十二奥家、旧家、簑笠府の家2
仮案
「私は夢が叶ったら、クランメンバーのみんなでプールへ行って遊びたい。日焼けというものをしてみたい」簑笠府イリスの、日の下で生きられなかった少女の夢だ。病的な白い肌を焼く、それだけを希う、そんなものでいいのだと。
「それをを歪んだ形とは言え、実現させたことには責任が生じる」新庄幸人はイリスに言った。幸人は親友の幹雄にメンバーのスケジュールの確認をして日程を決めさせた。一応は彼はチームリーダーである。
馬鹿じゃないのか?イリスは正直そう思った。
不可抗力である。イリスは彼が善良で良識が在ると知った瞬間に、熟考する暇も与えずに決断させた。これは簑笠府イリスという幻想少女の咎である。
馬鹿じゃないのか?イリスは何度もそうココロの中で罵りながら、罪悪感で押し潰されそうになりながらもスケジュールが決まってからそれが待ち遠してくて、嬉しくて堪らないのが嫌になった。
浅ましい。ならば、出来ることは幸人が、善良で勇気を出した彼が心軽やかに生きていけるように取り計らう。その過程で道を違えても気にしまい。
そうと決心したはずなのに。心はもっと要求を求めてしまう。
理性的に考えれば「日の下に出ても、そうでなくとも心臓の発作でも死なない」これ以上を求めてはいけないのだ。既に発作は幸人から授かった異能によって数回越えてきている。
発作は昏倒するレベルで、即死ではないが、それを無効化したのを確認できた。
これは本当に夢だ。叶ったなら、そこで満足するべきだ、心が、理性が警鐘を鳴らす。強欲の行き着く先に望む未来が在るのか?
本来新庄幸人も、簑笠府イリスも、これからの未来に生きた痕跡は残らない。幸人は真行院幹雄と四ノ原早紀が結ばれた先で「そういえばそういう奴が居たな」程度で終わるのだろう。
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簑笠府イリスに囁いた魔人、何某と自称する存在は、はっきりと言った。
「世界を滅ぼす。これはとても簡単だよ。未来を綴れない存在が生き残る、それが結ばれる。これだけで世界は終わる。何故なら」何某はニヤニヤと笑みを浮かべながら告げる。
「何故なら?」幻想ちゃんは問うた。その先を。
「存在を否定された者達が、その子孫が、限られた世界に、歴史に、未来に割り込む。それだけで保証された側はそれが耐え難い苦しみを生む。世界に異物が割り込むんだよ?二ツの首はお互いを食い合う訳だ」何某は相変わらず嘲笑っているが、その目は一切笑んでいない。
「どうして、者達、なのですか?」幻想ちゃんは問うた。世界に、人間に拒絶されるのは辛いと。
「何処かには居るから。共存を望む愚者が。充てがわれた者を奪う、そうしてドミノ倒しに全てを焼き尽くすよりは。何処かで歴史の先住者との断絶された、安住の地、隙間の何処か。常若の国が」何某は懐かしむように述べた。
「そんな都合のいい事を誰が?」幻想ちゃんは問うた。そんな夢物語を本気で言うやつが居るのだろうか?
「まあ、見逃さないことだ。兆しは一度だけ。1日の猶予しかない。くくく、まあ適当に聞き流してくれよ」何某は其処でようやく本当に笑んだ。まるで慈悲深い偉大なもの。実際に偉大なのだろう、光り輝くナニかの殿堂。それが彼らだ。
「与太話でしたか」幻想ちゃんはそう言って録音機を止めた。
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その収録から10年経った。あれは今のことを言っていたと理解る。その名を新庄幸人という。何故あんなログを持っている人物が居るのか?疑う余地もない兆しであったのだ。
では、イリスがやるべきことは一つだけ、新庄幸人の側に並ぶことを示さなければいけない。鏡の前で着ていく水着の比較をして、イリスが着たい、選びたい水着を侍従の梓梢に預けて、大人しい常識的な水着を試着してみるのだ。
「大変お似合いで御座います、御嬢様」梓梢ははじめてそうやって言葉を述べた。梓はこの簑笠府グループの所有する物件、このホテルの管理最高責任者である。イリスがこのホテルに男を連れ込んで性行為に耽るのにも文句を言っていないが、改めてくれるなら自身が仕える家の後継者が大人しくなるならそれが望ましい。実際に手渡された水着の布面積の少なさに眉をひそめた。
「そう?梢には今まで私の行動を見逃して貰ったからね、少しは私も気にかけていたのよ」とイリスは競泳水着を着て、ポーズを取っている。
「梢、プライベートビーチの手配をして。そこに行くのにその水着を使いますので」イリスはそういった。
「お嬢様、諦めたのではないのですか?」梢は詰問した。
「もちろん諦めるわけがないでしょう」イリスは言い切った。
彼女の言い分はわかる。
だが、先日の託宣で、秋には、イリスと幸人の運命に先塞がる4つの終わりの災厄、その一つが来る。そこで死んでは後悔が先に立たないだろう。




