにも理解っていた。
「イリスさんは新庄君のことどう思ってますか?彼は女性にとって優しい良い人と思いますが?」早紀は、イリスと幸人の関係を知っていそうな口ぶりだが。
「まさか、早紀さん。彼は確かに良い男性です。不良でも粗暴でもない。ですがその良い人ってのは"優しさではなく自身の精神面の弱さからくるもの、接触が怖いのに他者を尊重して、触らないという大義名分を笠に着る、そんな紳士モドキ"にすぎませんよ。異性としての魅力は優しさ、と言う文言を文字通り受け取ってその裏を知り得ない、そんな無智で無邪気な方ではないですか?早紀さんもそう思いではありませんか?」イリスはそれを叩き落とした。
「ええ、それではイリスさんは新庄君を異性としては見ていないと?」早紀は念を押してきた。が、先程のイリスの言葉を受け止めている様子である。イリスの言葉は早紀の内心を透かし見たものであるのだ。
「ええ。私も女性ですから、やはり殿方は頼りになる方が魅力的ですよ。私の期待通りのリードしてくれる、そんな知的で年上の、尊敬できる人が良いですよ」イリスは表情を崩さず淡々と言ってのけた。尊敬できるとは所謂万能の言い訳である。これを唱えたら、それはそういうことなのだ、と。
「申し訳ありません。私はイリスを侮っていたようです。きちんとフラットな感覚で人付き合いができるかと言うのが理解できました」四ノ原早紀はそう言うと納得したようでそのまま席を立って伝票を持っていった。
「払いは私におまかせを」早紀はそのまま精算を行った。
「では、早紀さんにはご馳走になりますね」イリスは笑って早紀と別れた。
ここまで鉄面皮を通したイリスだが、四ノ原早紀が店を出ていった後に、突如テーブルに突っ伏して発作に喘ぐ羽目になった。
イリスにできたのは注文していた食べかけのスイーツの上に顔面から突っ伏して倒れ込まずに踏ん張って避けてテーブルに額を叩きつけた、くらいである。
まさか、早紀に納得してもらえる返答をしただけなのに、実際には心にも思ってない、その言動が幸人への背任と判断されたようで、胸を襲う苦しみに脂汗が出てきて四肢に力が入らない。
イリスは幸人に半ば強姦されて(もちろん仕向けたのはイリスである)破瓜した、犯される(オカ)という苦しみに耐えきったが、それは悦びを伴う激痛であり、イリスには何の躊躇いもなかった。それが下半身に鉄棒を捩じ込まれるが如き、と形容するなら、現在の無敵の契約を破過、冒涜したモノは口から排泄口へと串刺しにされて磔にされているに等しい。前者は捩じ込まれる股を裂かれるのを味わう余裕があったが、後者は一向に引き抜かれもしないし、四肢が動かないといえよう。
困ったことに救援を頼みたいが、携帯端末を持つ握力も入らない。
誓約成約は。イリスと幸人の結合組織を利用して、"混ぜた"モノで作られた、首枷である。
見た目はオシャレな装身具のチョーカーだが、コレには副次的に契約を結んだ相手が翻意を起こした場合など、遠隔で「契約を打ち切る」などということも可能である。
ただし何でも解決するということはなく、人間の重要な臓器である、脳、心臓、腹膜内の臓器、や人間の急所をこれで掌握することで契約は成り立つ。
例えば、イリスと幸人の契約は「胎内の子宮」に接触することがトリガーになった。
次の段階は、その契約の更新を簡略化するために、幸人とイリスの結合組織を混ぜて創ったものだ。
これにより、イリスは自身の体の延長と行うと同時に、幸人はその延長されたイリスの肉体との距離をゼロ、もしくはマイナスということを実現した。
この抜け道は将来的に不慮の事故でイリスが無敵を失った場合に遠隔で対応できる用に、というのが幸人の判断である。
この幸人の配慮に、イリスは彼への彼からの恋心を、それがイリスの一方的な錯覚としても感じつつ在った。
不誠実な人間は、守れない言葉を吐く。
誠実な人間は、守ると決めた言葉を吐く。
新庄幸人は明らかに後者だ。それに愛おしさを感じて何が悪い。と言うのがイリスの言い分だ。
参った。間違いなく、これはイリスの心臓の発作だ。無敵は死の打ち消しを行うものではなく、先送りにするものだ、と言いたげな仕打ちである。
ということは心にもない事を言ったこと、それだけで契約が破棄された、この契約は破るものを楽にしてくれないようだ。
イリスが苦痛と四肢の麻痺に往生していると天からの声をかけられた。
「イリス、今治すね?」と幸人が突然現れた。どうやら、梓梢が気を利かしてくれたらしい。
「ごめんね、今のは心にもないことだから……」イリスは誓約成約によって応急処置的に無敵の死を乗り越える異能を取り戻した。
「理解ってる。君が心で何とも思ってない相手に股を開く女じゃないのは僕が一番痛感している」幸人はイリスの重すぎる期待と執着と好意を向けられているのを気づかないほど鈍くも愚かではない。
「あ、ありがとう」イリスは感激していったが。
「かと言って傷ついていないわけではない」とピシャリと冷水を投げかけた。
イリスはこれには苦笑することになった。間違いなく、お仕置き案件には違いないのだ。これはもう懇願するしかありませんね、と苦笑した。どうやって彼が私にまたこの関係性を延長させるのか?という難問である。




