切り捨て
真行院は荒田耕三の父である、庄市の部屋に来ていた。
庄市はかねてより、息子の耕三の行き過ぎた行為に頭を悩ませていた。今回の殺害未遂には顔を真っ青にしていた。橋梁より落とされたクラスメイトがトラックに轢かれて死体を残さずに消えたのである。
まずは運転手に口止め料を支払い、そして見張りを付けた。そして事故を隠蔽するためにバラバラのミンチ死体を夜通し探していたのである。真行院もその作業に参加していたのである。
「幸いと言ってはなんですが、被害者と思わしき新庄幸人は無傷で生きていました。が、若が新庄ではない人間を攫って、橋梁から突き落とし、殺害した。というのは若に同行していた者がいずれは漏らすでしょう」
「なんで耕三はあんなんになってしまったんだ」世襲制の政治家の庄市は己の基盤を子供に渡すつもりだったが、上級市民と揶揄されるような特権階級に近い存在であったが、かと言って警察の捜査を止めるような事はそう何度も出来ない。過去に耕三は似たようなイジメと言われる傷害事件で何度かもみ消してはいるのだ。今度はそれが出来る一線を越えてしまっている。
「甘やかしすぎたのでしょう、もう手がつけられません。今頃厳しくしても若に我慢はできないでしょう。殴り返さない人間を虐待するのは中毒性が有ると聞きます」
「……どうしろというのだ!!」
「僕に当てが在ります。絶対に足がつかない殺し、そんな物があるとしたらお館様はどうなさいますか?」
「ほう、聞かせてもらおうか?」
「説明は省きます」
「なぜ隠す?」
「被害者が生きていた、おかしいと思いませんか?あの血は彼のものです。ですが生きていたから別人のものとされている。これは常識の範疇にはない事例です。そしてこの『生きていた』をもう一度やります。これをお館様には覚悟を決めて欲しい、もうあのバカ息子の犯罪の隠蔽を続けるのか?もう切るか?です」
「……今は正直、そんな夢みたいなことが出来るなら乗りたい気分だよ」
「それでよろしいかと。まだ庇うつもりならこの家のお付きを辞めて出ていくつもりでした」
「構わん。"穏当に済むならやってしまえ"。耕三はもう切る。妹の友里恵の婿に希望を託す」
「では、明日には報告が出来ると思います」真行院幹雄はそういって退出した。
「幹雄さん、どうやってあの若を大人しくさせるんです?」部屋を出た所で、四ノ原早紀が声をかけてきた。
「四ノ原か、お前オカルトに興味はないか?」
「興味は在りますが当事者にはなりたくないですね」
「まっとうな神経が有って助かるよ」
四ノ原は真行院の許嫁である。そして真行院のサポートを主に行ってくれている。四ノ原も荒田の三代目の耕三を毛嫌いしている。
「でも、あの問題児をどうにかする場面に居合わせられないのは惜しいので、バラすなら参加はしたいですね」
「悪趣味め」そう言いながら真行院幹雄は四ノ原早紀をとても気に入っている。